第5話 大人への第一歩
「津山の装置が25年で地球を滅ぼすとしたら、単純に10倍の出力なら2.5年で地球が滅びるのか。」
閣下が眉間に思いっきり皺を寄せながら言った。
結局、津山との協議は不調に終わった。
「私も気が動転していた。早急にプランDを練り直すぞ。」
「とはいえ閣下、もはや方法は2つに絞られました。」
範馬が何の危機感もなさそうに言った。
「うむ。」
「兵頭博士に機能を調整した地球冷却装置を作らせてトータルでプラマイ0にするか、津山にあと9台同じ装置を作らせるかですな。」
「そうだな。」
「いずれにしてもカギを握るのはジブ君ですな。」
「ううむ、それもそうだな。」
「ロリコン2人のどっちに彼女という青い果実を貪らせるか。」
「いやらしい言い方をするでない。」
「閣下のご決断一つです。」
閣下はとことん憂鬱だった。
どっちを向いてもロリコンと少女という最悪な組み合わせしかないからだ。
「双方のメリットデメリットは?」
「津山の場合、装置の性能は大きく劣りますし、掛かる時間も長い。ただし、奴がジブ君に求めているのはとりあえず電話での会話程度です。兵頭博士の場合、装置の性能、掛かる時間ともに圧倒的に有利ですが、ジブ君はひん剥かれ、舐め回される恐れがあります。」
閣下はジブの方をちらりと見た。
無垢な少女は小さな身体を折り曲げて、一生懸命考えている。地球を救う方法を、だ。
「いじらしいな。全く。」
「全くですな。いささか眩しすぎて笑えます。」
「もし兵頭博士に頼むとして、問題は兵頭博士が妥協して機能を落とした地球冷却装置を作ってくれるかだ。」
「それもジブ君次第ですが、あのプライドの塊のようなクソビッチがそう簡単に折れるとは思えません。」
閣下はジブを一瞥してから範馬博士と頷き合う。そして彼女の方に向かい、悠然と歩を進めた。
「ジブ君、どうだね。」
「閣下、周りに人がいないから不安です。頑張らないといけないと思っているのですが。」
「君は十分なくらい頑張ってくれている。君は小さい子供なんだ。頑張るのは我々大人の役目なんだ。」
「でも、ここには4人しかいないし、子供でも頑張らないと。」
ジブが必死な様子で訴えてきた。
「うむ、こう言ってはなんだが、子供の君が出来ることは少ない。」
ジブは少し項垂れてほっぺを膨らませた。
「しかし、君にしかできないことがある。」
「えっ!何ですか!」
ぱあっとジブの顔が明るくなる。
「うむ。」
「亜里沙さん関連はイヤですよ。」
先手を取られて閣下は思わずたじろいだ。が、流石に一国のトップ、ここはリチャード・ギアよろしく渋く笑ってみせる。
「兵頭博士のことではないんだ。いや、事態が事態なので当然無関係ではない。そこは大言壮語を吐くわけではないが、船頭多くして船山を登るということだ。理解してくれるね。とにかく今の絶望的な状況を打開するために君の力が必要なのだ。」
「何でしょうか。」
ジブが首をちょこんと傾げる。
「うむ。では範馬博士、頼む。」
「万事首尾よく!小娘、来なされ。」
ちょいちょいと手招きをする範馬に、少女は不安を覚える。
兵頭の方をちらりと見ると、驚くことに彼女はその光景を無表情で傍観していた。
そんな兵頭の様子にジブも驚きを隠せない。今までなら鬼の形相で噛みついてきたはずだ。何故か僅かな寂しさを感じる。
あんなに嫌だったのに、なんでだろう。
嫌で嫌で、本当に嫌で、早く死んでほしいと思っていたのに。
いや、やっぱり嫌だ。そのまま傍観してくれ、とジブは強く思い直した。
ジブが連れていかれてから、少しの時間が経った。閣下はいつになく落ち着いた様子で新しく淹れ直したコーヒーを楽しみ、兵頭はノートパソコンを叩いている。
そこに範馬が姿を現した。何故か自信満々といった表情だ。
「兵頭博士、良いぞ。」
「ふふ、良いとはどういうことかしら。」
「準備が出来たということだ。」
範馬がそう言うと、後ろから体操着を着てランドセルを背負ったジブが現れた。
その横には満面の笑みを浮かべた屈強な陸自の男性がいる。
「あの・・・・・・お、お姉・・・・・・。」
顔を真っ赤にしてモゴモゴしているジブを範馬が小突く。
「こら小娘、さっさと言わんかい。」
「うう・・・亜里沙お姉ちゃん。私を・・・・・・好きにして。大好きだよ・・・・・・。」
その瞬間、兵頭が椅子を壊す勢いで立ち上がった。目からは血の涙を流し、固く握られた両拳からはどす黒い血が滲んでいる。
「ジブ・・・・・・ううん、多くは言わない!据え膳食わぬは女の恥。あなたの思い、身体で受け止めるわ!見ててね!」
そう言うと兵頭は残像を残す勢いでその場を立ち去った。地球冷却装置を作りに行ったであろうことは想像に難くない。
「ありがとう、ジブ君。地球は救われるだろう。」
閣下が彼女の方を見ずに遠くを見つめながら感慨深げに言った。
あれほど拒んでいたにも関わらず、少女は大人の言うことに従わざるを得なかった。少女は悔しさに身を震わせた。
範馬が携帯電話を取り出して誰かに連絡した。
「よし、小娘の家族は解放してやれ。とりあえずな。」
大人なんてクズばっかりだ。
ジブは心からそう思い、自らもまた大人に近づいた気がした。
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