第4話 追加発注
津山との会談から僅か2時間後、兵頭は地球温暖化装置を完成させた。
完成品を見て3人は唖然とした。
「何よ、3人して。」
地球の命運を背負っているはずのその装置は、2口カセットコンロの上に巨大なペットボトルを2つ取り付けただけの適当なものに見える。
「こんな夏休みの実験セットみたいな貧相なもので上手くいくのかね?」
「馬鹿に分かるように簡単に説明してあげるわ。底の機械のスイッチを入れると、300万MRJのパンツホールド珪素が流れ込み、エンドブラッシュ現象が起こるから・・・・・・」
「さっぱり分からん。本当に分からん。つまり?」
「右側のボトルに二酸化炭素を集めて、左側のボトルから継続的に超高熱の雲状の塊を放出する。それは大気の流れに乗って世界中に拡散しながら徐々にその熱を巻き散らしていく。それで地球全体を温めるって算段よ。」
「二酸化炭素をエネルギーとして利用するのか!」
「熱を放出しつつ二酸化炭素を削減する。クリーンでしょ?地球全体を温めるのであれば膨大なエネルギーを持続的に供給できないと駄目。二酸化炭素であれば生物の活動がある限り必ず存在するでしょう。」
「ううむ、二酸化炭素をエネルギーに変えるとは、正に天才の発想。」
「研究者の本分を真っ当しつつ環境への配慮も欠かない。正に研究者の鑑!」
「あり得ないから天才なのよ。」
兵頭は二人を顎でしゃくった後、ジブにウインクした。
「凄いです!亜里沙さん!」
ジブは感激して両手を何度も叩いた。
「私、ジブのためなら一晩でも二晩でも続けて頑張っちゃう。」
「亜里沙さんがやっと人のために研究を・・・・・・嬉しいです。」
ジブの頬には喜びの涙が伝っていた。
閣下と範馬はそんな彼女を正視できなかった。
兵頭の作った地球温暖化装置は屋外の高い場所に設置されなくては意味がないので、東京スカイツリーの頂上に設置されることになった。
それを受けて、範馬は早速部下に装置の設置を命じた。
「真面目なことだけが取り柄の部下3人組に向かわせました。万事首尾良く完璧だと思われます。」
「万事解決ということだな。」
閣下はどっかりと座り込んで、一息ついた。
「本当に未来が変わったのか、念のため私の部下に確認に向かわせております。」
「タイムマシンは過去に行ったはずだが。」
「はい。栗山陸佐どもを帰還させ、そのまま未来に向かわせました。」
「ん?過去の津山を殺したとなれば、奴らの未来は変わって、我々のいる世界には帰って来れないのではないか?」
「流石閣下。目の付け所がシャープですな。奴らのいる世界の未来は確かに変わりました。もっと言えば、奴らが過去に行った時点で無数の未来が生まれているのです。」
「ふむ。」
閣下は首を捻った。
「タイムマシンを作る一番の弊害はそこなのです。未来は絶えず変化している。着地点は常にぶれ続けているのです。一度過去に行ってしまえば自分のいた時代には戻れても、全く同じ世界には戻れない。つまり成り立たないのであります。」
「なるほど。」
「あと、兵頭博士よろしく。」
範馬はこれ以上説明できないのか、さっさと諦めてペットボトルの液体を啜った。
「面倒だから100字以内で済ませるわ。」
閣下は頷いた。
「タイムマシンの時間軸を固定しているのよ。過去で何をしようが、未来でどうしようが、タイムマシン自体の時間軸は元の世界のラインのまま。」
「たった65文字でありがとう。まさしく天才だな。」
そうしているうちに栗山陸佐から連絡が入った。
「お、朗報ですな。」
範馬は嬉々としてコントローラーを持った。
「どうだ!陸佐!」
「博士!とんでもないことになっております!」
只ならぬ栗山陸佐の様子に会議室の空気が一変する。
「どうしたっ!」
「25年後の未来は灼熱の世界です!華氏10,000度であります!太陽の外部と同じ程度の気温であります。もはや気温ではありません。地球全体が炎上しているかのような地獄絵図であります!」
「兵頭博士!」
「あら?地球冷却装置って大したことないのね。想定よりよっぽどヘボいわ。」
「調整してくれ!」
「無理よ。核兵器でも傷一つ付かない防壁に囲まれているから。」
「どうして君達天才はそう余計なプロテクトをしてくれるのだ!」
閣下は嘆いた。
「じゃあ逆に亜里沙さんが地球冷却装置をもう一つ作って調整してはどうでしょう?」
ジブが閃いたように提案した。
「駄目よ。機能の低い装置を敢えて作るなんて私、耐えられない。」
「そのプライドのせいで地球が滅びようとしているというのに・・・・・・。」
閣下は頭を抱えた。そしてはっと思いついた。
「津山だ!」
範馬に頼み、津山に繋いでもらう。
やがてモニタに津山が現れた。ボコボコの顔を手当してもらい、包帯まるけになっていた。
「津山!」
「お前達とはこれ以上話す気はないと言ったはずだ。ただし、その娘は国と関係ないからな。話を聞いてやらんわけではない。」
「地球冷却装置をもう一台作ってくれ!」
「はあ?」
唐突な閣下の頼みに津山も思わず開いた口が塞がらない。
「何を言っているのか分かっているのか?」
「閣下、出力比で彼女のは津山の約10倍だそうです。」
「何っ!津山、あと9台!」
「待て、待て!」
津山は慌てて閣下を制した。
「何を考えとるんだ貴様ら。9台も稼働したら地球は数年で終わりだぞ。」
「これだから素人は・・・・・・。」
何故か呆れた様子の範馬を見て津山は困惑した。
「地球冷却装置を1台作るのに相当の時間とコストが掛かるのだ。それを9台などと馬鹿げたことを・・・・・・。」
「天才振るな!何という役立たずだ!」
「聞き捨てならんな!貴様らは地球を数年で滅ぼすつもりか!人でなしめ!」
津山の言葉に閣下と範馬は止まった。
そもそもお前が・・・・・・と二人は顔を見合わせていた。
ジブはよいしょ、と椅子に座った。
何かどうせ上手くいかないんだろうなあと子供ながらに感じた。
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