第4話 「仮面ライタースーパーカブ」未来の旦那は怪人だった
(サブタイは矢追純一UFОスペシャルのノリで読んでくださるとうれしいです)
時間を少しさかのぼる。
私と旦那の出会いは大学の特撮・アニメ研究会だったが、今思えばそこは現在も活躍中のライター、プロデューサー、演出家などを輩出した、ガチなサークルであった。とはいえ業界に入ったのは素人目にも優秀で、能力の突出した一握り。あとは教職や公務員が多かった。
年に一度の学園祭には作品を上映するのが伝統だ。それにはアニメと特撮を交互に作るのが習わしになっている。
私と旦那が(同い年です) 大学3年になった年は特撮の年で、ワルノリ大好きな旦那とその一派はほぼ満場一致で「仮面ライダー」のパロディを作ることにした。好きな事にはホノオモユル的な情熱を燃やす旦那は、サークル会議のその場で企画書と簡単な脚本を書き上げて、
「ふんふん。こういうの考えたんだけど」と、喫茶店マイアミに陣取った会員たちに見せた。
「仮面ライター スーパーカブ」
「やりましょうよ先輩っ」
「俺おやっさんで」
「じゃ俺戦闘員で」
今でも通用するオタクのテンプレのような外見の、でもとっても気のいい青年達が次々と挙手して配役を決めていく。まだシナリオもストーリーも本決まりじゃないのに。
「俺、企画と脚本の権限で怪人役もーらい」
旦那が無邪気に宣言すると、他のメンバーから一斉にいいないいなの合唱が起こった。
怪人が心からやりたかったのは旦那くらいで、後で聞いたら皆「顔が隠れるマスクをした怪人役が、身バレしなくていい」という理由だった。
「待て、ヒロイン誰だよ」
私はヘアメイク・渉外・買い出しその他マネジメント全般と決まっていたので、涼しい顔でレモンスカッシュを飲んでいた。
「大杉、お前やれ」
「えええー」
指名されたのは高校時代空手部だったという、小柄で小顔、シュッとした2年生の男の子だった。
「ヒロインの衣装着られるくらい細いの、お前だけなんだよ」
いつの間にかじゃんけんで主演「仮面ライタースーパーカブ」に決まっていた小柄な後輩が説得にかかる。ちなみに大学に何年も在籍している強者なので、この時点で私達より年上だ。
「なあ大杉、お前しかいないんだよ」
「でも俺こんな頭っすよ」
ヒロイン候補は「もう中学生」氏のような坊ちゃん狩りであった。
「大丈夫。ズラ被るから」
「南先輩が可愛くメイクしてドレス着せてあげるから」
「絶対にズームもアップもしないから」
お気づきの通り、私が唯一の女性部員である。なのでどっしり構えてうんうんとうなづいているだけだ。お気楽だ。
「……じゃ、絶対に顔写さないでくださいよ。就職に差し支えるから」
「わかったわかった。じゃクリーミーまみのお面でも被せてやるわ」
「それ制作会社違うじゃないですか」
ズズズー…私はレモンスカッシュを飲みきり、どこでどういうズラとドレスを買おうかと、ヒロイン候補の筋肉質の体を舐め回すように見ていた。
旦那? すみません。この時点で眼中にありませんでした。
(撮影準備と撮影編に続く)
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