18章 再会

芽唯から聞いた話は、俺を驚かせるものではあったが、スジは通っていた。しかし、まだ胡桃を守りたい。俺の中には、そういう考えも残っていた。

「ほら、マリア」

芽唯は、いつの間にか、仲良くなっていた黒川の背中を柄にもなく押していた。

「きょ……恭也……その話を聞いてくれますか」

顔を赤くして、俺の名前を呼ぶ黒川。正直ドキッとしてしま、う。べっ……べつに、芽唯の話を信じたわけじゃないんだからな!……流石にキモいな俺。

「……まあ、芽唯が、あんなにも熱弁するなんて、珍しいし何よりも、俺の一番の親友が、頑張ったんだ。聞かないほうがこっちも悪い気がするからな」

……この際イケメンな俺が気持ち悪くてもいい、黒川の話を聞くことにしよう。

「覚えていますか?孤児院で初めて私にあった時の言葉を」

昔を思い出すように語りだす芽唯。少しだけ、覚えている気がする。あの時は……

「金髪ヤンキーなんて言ったんですよ!信じられます!?初めて会った女の子をヤンキー扱いしたんですよ!デリカシーの欠片もないと思いません!?それの癖、私がいじめっ子にいじめられていた時、胡桃と一緒に助けにくれたり、私が暗いのが苦手なのを知っていて、夜にいつも一緒に手をつないで寝てくれたりして、優しい一面があったりして」

怒った顔や優しそうな顔をする黒川。その顔は、昔から知っている表情な気がして……

「覚えていますか?二人で通った小学校の通学路」

その顔は、俺の知っている顔で語る黒川。

「私は、止めたのに近所のおじさんの家を何度もピンポンダッシュして、結局怒られたのは、足の遅い私だけだったこととか、逃げ出した犬に噛まれそうな私を守って、無茶して噛まれてまで助けてくれたこと」

愛おしい顔。忘れてはいけなかった顔。けれど忘れていた顔。

「知っていました?私が恭也のこと好きだったこと」

そして、黒川は、笑顔ではにかんだ。俺は、思い出した。俺の横にいたのは、胡桃だけでなかった。黒川も俺といてくれたこと。

同時に俺の記憶と混ざり、頭の中がごっちゃになり、何が正しくて、何が間違えているのか……耐えられなくて、辛くて、幸せで、悲しくて、嬉しくて、懐かしくって、頭が破裂してしまいそうになった。

「うぐ……うぐぐ……」

「恭也、無理しないで。ゆっくりでいいから、私を思い出して。私を一人にしないで、私を忘れないで!」

崩れ落ちそうな俺を支えてくれた黒川。黒川の涙が俺の頭に落ちる。

俺は、最低だ。女の子を泣かせてばっかりで、あまつさえ、こんなにも純粋な家族を忘れてしまいそうになるなんて……

「ごめん……二人とも、今から良いシーンのところ」

「ぎゃ!」

「きゃあ!」

そういい、全くの無表情で俺たちの間に入ってくる。いつもながら高いステレス性能は、驚かされるばかりである。

しかし、声音はいてって、真面目……というより普段より真面目な口調で驚いてしまった。

「まだ、恭也の問題は、終わっていない。ねぇ胡桃」

「さすが芽唯ちゃん。いつも私とお兄ちゃんだけの物語を邪魔ばかりしてるだけあってすぐ気づくね!」

驚いた。胡桃には、今日俺が芽唯に呼ばれたことは、黙っていたはず。

しかしそこには、胡桃が当たり前のようにいる。無邪気そうな顔をして、屋上の出入口を塞ぐようにいる。まるで、秘密を知った愚か者を逃がさないようにそこに立っていた。

「お兄ちゃん!そんな嘘つきたちおいていこう!ね!今日は、お兄ちゃんの大好きなカレーライスだよ!お肉いっぱいのやつ!だから、帰ろう『二人』でね」

もう、俺の知る胡桃ではなく、その顔は、何かにとりつかれたかのように不気味な笑顔だった。

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