第四章「愛慕の証」

「テル様…」

(傷だらけになった体に血だらけになった顔。その過酷な痛みに耐えるテル。

 嘆き叫ぶことを耐え、必死に戦った。失明しそうになった両目を隠し、オロオロとお城に戻った彼の姿を発見した医師は、すぐ手当てをした。

失明しそうな状態で、一年、二年、三年…何年もの月日を過ぎ、ようやく百年を過ぎた途端に、光を取り戻した。)

それが天の神様がテルに対する過酷で残酷な罰だった…。

「クリス?」

「あっテル様…!!えっと、あの…」

涙目になったクリスを見たテルは、クリスの背中の薔薇の刻印にそっと優しくキスをした。

「ッ…!!」

赤く熱くなった薔薇の刻印。

(この刻印は、俺たち吸血鬼の嫁である証だ)

(そうなんですね。だから、この証は…)

「クリス」

「はい、なんでしょうか?」

「ひとつ…お願いがある」

「?」


二人がやって来たのは、人間界。訪れた場所は、人間になった銀と天満の一軒家だった。

「クリス!また会えたね!」

「そうだね!」

「高校生なんでしょ?学校は?」

「今は春休みなの!」

「学校か。私も行きたいな…」

(クリス…)

「天満って今何年生?」

「二年生だよ!もうすぐ三年生!」

「大学は行きたいのか?」

「行きたくないなー!」

「なんで?」

銀が突然声を出した。

「うーん。お金ないから!」

「高校ってどんな感じ?」

「うーん。どんな感じって…?意外とにぎやかで、楽しくて、明るいけど、闇もある場所かな」

(闇の場所って…。魔界よりは酷くないよな?)

(そうですね。テル様)

テルとクリスは苦笑いをしながら見つめ合った。


「天満。お腹空いた」

「あっはーい。今、ご飯を作りますね!」

(この二人…夫婦になるから、二人暮らしは当たり前か…)

「銀様?どうかしましたか?今日のご飯はそんなにおいしくないんですか?」

「いや、そういうことではない」

「天満。俺の嫁になって嬉しいか?」

「嬉しいというより、感動しました」

「天満?」

「クリスとテル様はご存じないかもしれませんが、実はうちの両親が他界した後、すぐ銀様が引き取ってくれたんです。その時はお金がなくて、学校をやめようと思っていましたが、銀様から『まだやめるな。君の未来はまだ輝いている。こんな可愛くて愛しい花嫁を失うわけにはいかないよ』と言ってくれたんです。その言葉に救われて、銀様が人間の姿にまでなって、今でも私のためにお仕事をしています。私は、銀様に相応しい花嫁になれるように、銀様のお母様に料理や魔界のこと…色々学んでいます」

「なるほど」

「そうなんだね…。なんか切なく感じるけど感動した」

「銀様、長生きして下さいね!」

「ああっ。天満もな!」

「私は人間ですから、長生きする前に、銀様よりも先に亡くなりますよ?」

「そうだな。その前に子どもでもできたらいいな!」

「!!…銀様!」

「こーら。いちゃいちゃするな!」

「いいじゃないですか?テル様!」

今までにない明るい雰囲気がしばらく漂った。


晩ご飯を済ませた後、銀と天満の見送りで、テルとクリスは魔界に戻った。


「テル様…?」

「クリス」

「あっあの…天満と銀様、良かったですね」

「そうだな」

「クリスは…その…学校行きたいって思うか?」

「魔界に学校ってあるんですか?」

「それが…ないんだ」

「そうですか…。学校行きたいな」

「クリス…」

(すまない。君を…奪ってしまって…)

「どうしたんですか?」

「い…いや何もない」

(わざと聞こえなかったのか?それとも…)


(テル様に隠してることがまだあったわ。そのことは教えないと!)


翌日。

(学校に行けないんだ。友達…天満しかいない)


「テル様!」

慌ただしく出かけるテルを見かけた。


「どうしよ…」


(辛い…)


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