遅刻大国「日本」の爆誕

ちびまるフォイ

チリも積もれば、ヒーローになる

『日本のみなさん……この声が聞こえますか……。

 私は神です。日本のみなさんはあまりに時間にきっちりしすぎて

 日々の変化や小さな幸せを見落としています』


しかし、ありがた~い神の言葉もみんなスマホ見てイヤホンしてるので届かない。

神様はツイッターで報告することにした。



めっちゃリツイートされて浸透した。


『日本のみなさんは遅刻するほどに強くなるようにしました。

 その効果はすぐにわかるでしょう』


神様の言葉はそれきりだった。

それからは矢継ぎ早にやってくる転生希望者をフンコロガシに転生させる業務に戻る。


「ごっめ~~ん、待ったぁ?」


とあるカップル。

遅刻してやってきた彼女はムキムキになっていた。


「だれ!?」


「やだなぁ、さとしくん。私だよ、わ・た・し」


遅刻した彼女は彼氏の目の前で鉄板で折り鶴を作ってしまった。


「これからは、私がさとしくんを守るね♪」


「怖いよ!!」


最初は身を守るために強くなる、という名目で遅刻する女性が強くなり

最初は時間を守っていた男たちも筋肉に魅せられ遅刻するようになった。


いまでは、スーツを着てメガネをかけて、

ハンカチで汗を拭きながら電話を片手に頭を下げる。


そんな昔ながらの日本人のイメージとは程遠く、

海外のダウンタウンの不良たちをもしのぐ貫録を手にする種族になった。


「じゃ、じゃぱにーず、いず、くれいじー……!」


テラフォーマーズもびっくりのメガ進化を遂げた日本人だったが、

それでもまだ時間を守っている人もいた。


「え、お前、1時間も前に来てるの?」


「うん……なんか、待たせちゃうとすごく申し訳なくて……」


「それは勝手だけど……。なんか痩せてね?」


「そ、そう?」


遅刻すれば強くなる。

では、時間より前に来てしまったらどうなるか。


誰も考えていなかった変化は徐々に日本人の体を蝕み始めた。


『ただいま、日本人を襲っている、5分前行動による体の脆弱化は

 国家問題とまで発展し、時間通りに行うことを禁止する法令も検討されています!』


これまでキッチリしてきた日本人。

その正確無比さが褒められていた日本人。


そんな遅刻初心者の日本が遅刻しまくれるかと言えばそんなことはなく、

一部の常習犯を除いて、遅刻人口はまたいつも通りに戻ってしまった。


時間前に来るのは当たり前。


神の力をもってしても日本人の遅刻ならぬ「早刻」は治らなかった。

早刻すればするほど、体は弱まっていく。


「日本のみなさん、体のために毎日5分の遅刻をしてください!!」


そんな1日の野菜摂取量みたいなことを言われても、


「し、しかし、取引先に遅刻するわけには……!」

「遅刻が一定回数超えると、単位がもらえなくなる……!」

「今のカレに遅刻して悪く思われたくない……!」


生真面目な人たちは遅刻しなかった。

多少体が弱まったとしてもなんとかなると思っていた。



「ヒャッハーー!! なんだこのゴボウみたいな人間は!!」



そこにやってきたのは神様の手違い(笑)で異世界からやってきた悪人たち。

皮肉なことに、虚弱化した人たちはあっさりと子悪人どもに負けてしまう。


遅刻して多少体が出来上がっている人が立ちふさがっても……。


「なんだァ? それだけの遅刻かァ?

 こちとら遅刻のグレードが違うんだよ!」


あっという間に倒されてしまう。

遅刻すると言っても所詮は付け焼刃。


筋トレ1日の人間とジムに通っている人間との差ほどの開きがある。



突如やってきた世紀末覇者たちに占領される日本。


「お願い……だれか……誰かきてぇーーー!!」


焼け野原になった大地に、3人の男がやってきた。




「信号機故障、発電機トラブル、天気の影響!!

 どんな小さなことももらさず遅刻!! JR中央線!!」


\ババ―ン!!/



「時刻表は破るためにある!! 混雑の前にダイヤは意味なし!

 驚異の遅刻率100%のエース! 東京メトロ半蔵門線!!」


\ババ―ン!!/



「鹿が線路に入って来たり、雪で線路や信号が見えなくなります……。

 波があるが、驚異の遅刻ポテンシャル……JR北海道!」


\ババ―ン!!/




「「「 この遅延証明書が目に入らぬかーー!! 」」」



「こ、こんな遅刻パワーがあったのかーー!?」


やってきた3人のヒーローによって世界は救われた。


ありがとうヒーロー。

がんばれヒーロー。


車掌は今日も客の怒号をバックに去っていった。




終劇。

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