17章 検証
家出(仮)から三日、水彩高校屋上、そこには、私と手錠に猿轡を口に付けられたマリアがいた。
「もご……もごご!」
「大丈夫。恭也が来たらわかるから」
私は、マリアにそう言い聞かせ、屋上の物陰に隠した。そうして、迷走している物語の主人公が来るのを待った。
それから、数分、時間きっかり、恭也が困ったような表情をしながら、出てきた。
「なあ、芽唯……外泊の話は、胡桃から聞いたが、三日間も帰ってこないと俺だって心配するぞ……教室でも口をきいてくれなかったし。どうした?」
「心配はしてくれてたのね。モテる女は、辛い」
「家族としてだからな……」
恭也は、そう言いため息を吐いた。ここから私は、救わないといけない。彼の物語を。
「単刀直入にいう。恭也、今日は、家族としてではなく、日常生活推進部の一員としてあなたに会いに来た」
検証1、恭也は、私が胡桃たちを不幸にした張本人であると嘘をついたときどのような反応をするか。
「なんでそりゃ?」
しかし、恭也は、私の嘘に対してきょとんとしていた。ここから、恭也は、完全に記憶を思い出していないことが判明した。
恐らく、これを聞いた、黒川さんは、私の嘘を信じて、物陰でもがいているところだろう。
「まあ、それは、どうでもいい。話は、一つ。胡桃の身柄を私に渡して」
「いや……芽唯。それは、どういうことだ。もしかして、日常生活推進部ってサバトの機関か!」
「さて、それは言えないし言わない。言う必要はない」
「なら、断る。もう俺は、胡桃との幸せを失うわけにはいかない」
「私に昔、嘘をついた恭也なのに?」
「そんなのは、過去の話だ」
検証2、恭也の胡桃に対してのあまりに強い思考によって迷いがない。元々恭也は、自分にそこまで関係ないものには、迷いなく切り捨てられるが、私に対して負い目を感じていたはず。
私も、あまり使いたくはなかったが、恭也を傷つけに来た私も傷つかないといけない。今はそういう時なのだ。
「そう、じゃあこれを見ても?」
私は、そう言い黒川さんの持っていたホイッスルをポケットからだした。
「な!そのホイッスルは!?」
「さて、誰のでしょう。言えることは、持ち主は今、危機的状況にいる。この交渉に答えなければ、酷い目にあう」
「お前!」
「動くな。私に危害を加えると言うことは、交渉決裂。持ち主は、頭のいい恭也ならわかるはず」
「……芽唯。おまえどうしてこんなことをできるんだ」
検証3、行動に矛盾が生じるか。これは、信じられない相手が命が関わると錯覚させた状態で恭也は、マリアを切り捨てられるか。胡桃たちの記憶が正しい場合、彼の物語でマリアは、モブヒロインである。負い目をも切り捨てらる様な、理性を失った主人公なら迷わず切り捨てるはず。しかし、現に恭也は、迷っていた。
「当たり前、それは、私の友達のため」
そう言うと、屋上の物陰で、見たこともないような、火柱が立つ。それと同時にマリアは、怒った表情で、私の前まで歩いてくる。
「う……うお!く……黒川!お前どこから!」
突然のマリアの登場に驚く恭也、当たり前だ。人質と言われていたマリアが目の前にいる、しかも今までにない怒りの表情で……普通に怖い。確かに、この検証については、説明しなかったのは、申し訳ない。しかし、これは死ぬかも私は、怪我をする覚悟した。
「芽唯……あなた、嘘をついていたのですね。しかし失敗でしたね。私のハイパーセンスは、温度を操る力、手錠や猿轡くらい焼ききれるんですよ」
「……マリア、せっかち」
「いえ、タイミングは、バッチリです。芽唯に痛い思いをさせる分には」
マリアの火力は、予想外に強く思ったより、早く拘束が解けてしまった。私は、流石に今までうまくいっていたから、調子に乗っていたのかもしれない。未知の力に対しての強さまでは、想定できていなかった。
そしてマリアが、私に人差し指をむけた刹那……
「すまん黒川!芽唯も調子に乗りすぎたんだ!俺が、言える立場ではないが、俺のイケメンに免じて許してくれ!」
恭也は、私とマリアの間に立ち、マリアに対して本気で謝った。見事な土下座だ。
……結果として、恭也の行動は、矛盾した。
胡桃を守るためなら、静観するべき状態、口では、胡桃を守ると言っていた恭也が私を守り喧嘩の仲裁に入ったのだから。
「な!どいてください!恭也!そいつ殺せない!」
「どかん……それに、芽唯には、理由があって行動してるんだ。……ってあれ、俺のことなんで名前で呼んだ黒川?」
「それは……はぁ……本当に覚えていないんですね……なんでしょう。はい、芽唯への怒りもなんだか覚めてしまいます」
……よかった。どうやら、マリアの怒りは、冷静に話を聞けるくらいにはなったはず。
というか、自分との記憶を覚えていないことに私の怒りより、恭也に対しての呆れの方が強く出ていた。
「……な、なんだよ。俺は、記憶を取り戻したぞ!」
ため息をつかれたことに対してなのか、態度なのかいつも通りの恭也に戻っていた。
「へー、私のことは、忘れたそう言うこというのですね。ふーん」
「俺が悪いの!?」
「確かにマリアに私が、日常生活推進部とかいう嘘をついたのとか、恭也にもアリもしないブラフを掛けたのは、悪いと思うけれど、恭也が悪い」
「「黒幕は、お前か!」」
「わお、息がぴったり」
……うん、なんか、さっきまでのシリアスな雰囲気は、無くなった。今こそ私の推理言うタイミングなのではないのだろう。
前みたいな私の好きな雰囲気になったところで、少し笑いそうになった表情を我慢した。
「私の推理。マリアにも忘れていた過去があった。しかし恭也たちとは違う記憶。どちらかが、捏造と仮定した上で話す。正しい記憶は、マリア」
「冗談だろう、芽唯。……冗談じゃない顔か。まあ、分かった。話を聞くよ」
こうして、私は、恭也にマリアの話を聞かせることに成功した。
というわけで、私が、マリアに話した違和感や、恭也の行動について改めて説明した。恭也は、頭では、わかっていたが、納得は出来ていなかった。
だからこそここからは、マリアの番である。
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