第三話「恋の始まり」
治樹が病院に行く回数は少なくなったが、診察はまだ続いていた。
「薬を変えましょう」
加藤先生に告げられた言葉があまりにも夢のようだった。
「それって…?」
「新型の薬を飲ませますね。二週間後にまた来てください」
「分かりました」
「新型の薬は肺の機能を回復させる効果がありますので、いいチャンスだと思います」
「そうですね。加藤先生、ありがとうございました」
「どういたしまして。必ず完治しますよ」
「本当にありがとうございます」
加藤先生に深くお辞儀をし、診察室から出ていった。
「どうでしたか?」
「あっ恵さん。先生から新型の薬を飲ませると言ってくれました。肺の機能を回復させる効果があるので」
「そうですか。良かったですね」
「ええっ本当に」
「では行きましょうか」
「はい!」
(このまま仲良くしたいが、まだまだ無理だな…)
治樹は密かにそう思った。家族と恵の支えがある限り、今は強く生きられる。
(本当は治樹さんと仲良くしたいけど、迷惑だよね?)
お互い相手に好意を寄せているが、なかなかうまくいかない。
「治樹さん、あの…会面はいつからですか?」
「3時からです。弟が会いに来てくれるんです」
「そうですか。良かったですね」
「兄さん!大丈夫なの?」
「うん、今のところは平気だ」
治樹の弟・裕志。高二。クラスの人気者で、好きな人がいるらしい。名前は中村美香と言って、何か裏があって、暗い性格をしている。
「美香ちゃんとどう?」
「うん、うまくいってるよ」
最近、席が隣同士になったらしい。それが何より嬉しかったと裕志は言った。
「そっか。良かったな」
「兄さんのほうこそ、うまく行ってる?」
「うん、なんとかね」
「そっか。お互い頑張ろうな!」
「ああっありがとう」
「治樹さんの弟さんですね?いつもお世話になっています。世話係の恵と申します」
「橋本裕志と申します。いつも兄がお世話になってます。どうもありがとうございます」
裕志は恵に深くお辞儀をした。
「そんな…!私は何もしてません。ただ治樹さんのサポートをしているだけですから」
「そうですか。でも恵さんのおかげで、兄はかなり明るくなりました」
「そうなんですか?良かったです」
ニコッと優しく微笑んだ恵を治樹はドキッと心が強く弾んだ。
(もしかして、俺は…好きになったのか?)
「治樹さん?どうかしましたか?」
惠に聞かれ、ハッと我を振り返った。
「いっいえ、何も…」
(あまり意識していなかったが、この気持ちがもし本当なら…)
「兄さん、じゃあ俺はもう行くから、父さんと母さんにも元気だって伝えておくよ!」
「うん、またな!」
裕志の見送りをした後、恵さんと散歩をしていた。
「恵さんに兄弟っていますか?」
「いいえ、私は一人っ子です。だから、両親に昔から可愛がられていました」
「そうですか。それはいいですね」
「あの…治樹さんってこうして誰かと話したことはありますか?」
「え?」
この質問の意味は一体何を示してるのか?少しは見当たる。恋だ。
「ありません。なので、この時間を大切にしてるんです」
ポッと恵は顔を少し赤く染めた。
(え?この言葉に特に意味はないっていうのに…なんで?)
(恵さん…分かってくれるかな?)
二人はそれぞれの思いで、相手を見つめ合った。
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