第3話 後にツートップ会談と呼ばれる会議

 閣下と津山はモニタを通じて向き合っていた。

 暫くの沈黙の後、口を開いたのは閣下だった。


「何故地球冷却装置などを作ったのだ!何が貴方をそうさせた?」


 津山も重い口を開く。


「理由は一つ。憎しみだ。おれは幼少時に家族に捨てられ、周囲に蔑まれ、誰にも救われずに今日まで生きてきた。復讐の時なのだ。」

「更生不可。殺し・・・・・・」

「待て!本当に貴方は世界に愛情の欠片もないのか!」


 嬉しそうに口を挟んだ範馬を遮って閣下は津山に叫んだ。


「ない!」

「美しい自然を、罪のない子供の未来を、本当に壊してもよいのか!」

「「そんな綺麗事で説得しようなんざ甘いわ!」」

「何故お前が同調するのだ、範馬博士!」


 津山と一語一句同じ言葉を吐いた範馬は我に返った。


「申し訳ありません。閣下の仰ることがあまりにもふざ・・・・・・眩しすぎて。」


 閣下は全くやるせない気持ちになった。


「地球冷却装置を止める術はない。私を殺そうが、どんな攻撃を加えようが装置は動き続ける。地球は終わりだ。」

「待ってください!」


 割って入ったのは場違いな少女だった。


「お願いです。装置を止めてください。あなたしかできないんです。」


 津山はジブをじっと見つめた。


「あなたがどんな辛い人生を送ってきたかはわからないけど、あなたを責める人なんていないんです!やり直せます!」

「このウスラハゲ白髪!ジブに声を掛けてもらってんじゃないわよ!焼け死ね!」

「亜里沙さん!黙ってて!」


 責める人間がすぐ隣にいることに不快感を感じたのか津山は黙り込んでしまった。


「津山氏、あなたはかつて孤独だったかもしれない。だが、あなたを慕う人間はたくさんいるはずだ。だからこそ教祖として多くの信者を救っているではないか。」


 閣下は必死に訴えた。


「思い直してくれ!お願いだ!」


 暫く静寂が続いたが、津山がようやく顔を上げた。


「何故だ?」


 閣下はむっと顔を顰めた。


「何故だ、とは。」




「何故そんなところに少女がいるんだ。」




「・・・・・・」


 4人は黙った。


「しかも見たところ小5か小6と見た。ハーフか?いや、純粋な白人のように見えるな。いや、この際どうでもよいことだ。」

「おい。」

「勘違いするな。貴様らと話すつもり毛頭はない。」

「お前・・・・・・。」

「いや、その娘と話すことを拒むわけではないが。他意はない。」





「ロリコンか!そりゃ天涯孤独にもなるわ!」


 範馬は口から液体を噴き出して怒鳴った。


「ロリコンだと?貴様、その言葉の意味を理解してのことか。」

「何を学者ぶっとるんじゃこのモーゼハゲ!」

「き、貴様!私が言われたくない言葉ツートップを並べおったな!」

「顔凹男も並べてフラットスリーだアホめ!もういい!貴様なんぞこっちからお断りだ!」

「顔は貴様らが・・・・・・」

「おい!範馬博士!」


 閣下の制止も聞かず、範馬は画面の電源を落とした。





「・・・・・・プランCを考えようではないか。」


 閣下は冷めたコーヒーを飲みながら努めて冷静に言った。


「随分お疲れですな、閣下。」

「地球の一大事なのに、人に恵まれないからね。」


 ふうとため息を吐く。

 心配したジブが温かいコーヒーを持ってきた。


「ありがとう、君だけだな。」

「君だけ?まさか閣下もハゲロリ・・・・・・」

「マトモな人間は、という意味だ。いちいち突っ込まんでよろし!」


 閣下はあらためて頭を抱えた。当事者である津山を止める線が極めて厳しくなった。


「全くどうすればよいのだ。」


 悩める閣下を兵頭がふん、と鼻で笑った。


「低脳の悩む姿なんて見るに堪えないわ。消えて頂戴。」

「何を言うか!」


 範馬が食ってかかる。


「そもそも問題ないわ。私が地球温暖化装置を作ってやるわ。」

「出来るのか?変態女!クソ女!」

「IQ3000程度のDQNのすることなんてたかが知れてるのよ。」


 兵頭は厭味ったらしく髪を掻き上げた。


「でも一つ条件があるわ。」

「ジブ君の身の安全を保障した上で聞こう。」

「私のタイムマシンを返してもらえるかしら。」

「それは構わんが・・・・・・。」


 兵頭の横でジブが涙目で首を横に振っているのを閣下は気づいた。


「閣下、世界の為に賢明なご判断を。」

「分かってる。こんなとこでマトモにならんでよろしい。」


 こそっと耳打ちしてきた範馬を制し、閣下は強く立ち上がった。


「閣下、勇ましゅうございます。まるでゴッドファーザーそのもの。」

「そ、そうか。有無。悪くないな。」

「もう!私はイヤです!亜里沙さんにどこかに連れていかれるのなんて!」


 満更でもない閣下に業を煮やしたジブは泣きながら叫んだ。


「ジブ君・・・・・・。」


 閣下は兵頭に向き直った。


「私は国家の元首として国民の身に危険が及ぶ行為を断じて容認できん!」

「何よ。私を悪者みたいに。誰かに危害を加えるなんて言っていないでしょ。」

「極めて遺憾だ!厳重に抗議する!」

「閣下・・・・・・ありがとう。」


 ジブは潤んだ目で閣下を見つめた。



「ふん、カッコつけて。じゃあ知らないわ。」


 イラついた兵頭に範馬がそっと近づく。


「閣下の意図を汲みたまえ。容認できんとは黙認するということだ。」

「あら。」

「忖度だよ、君。」


 そう言って二人はニヤリと笑い合った。

 閣下は相変わらず凛々しい表情だ。


「閣下!私も頑張ります!」

「うむ。ジブ君ありがとう!」


 ジブは嬉しそうに笑った。


「君に頑張ってもらえれば百人力だ!」



 その言葉に決して嘘はなかった。

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