黄金の島

俺たちは談笑しながら食事を作った。親族たちでこんなに笑いあうのは子供のころ以来だろう。普段は彼氏自慢の姉貴や厳しい親父がいて、みんな固まっているからだ。俺も彼女作らなきゃ。


食堂で親族たちと食事をしていると足音が聞こえた。

「おお!泉が来たんかいな。」

「何してたんだろうな。姉貴。」

しかし、来たのは姉貴ではなかった。よりによって、今一番見たくない人だった。親父だ。しかし、なんだかいつもと雰囲気が違う。心なしか笑っているようにも感じる。親父は言った。

「諸君、ようこそ。早急だが、頼みごとがある。私と一緒に来てくれないか。」

もちろん、頼みごととはいっても拒否権は一切ないのだが。

俺たちは食事を中断して親父についていった。親父は外に出て庭を進んでいく。

俺たちはひそひそと会話をしながら親父の後を追いかける。

翅の園の近くに一台のバスが止まっていた。親父はそのバスに乗った。

俺たちも続いて乗る。どうやら親父は姉貴と天音がいないことに気づいていないようだ。

「親父、待ってくれ。まだ姉貴と天音が来ていない。」

もちろん、俺の言うことなど聞いてくれないだろう。親父は言った。

「お前は黙ってついて来ればよいのだ。我が大事に人の一人や二人など知らんわ!」

そういうと親父は運転手に小声で何かを言っている。たぶん目的地だろう。

30分ほどたっただろうか。みんな親父がいるから何も言えず、ただぼんやりしていたところでバスが止まった。どうやら港のようだ。

そこには一台のクルーザーが停まっていた。親父はそれに乗り込む。俺たちに一瞥もくれずにクルーザーの老いた操縦士に目的地を告げた。心なしか操縦士の顔が固まったような気がした。

30分ほどしてからだった。見たこともない島が見えてきた。クルーザーは静かにその島に着いた。親父は狂ったように笑うと一目散に島へ走っていった。

俺たちもその後を追う。島の周りは雑草と木だらけだ。ただ、親父が走っていった道は赤レンガで作られている道だった。まるで赤レンガを使って俺たちを案内しているようだった。

親父が先に行ったから俺たちは赤レンガの道に沿って歩くだけだった。

「お父様の気まぐれかしら?」

「この島はどこなんや?」

「しかし、ひどく荒れた島だな。手入れをすればいいものを。」

皆口々に思ったことを口にする。2キロほど行っただろうか。一階建ての屋敷が見えてきた。玄関口に親父が立っていた。親父は俺たちに向かって叫んだ。

「ようこそ!我が父の島へ!そしておめでとう!諸君らの命運も尽き果てた!!

うわあっはっはっは、はーはっはっはっは!!」

それは何とも言えぬ狂気を秘めていた。いい予感がしない。

「招待しよう。我が父の島、父の屋敷へ。」

そう言うと親父は屋敷へ入っていった。その屋敷は一階建てだが翅の園よりも大きかった。祖父が建てたものだろう。

俺たちは玄関口からまっすぐ進んだところにある大広間へと案内された。

大広間だけ見たら翅の園よりも大きい。そこには3人の人間がいた。全員若くて美しい女性だ。

親父は3人を使用人と説明して俺たちを大まかに説明した。

3人の使用人のうち、一人が言った。

「携帯電話をお預かりいたします。ここは圏外ですので。」

理由を聞きたかったが、親父がずっとこちらを見ている。逆らったら殺されそうな雰囲気だから、ここは黙って差し出した方がいいだろう。

俺たちは懐からケータイを取り出して使用人に渡した。

3人の使用人は黙ってお辞儀をする。それから足早に右にある部屋へ入っていった。

質問したいことは山ほどある。ここはどこなのか、なぜここへ来たのか、さっきの狂気じみた言葉の意味は何だったのか、、

しかし、親父は足早にどこかへ行ってしまった。

残された俺たちは適当に屋敷を散歩した。


なんとも変な屋敷だ。広いし、部屋がたくさんある。ふと腕時計を見た。もう10時だ。忙しい一日だったからなんか眠い。

大広間の左にある部屋のドアを開けたとたん、怒声が聞こえてきた。もちろん親父だ。

「開けるな!愚図が!!おとなしく寝ておれ!」

慌ててドアを閉める。寝ろったって、どこでだよ。

仕方がないから俺たちは使用人に聞きに行った。3人とも食堂にいた。

そのうち一人が親切に教えてくれた。親父とは大違いだ。

どうやら玄関口から右に曲がり、まっすぐ進んで突き当りのところにたくさん部屋があるから適当にそこの部屋を使うといいらしい。みんな先に部屋へ入った。俺は少し散歩してから入った。部屋は沢山あったが近いほうに入ることにした。

突き当たってすぐが俺、奥に向かって灯、十一智、大地、樹里、萌黄の順だ。

一人になれたことで、緊張がほぐれる。寝室はちょうどよい広さだった。ベッド、洗面台、バスルーム、クローゼットがあった。テレビはなかった。

ベッドに横になると俺は目をつぶった。

これからどうなるんだろう。腹が減ったな。使用人さんかわいかったなあ。

そんなことを考えていたら、俺は眠りに落ちていた。

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