第3話 始言虫 力のエネイルゲイル

…空気が酷く乾いている、だが何処か、かび臭い。

 扉を開けた瞬間、流れ込んできた異様な臭気。いや、腐臭。

余り嗅いでいると胃液が喉元まで逆流してきそうなエグみが鼻を刺激する。

 「なんだこの腐った臭いは…こいつは酷い」

 「ちょっとオッサン!? オナラしないでくれるかな!? 臭い!!」

 「してねぇよ!!!!」

 「何か、お肉が腐って蛆虫が湧いた時の臭いに似てますです。ツーンとくるです」

それだ。死骸に蛆がたかった時のあの臭いだ。然しなんで扉のこっち側から…。

 松明を掲げて周囲を確認すると、大きい部屋ではあるが…何故か入り口から入って

 すぐ先の地面は無く、ポッカリと口を開いた奈落への入り口があるのみである。

 「これ、降りんのか?」

 「えー? このくっさい臭い、下から着てるよー?」

 「…うぅ、くさいです」

お宝の部屋は無く、ただ大穴の開いた部屋のみ…ってまてよ。

 俺は何か思い違いを最初からしていたのかも知れない。

誰もが遺跡だと思い込んでいた。罠が恐らく下に下にと落とされるモノばかりと

 仮定して、その底にエネイルゲイルとやらが居たとする。…。

 「なぁティア。調べた文献に生贄とかそれに関係ありそうなのはあったか?」

 「何を急にー、そんなの見た範囲では無かったよー?」

成程。真実は隠すもんだ。

 「どうかしたですか?」

 「ああ、どうもこの遺跡の構造やら、余りに簡単に見つかる入り口、

  下へ下へ落とそうとする罠。それらをひっくるめて一つの仮説をだな」

 「どんなです?」

 「確証なぞ何も無いが、時計王の国は、エネイルゲイルの存在を知っていた。

   で、アリスちゃんは言ってたな? 神の槌だって」

 「はいです。その文節も時計王中期の時代のモノなのです」

 「OK。じゃあこれはどうだ? 神の使者、または神そのものと崇めていた。

   そして、生贄を捧げ続けていたとしよう」

 「なるほどです。でも有力説では滅亡の原因が地震なのです」

そこなんだよなぁ…。生贄を拒否しだした…いや、生贄を拒絶する連中とそうでない

 連中に分かれたと考えるべきか。とりあえずその事を伝えるとアリスちゃんは

 こういうのが好きらしく、目を輝かせて聞いていた。

 ティアは鼻をつまんで唸っているが、耐えかねたのか口を開いた。

 「だから何? 遠まわしに言わないでくれる? オッサン!」

 「あーまぁ、脳筋博士にも判り易くいうとだな。

   二つの勢力争いの名残。遺跡じゃくて餌場。

  アリスちゃんの出した文節に関わる文献は反対派。

  で、サワードに残されているのは推進派ってとこか」

 「ようするに何?」

 「要するに、この遺跡はカモフラで、

  入った時点で全てがトラップだったんじゃないか?と言う事だ」

 「ちょっ! もっと早く気付いてよね!?」

無茶言うなというに…、誰がどう見たって遺跡だろう。

 遺跡に見せかけた化物蚯蚓の餌場ってとこなのかもしれない。

いまにして思えば、求める 戻れ は引き返せが正しかったのだろう。

 恐らく生贄にされた誰かが記したのかも知れない。

 トラップのようなものも、自然と盗掘者が集まるように、

 突破されようとされまいと結果は餌であると。

…て、何か今、目の前でグネッと動いたような。 いや、動いたな。

 「よーしお嬢ちゃん達、どうやら目的のアレが其処にいるようだ」

 「えー!? 壁と穴しか見えないけど?」

 「例えば、でか過ぎる何かが、トグロを巻いていたとしたら?」

 「んー…連神!!」

って待て待て待て!!! 有無を言わさず後ろの扉を分解し再結合した石の翼

 を広げて、大きく羽ばたき、あろうことか石の飛礫を肉の壁だろうそれへと

 全弾発射しちまった直後、地面が大きく揺れた瞬間の事である。

流石の威力というか、いくつもの肉片を撒き散らし、半透明な体液を噴出しながら

 肉の壁のうねりは一層激しく波打った直後。

立ってバランスを保てない程の揺れが全員を襲うと同時に、僅かな足元が容易く崩れ

 俺達を奈落の底へと落とす結果となる。

 「わわっ…ボクは嘘をつく、この紙は天駆ける大鳥!」

落下する最中、アリスがただの紙キレを翼を広げた状態で、

 5m以上ありそうな鳥へと改竄し、俺とティアは鳥の足に鷲掴みされた状態になり

 墜落死を免れた。アリスは当然ながら鳥の背に乗っている模様。

 「うぉぉ、アリスちゃんこんな事まで出来るのか!」

 「それよりもです!見えてる部分は多分、ほんの一部です!

   どうしますですか?」

良く見れば、突然の痛みに暴れ狂う肉の壁が、逆時計周りで上へと動いているように

 見えた。上へ移動していると見るべきか…。

 「動き方から察すると上へ移動しているように見える。

   追いかけてくれアリスちゃん!」

 「はいです!」

大鳥が上へ上へと飛ぶ最中、ティアは周囲をキョロキョロと見ている。

 見渡す限りの肉の壁…成程。生物の肉体には連結の力は機能しないと見た。

 つまり、現状はティアの力はあてにならず…と。

それから程なくして、何かとても久しぶりな気がしなくも無い外の光が見えた。

 「外です! 出口が見えました!」

 「出口というか、今の地震で大空洞の一部が崩落したんだろうな!」

大鳥は俺達を連れたまま、大空へと更に飛翔する。時刻は既に夜。

 満天の星明りが周囲を僅かに照らすだけ…の筈だった。

眼下に広がる荒野に、かなりの数の松明がゆらゆらと揺れている。

 恐らくはリガーデッドの連中だろう。

 「で、肝心の蚯蚓は何処…うお!?」

目視しようと探した瞬間、地面に複数の渦巻きが発生しリガーデッドの

 大半を飲み込もうとした。

 「地面の下で暴れてるのか、姿を見せなけりゃ手の打ちようが…」

ティアはティアで鳥の足の爪から逃げ出し、砂で翼を作り、自分で飛びつつ

 エネイルゲイルを探しているようだ。アリスもまた同じように本体を探している。

リガーデッドの連中も成す術も無く流砂に飲まれていく、かに思えた。

 だが、予想に反して、重低音の轟音と言うべきか、地鳴りというべきか、

 それが、連中と流砂もろともに中空へと押し上げていく。

 「あ、やっぱりイレーダお姉さんいるです」

 「うえぇ、やっぱいるのかーあのおばさん」

二人は面識ありで、此処に着ているリガーデットの統率者の力だろうか、

 それが仲間を救い出すと同時に、大空洞に潜んでいたのだろうデカ蚯蚓を

 音で地中から外に引き摺り出した、と言うところか。

ずざざざざ…と大きくうねり波を打ちつつ砂は流れ落ちる。

 「…ちょっと待て」

 「大きいです」

 「先が見えないってゆうかデカ過ぎじゃないの!!」

胴の太さだけでゆうに100mオーバー。その全長たるや計測不能。

 あー…まさかあの大洞穴。こいつが通った跡か? 嫌になる。

 良し、無理。質量的にどうにかなるならないの問題じゃない。

単純な話だ。とても長い100m超えの壁が勢い良く迫ってきたら

 逃げる場所などありはしない、地面にいる連中は全滅必死。

 のはずなんだが、まさにその肉の壁が迫り来る最中、分厚い壁が

 千切れ飛び、半透明の体液を大量に撒き散らしながら千切れた先が

 暴れ狂っている。その千切れた先が突如燃えたり、小さいながらも穴が

 開いたり、燃えてるのに凍りついたりと。

 「流石にイレーダお姉さんです。多分大きかったら切り分けて倒せばいい。

  そう、皆に伝えてるのだと思うです」

 「あの分厚い肉を切り分けられる時点ですげぇよ!?」

 「音の爆弾で吹き飛ばしてるだけじゃ?」

そのイレーダってのどんなやつなんだか…、取りあえずはそうだな。

 「良し、至宝の守護者なんだろうから、お宝持ってるだろうその場所を…」

 「ん。それならぽんぽんです」

ぽんぽん? 腹の中? 何処が腹なんだあのデカ蚯蚓!結局の所、

 あの巨体を潰しまくらにゃならんってことか。…現状俺等の所にそんなのは。

などと、頭を抱えた瞬間、背筋がゾクリと凍えた。いままでウネウネと動いて

 いただけの蚯蚓が急に静かに…、いや、身を強張らせ力を溜めているのか。

 「まずい! アリスちゃん!! 逃げろ出来るだけ遠く高く!!」

 「え? あ、はいです!」

神の槌。と在った。つまりアイツの攻撃手段は薙ぎ払いの他に、

 叩き付けもあるのだろう。ブンッっと素早く振り上げられた頭か?

 それが最大の攻撃力を有する事は明白。

俺達はなるべく高く、遠くに避難しようとした。だがその時点で俺達よりも

 更に高くにそそり立った立派なナニが、雲を切裂く轟音と共に振り下ろされた。

余りの大音量に俺達の声も掻き消され、平衡感覚すらも奪われ、

 後から襲い来る砂の大津波の直撃を受けるしか無く、

 辛うじて離れていた俺達ですら吹き飛ばされ、

 大空に放り出されていた。他人を気遣う余裕も無い。特に俺に至っては空を飛ぶ

 力どころか、一言目すら未覚醒。 落下速度は次第に速くなり地面に衝突すれば

 死は免れないだろう。いや、それ以前にエネイルゲイルの体の一部が

 確実に俺を叩き潰そうと迫り来る。 俺の冒険はここで、終わり…か。


  (一番欲深い奴!)

…何故かティアとの初めての出会いが脳裏を過ぎった。

 俺が欲深い…か。だが冒険する事で俺の大半の欲は満たされていた。

だが俺にとっては、地面に転がる石一個、砂一粒に至るまでが興味対象なわけだ。

 まだ、調べたい、見つけたい―――不思議と右手に熱を感じた。

ただの石ころでそれだけの魅力だ。世界遺産クラスのお宝ならどうだ?

 それから広がる過去への探求…諦めたくない、知りたいぞ!

 「こんな所で…死んで―――たまるかぁぁっ!!!」

欲した。ただ欲した。純粋にただ純粋に世界を知りたいと、強く強く。

 ここまで飢えたのは、生まれて初めてだろう。

 「オッサン!! それだ!そのまま強く飢えて!!」

ティアの声だろう、その声が決め手となったのか、

 飢えはただ一つに集約され、言葉を成した。


望むも叶わず。ただ食う為に生きる日々の常。そこに潜む闇が言葉となり

 右手に熱を帯びて宿り、脳内に使い道を焼き付けた。

 「お、おぉ!? よっしゃあああっ!!」

 「オッサン!?」

奴の巨躯の一部が接触する刹那、間一髪でその力を行使する。

 

 「奪え…理不神!!!」


質量的に耐え切れるモノでは無いソレを右拳で殴った。

 その巨躯は大きく湾曲し後方へと大きく弾け跳ぶ。

同時にその衝撃で俺の右腕も消し飛ぶ結果となり、血飛沫とともに激痛を

 全身に撒き散らした。

 「ぐぁ! いってぇぇぇえええっ!!」

空を飛べるティアに掴まれ、地面に衝突を免れたはいいが、右腕が…あれ?

 何か、緩やかにだが再生してる? なにこれキモい。

 「オッサン!? 一言飛び越していきなり二言!?

   しかも理不神って…」

 「お、おぉ。何か覚醒したくさげ?」

 「言神殺しの言神、不死の理不神だよ!!

   相手の力を奪って、理不尽に力を増幅して叩き返す力!!」

…俺にもチート級の力が? まじで? しかも不死って…。

 詳しく聞く暇も無く、再びエネイルゲイルが神の槌を振り下ろそうと、

 空へと起き上がっていく。自分にもダメージがあるのか、先ほどとは

 打って変わって動きが遅い。そのうえ、生き残った連中が次はやらせない

 とばかりに、それぞれの固有の力を使い、妨害しようとしている。

 「…ティア。この力は複数の言神の力をストック出来るのか?」

 「確か出来た筈だよ。テスタ・マガナを引き起こすだろうけど…」

…そいつは何かと手短に聞いた。言神同士の反発で生まれる膨大な

 破壊の力。それならばあのデカブツを仕留められるか?と聞きなおす。

 「うん。大聖典級の力同士だし、いける! と、思う」

最後の頼りなさがなんとも…、成程。旧約聖書に記されるようなモノ同士って

 事と理解。このままほっといたら被害は広がる一方。

ならするべき事は一つ。

 「おし、アレが災厄の力とするなら、同じ力でゴリ押すか!!」

 「判った! んじゃ、言神の力が一番収束している所に放り込むよ!」

 「頼んだ!!」

先程、エネイルゲイルの力を奪った。まだその効力があるのか、動きが鈍い

 のはそれが原因か? ともあれこの好機を逃すわけにはいかない。

ティアの飛行性能は思っていたより高く、瞬く間に言神の集中砲火を浴びている

 部分へと辿り着き、俺を放り込んだ。

火・水・風・土・光・音・金属・樹等、様々であり、その力の多様性が伺える。

 それら全てを奪い尽くすべく、一瞬で体が消し飛びそうな力の渦中へ。

 「奪え!理不神!!」

瞬間、全ての力が消失し、静寂が周囲を支配する。

 静寂から生まれてきた混沌という他、形容出来ないドス黒い渦だった。

 勿論、俺自身もそこまでしか意識を保っていられなかった。

痛みや苦しみを感じる間もなく、体が消し飛んだのだろう。

 だが意識はある不可思議。いや、意識を取り戻すのにいくらかの時間は

 過ぎただけかもしれない。ただ暗い、何も感じない。

虚無とはこういうものだろうか、恐れも何も無い。

 …それから暫くして、何か、痺れのようなものを感じ、次第に全身に痛みが

 蘇る。

 「…っ!! いっでぇぇぇえええっ!!」

 「うわ、生きているです。ほんとに不死の理不神です」

 「うわキモ!!もう見た目が完全にゾンビだねこれ」

何だ!痛過ぎる! 思考が回らない!兎に角、猛烈に、痛い!!

 「治してあげたら? アリス」

 「再生してますです。ほっといたら治るです」

何かすげぇ事言われてる気がするが痛くてそれどころじゃない。

 何時間たったのだろう、ようやく我慢出来るくらいまで収まり、

 大きく溜息をつき、一つ誓った事がある。

テスタ・マガナ。二度と使うものかと。そう誓う俺に布切れが被せられた。

 「いつまで裸なのよ変態!」

 「お腹でてるです…」

お腹は仕方無いだろ!接待やらなにやらで酒を飲まざるをえんのだ!

 ともあれ、被せられた布切れを腰にまいて一息つき、状況整理しようとした。

良い知らせは、テスタ・マガナで巨躯の大半を失ったエネイルゲイルは、

 リガーデッドの生き残りと統率者により倒された。

悪い知らせは、南部の砂漠地帯の地形を大きく変えた大クレーターを

 作り出してしまった事。

 リガーデッドに至宝は奪われたと言う事。

ティアとアリスが悔しそうに、イレーダには勝てる気がしないと歯噛みしていた。

其処まで強いのか…、ともあれ先ずは二人が無事で良かった。

 そう言いつつ二人の頭を撫でようとしたが…何やら後方から高笑いが聞こえる。

 「おーっほっほっほ! 見つけましたわ!レイヴン…いえ、大罪人!!」

 「あ、やばいです。ケージです」

 「ぎゃーっ! よりによってアイツだーっ!!!」

何? 何なの? というか何て古臭い高笑いするん…ぶはっ!!!

 すげぇ縦ロールの桃色!!まっすぐ伸ばしたらどれだけ長いんだよ!!!

まだマトモに歩く事も出来ない俺を置き去りに、二人がさっと距離をとる。

 …いや、俺を置き去りにとか、勘弁してくんない?

 「近隣住民の避難誘導で時間を取られましたわね…さて」

凄まじく不細工なダチョウといえばいいだろうか、それから降りてきたのは

 髪型は…まぁうん。置いといてかなりの美人な女の子だった。

 「で、私を前にして逃げないのは諦めた…と言う事ですの?」

 「いや、まだ体がまともに動かないだけだ」

 「当然ですわね、この私、完全無欠のベルダンテから

   逃げ仰せられる筈もありませんわ!」

再び高笑い。そして俺の話は全く聞いて無い。つか自分で完全無欠とか言うか普通。

 途方も無い自信過剰な女の子は、一歩だけ俺に歩み寄る。

 「ちょっとオッサン! 早く逃げなって!!」

 「まだ余り動けねぇんだよ!! つか誰だよこの美人な子は!!」

 「完全無チチのペッタンテだよ!! アタシ等の天敵!!」

 「完 全 無 欠 ですわ!! それにペッタンテではありませんわよ!!!」

…貧乳は否定しないのな。確かに見事に出っ張りが無い。哀れな程に。

 お、おぉ。何かティアと言い合いを始めたんだが…。

その間にアリスが歩み寄り、嘘神の力で走れる状態に戻して貰い、逃げる算段を。

 「完全無欠のベルダンテ…二言の実力者ですが、性格にちょっと欠点あるです」

 「自信過剰な上に、一点しか見れなさそうだな。逃げるなら今か?」

 「はいです。ですが、逃げる時に絶対に振り返っちゃダメです。

   追いかけてくる百面鳥を見たら絶対に走れないです」

ベルダンテでは無く、あの不細工な鳥を見るなってか…OK。

 よし、じゃあ、兎にも角にも逃げるか。至宝も取り返さないといけないしな。

アリスと目で合図した瞬間、ティアと言い合いを続けているベルダンテを横切り、

 全力で走り去る。その後ろからティアも続くが、後ろを向きながら尚も罵倒。

 「手遅れ!絶壁!えぐれ乳!!」

 「えっ…えぐれ!? …ってお待ちなさい!!

   大人しくお籠に入りなさいですわ!!」

 「いやぁーだね! ぺったぁぁぁん!!」

 「きぃぃぃぃぃいいいっ!!」

うん、何か仲良さげに見えなくも無い。散々罵倒してすっきりしたのか、

 砂で翼をつくり、飛翔して瞬く間に俺達に追いついてくる。

というか、何でアリスは走ってんだ? 鳥を呼び出せば…ああ成程。

 嘘神は一日の使用回数制限ありと見ていいかな。それに副作用とやらも

 ありで、余り大きな改竄は行えないと。この子も一応は敵だしな。

いつか道が違えた時、敵に回ることもあるだろう、情報は集めておかないと。

 などと全力で走る俺達の背中から、怒り狂う乙女の声に混じる妙な音。


 アッ…ハフッ…あばぷっ…ひひふっ…はふはふっ…などと聞き慣れない妙な…。

 

 「見ちゃ駄目です! 振り向かずに全力で走るです!!」

 「ぎゃはははは!! 相変わらず百面鳥おもしろー!!!」

…飛んでるティアは関係無いらしく、何か大爆笑している。

 見たい!知りたい! 誘惑に負けそうだが、お籠は頂戴したくない!!

好奇心を必死で押し殺し、ひたすら走る。兎に角ベルダンテを撒く為に。

 首尾よく撒けたら次は漁夫られた至宝を必ず取り戻す。

決意を固め、全力で陽が昇る地平線めがけて俺達は逃げていった。


  第三話 始言虫 力のエネイルゲイル


   NEXT 完全無欠の追跡者 前編  

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