親族

玄関口にいたのは夏宮泉(なつみやいずみ)だった。泉は俺の姉だ。年齢は一緒だが、誕生日が少し早い。美人でスタイルはいいが、性格が少し問題ありだ。

「あら、早いわね。ほかはまだかしら?」

「姉貴も相変わらずだな~その上から目線の言い方、、」

顔を引きつらせながら俺は言う。

「レディーに言うセリフじゃないわ。」

姉貴はいつも自分のことをレディーと呼ぶ。

「ふーん。レディーねえ。」

俺がこのやり取りをこれまで何百回したことか、、姉貴の性格について触れるといつも決まってこんな会話になる。

「ちょっと散歩してくるわ~」

姉貴は大広間の方へ歩いて行った。

ふと腕時計を見た。約束の時間だ。これまでの集まりではだれも遅刻したことはなかった。何かあったのだろうか、、そう思った時だった。

大勢の声が聞こえてきた。なにやら談笑しているようだった。

みんながぞろぞろ玄関口へ入ってきた。久しぶりに会った親族たち。顔を合わせるや否や俺は親族たちとハグをした。

「みんな遅かったな!俺が最初についちゃったぜ!」

「俺たちは駅で待ち合わせしてまとまって来たんや!」

この関西弁を話すのは、俺の兄貴分の夏宮十一智(なつみやといち)だ。

気前が良くさっぱりしている。でも、スポーツも万能で頭もいい。

親族の中で俺が最も慕っている。

「みんなで事前に連絡しあって駅で待ち合わせしてたのよ!」

と萌黄(もえぎ)。俺の妹分だ。気が強いが、しぐさが可愛い。

どうやら姉貴と俺以外は事前に打ち合わせして固まってきたようだ。

「すまん、足が疲れたから座りたい。」

そうか、兄貴たちは急いできたんだ。

「姉貴も来てるぜ!まあ、相変わらず上から目線だけどな!」

「泉と会うのは久しぶりやなあ。楽しみや!」

みんなと一緒に大広間へ移る途中、冷たい風が横をすり抜けた。

「なあ、兄貴、外寒かったか?」

「雨が降りそうだったな。まあ、そんな空を眺めるのもまた一興だがね。」

これは長男の灯(ともしび)だ。詩人にあこがれていて、キザなことばかり言う。

嫌いではないが、たまにそれでイライラするときがあるのも事実だ。

「そういや、雨降りそうやったなあ」

少し肌寒いのもそれが原因か、、さっきから足が小刻みに震えている。

翅の園にはストーブがあるが、部屋が広すぎるためなかなか温まらない。

姉貴がストーブ用意してくれてたらいいんだけど、、

あまり期待はできそうにない。


大広間に入った。姉貴はいなかった。大広間の方向に向かっていったからいると思ったんだけど、、まあ、ここにはたくさんの部屋があるし、庭のバラでも見に行ったのかもしれない。気まぐれな性格だし。

「あれ、泉がおらんな。どこ行ったんやろ?」

「姉貴のことだからどっか行ったんだろ。そのうち戻ってくると思うよ。」

そうは言いながらも、どこか違和感を感じた。姉貴は汚れるのが嫌いだから雨が降っているときには外には出ないはずだ。バラ園には行ってない気がする。

「まあ、姉さんは気まぐれだからね。」

ストーブを抱えた大地(だいち)が言った。大地は俺たち親族の中で最も年下で背が低い。だが、俺たちの中で一番真面目なのは大地だろう。俺とは違ってコツコツと物事をこなすタイプだ。

「そのストーブどうしたんや?」十一智が不思議そうに聞く。

「応接室から運んで来たんだよ。」大広間から少し行ったところには応接室という祖父さまが接客時に使っていた部屋がある。まあ、今や物置小屋と化している部屋で、俺たちが小さい頃にはかくれんぼの絶好の隠れ場だった部屋だ。散らかっていて、がらくたが山積みされている部屋だ。かくれんぼをしていた時の思い出が蘇ってきたため、くすっと俺は笑った。


しばらくすると部屋が温まってきた。俺は談笑している親族たちを見て、違和感を感じた。そうか、天音がいない。今朝、俺を起こしてくれた天音がいない。

天音は遅刻を絶対にしないのに、、今日はなんか変な日だ。

天音はこの集まりをとても楽しみにしていた。ケータイを確認したが、天音からは何の連絡も入ってなかった。俺は不思議に思って聞いてみた。

「な、なあ、誰か天音を知らないか?」

「あ、そういえば。天音ちゃんからメールが来てたよ。なんか遅れるって。」大地はそう言ってケータイの画面を見せた。確かにそこには天音のメールがあった。

「ごめん!今日の集まり、ちょっと遅れるね!お兄ちゃんに言えばよかったんだけど、なんかメールつながらなくて、、電波が通じてないみたい。それじゃあ、よろしく!」

ビックリマークが相変わらず多い。しかし、電波が通じないとはどういうことだろう、、ここは田舎だし、周りには木ばっかりだからか?

「親父と誰か会ってないか?」灯が聞いてきた。

確かに親父の姿が見えない。いつもなら無愛想な感じで俺たちを迎えてくれるのに。

「親父も遅れるんかいのう、、今回はなんかいつもと違う感じやな。」

「お父様はまた碑文を解いているのかしら?」

長女の樹李(じゅり)だ。ミステリー好きで碑文の謎にとても関心を抱いている。

「親父も必死なんだってな。俺は碑文のかけらも分かんねえぜ。」俺は碑文の謎が全く分からないが、割と興味がある。まあ、祖父さまの財産なんて一切興味がないが。

窓越しに雨の音が聞こえてきた。どうやら強く降って来たらしい。姉貴が見つからないまま、俺たちは食事の準備をし始めた。食材は翅の園にかなり置いてある。普段は親父がいるし、使用人もいるからだ。しかし、今は使用人が俺たちの集まりのためにいない。俺たちは厨房に入ってぼちぼちと支度をし始めた。



この時、俺たちは気づくはずもなかった。この後に訪れる悲劇に。

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