第2話 閣下の憂鬱
「一度落ち着こう。過去の津山は諸事情により交渉不可となった。我々は早急にプランBを検討せねばならん。」
閣下はコーヒーを飲みながらため息を吐いた。
「あの・・・・・・現代の津山さんは生きてるんですよね。」
ジブだった。3人の視線が集まり、小さい少女は思わず怯んでしまう。
「そうだ。タイムマシンで過去に遡って何か起こっても我々の生きている世界には影響しないようだからな。兵頭博士、そうだろう。」
閣下に確認を促されたが、兵頭博士はジブを見つめており、適当に相槌を打たれた。
「現代の津山さんと話をしたらいいんじゃないですか。」
「既に地球冷却装置は動いている。きゃつを殺したところで何も変わらん。」
範馬が何かを飲みながら口を挟む。
「何故すぐに殺すという発想なのだ・・・・・・。」
「きっと理由があると思うんです。話し合ったら仲直りできるはずです。」
子供らしい純粋な答えに、3人の内、一人は感心し、一人は嘲り、一人は濡れた。
「ああ、ジブ。でもね、津山に理由なんてないの。アホなのよ。」
「そんなことないと思います!」
「いいえ、津山は畜生。人糞以下の存在よ。」
「しかし、ジブ君の言うとおりだ。我々は現代の津山との話し合いという選択肢を何故か排除して最初から話を進めていた。優先すべきは装置を止めることだ。」
閣下がジブに賛同すると、ジブはほっとした。
「閣下のそのお言葉、待っておりました!既に奴の拠点であります「足の裏」に部下を送り込んでおります!」
「おお!流石だぞ、範馬博士!」
「全て首尾よく!一年前からじわじわと仲に取り入り、今や首魁の津山の首まで手が届く地位まで来ております!」
「先見の明は讃えるが、殺すのはなしだぞ。」
範馬はもちろんです、と強く頷いた。
「早速部下と連絡を取ります!」
範馬はまたコントローラーを操作する。
暫くしてモニタには一人の男性が現れた。
無骨で顔に無数の傷があり、屈強な身体つきは正に軍人だ。
「バレそうなもんじゃないか、彼は。」
「閣下、今や私は組織のNo.3であります。」
閣下の忌憚なき意見に、画面の男はこれまた整然と答えた。まるで自衛隊の点呼のような強い口調に、軽口を叩いた閣下も思わず黙り込む。
「博士!その時が来たと理解しております!いつでもご命令ください!」
「秋山!きゃつの身柄は確保できるな?」
「望みとあらば10分で!」
「良し!連れてこい!」
「はっ!」
「穏便に頼むぞ!おい!」
秋山は熱い敬礼をすると、振り向きざまに笑顔を見せながらサムズアップをしてみせた。
「フッ・・・・・・きゃつは命懸けでやるつもりですよ。上司思いのバカな奴だ。」
うっすら涙を流す範馬にますますの不安を感じながら、心を落ち着かせるために閣下はコーヒーを啜った。
「全く、低脳が騒ぐ姿ほど醜いものはないわね。」
「亜里沙さん、皆頑張ってるのに失礼です。」
ジブに言われ、兵頭も口を塞ぐ。
「まあいいわ。これが終わったらどうせ過去に連れていって王国を・・・・・・。」
「なんかおかしなこと言ってません?」
ジブはとにかく不安だった。
そうしているうちに範馬の元に連絡が入った。
「おお!秋山の奴です!どうだ!・・・・・・うむ!でかしたぞ!早速モニタを繋げ!」
モニタが再び秋山を映す。閣下は身構えた。
現れたのは、仁王立ちで息を切らした秋山と、立派な椅子に腰かけた壮年の男性だった。
男性は頭の真ん中が禿げ上がっており、両横の毛は白髪だ。50歳くらいにも見えるが、若くも見え、老齢にも見える。だが、それは伺いしれなかった。
なぜなら・・・・・・
「ボコボコじゃねーか!秋山!てめー!」
閣下は思わず声を張り上げた。
座り込む津山の顔面は見事に腫れ上がっており、ぱっと見、誰かわからない。
秋山は額の汗を拭い、爽やかな笑みを携え、頷いて見せた。
その姿に青春時代のハリウッドスターを重ねながらも、冷静さを取り戻した閣下は、改めてボロ雑巾の津山に向き合った。
「津山氏、この度は大変な無礼を・・・・・・。」
「もう絶対に許さん。殺す。皆殺しだ。」
取り付く島もない。
閣下は頭を抱えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます