16章 カッコいい事をたまに言おうとして失敗する
マリアは、そのまま続ける。
「私は昔、水上くん…いいえ恭也と胡桃と一緒に孤児院で生活していました」
「待って」
「はい?なんでしょう」
いやいや、いきなりの超展開!?恭也と胡桃が孤児院で暮らしていた!?待ってほしいおかしい。
「恭也達、両親いる」
「あー、そういう設定にしていたのですね。サバトは、全くあの組織は本当に、はぁ……」
なんだろうかため息をはかれるサバトとか言う組織……残念すぎる。
「まあ、アレです。隠蔽工作というか……まあ、それは、話していれば追々分かります」
「うん」
とにかく話を聞こう。真偽を確かめるのはそこからだ。
「私は、能力が危険なため預けられ、恭也たちは、両親のハイパーセンスによって孤児になりました。まあ、訳ありな子どもの集められる孤児院で私たちは、出会った訳です」
「ほう……」
「まあ、本当は、訳ありな子供が社会復帰ためサバトが立てた孤児院なのですが、そこで、胡桃は、能力を発揮しました。自分の都合のいいように事象に干渉できる力です。まあ、一枚岩ではないサバトの……日常生活推進部が目に付けられました」
……ダサい。組織の名前がサバトとか、能力の呼称とか、組織の暗部みたいな部署の名前がひたすらにダサい。
「まあ、それで、胡桃は実験され狂いかけたところを私と、恭也が助けたけれど記憶は改ざんされて離れ離れに……日常生活推進部を隠すため、私は、今の母さんに預けられ、恭也たちは、一般人として生活して行きました。まあ、そこからは時代は飛んで高校の屋上での再開になります」
……そこからは、ここ数週間の出来事であり、ありきたりなボーイ・ミーツ・ガールな話であった。
「まあ……それで、母さんの恭也についてまとめた資料によって私は、過去の記憶を思い出したのです。まあ、母さんも胡桃の影響、孤児院で働いていたことを忘れていたみたいですが……」
まあ、マリアは、一足先に記憶を思い出していたけれど、話さないことに決めたらしい。その方が……サバトとは、関わっていない方が、平和だから。
しかし、ここからが問題であった。
「まあ、屋上で聞いた話は、私の知る話とは、全く違う話でした。恭也には、そもそも能力がないはずでした。彼の記憶が消えなかったのは、母さん曰く本当の親の持つハイパーセンスが影響したためでありましたがそれ以外は、一般人のはず。それに胡桃も私が知る能力とは、全く別ものでした」
「うん」
「それで、私、恭也たちに疑われて、嫌われたとき、考えてしまったのです。私が思い出した記憶は、偽りで、彼が思い出したことが真実だとすれば、確かに私は、生活推進部の思惑通り動く人形として記憶の改ざんが行われたのではと」
……語る時のマリアの目は、懐かしそうで寂しそうだった。その原因は、記憶の矛盾ということである。私は、そう理解した。
だから聞いた。
「で、マリアは、どうするの」
「どうするもなにも……そんなの……私が手を引くしかないです……」
目に涙を溜め、泣くのを我慢するマリア。部屋が途端に夏のように暑くなる……比喩ではない。恐らくこれが、彼女の代償。
けどおかしい。この話は、絶対におかしい。目の前で女の子が泣いている。私なら、気にしない。しかし、私の知る恭也ならどうするか……そんなの簡単だ。・
助けるに決まっている。
「私は、マリアを信じる」
「な……なぜ!私は、恭也たちの生活を破壊するかもしれない存在なのですよ!」
エアコンいらずとか言った自分を恨む。室温は、暖かいとかを通り越し、もはや、サウナのようであった。私は、暑くて、着ていた服をすべて脱いだ。
「な!なぜ脱ぐのですか!」
「それは、あなたの心の暑さを体で感じたから」
「馬鹿なんですか!」
「馬鹿でいい。私は、目の前で泣いている友人を悲しませたくないから」
自分の言葉でない。これは、私が、恭也にもらった言葉だ。私の根幹は、何もないただの空っぽ。しかし、そこに意思がないわけではない。
私にも意思はある。
目の前の友人を悲しませたくないから。私の言葉ではないが、私の意志だ。
「あはは……ははは……なんかキザですね……恭也みたい」
「私のやっていることは、所詮恭也の真似事。そしてここからが、私にしかできないこと。それは、真実を導き出す」
私は、強くなくてはいけない、上辺は強いふりをしている友人の代わりに。
私が、間違えた時に助けてくれた彼のため。
今度は、私が、彼を助ける。
「では、私が恭也達の話を盗み聞きしたことと、今、マリアから聞いたことを推測した答えを言おうと思う」
……私は、このまま持論を語ろうとしたのだが、気がついてしまった。部屋の温度が元に戻ってきたのだ。そう実感した瞬間、マリアは、私に抱きついてきた。
「うわあぁぁああああぁぁぁぁん!よかった……よかった……私、わたし……間違えてなかった!うあぁぁぁぁぁぁぁん!」
今度は、私の素肌で涙や、鼻水を拭いてきた。数時間前と同じような光景だったが、今は、数時間前みたいな冷たい涙では無く、温かい涙だった。
「ほらほら、泣かないの」
「うぅ……ひっぐ……わかっだ……ありがとう」
私は、マリアの涙を拭くためポケットからハンカチを出そうと……私、今、全裸でした。
……少しくらい頓着を持とうかな……うん、私も成長しなくては……
「泣き止んだから、私の持論、話すね」
「うん!よろしく、芽唯!」
あれから、一時間、泣き続けた結果私は、服も着れずに素肌は、マリアの体液まみれ……今は、下ネタを言っても乗ってくれる人がいないのでやめておこう。
「というか、私の名前」
「え……芽唯は、友達だし、私は、ファーストネームで呼ばれているのに芽唯をファーストネームで呼ばないのは、おかしいです」
「……そう」
うん、マリアは、イジリがいのある玩具くらいにしか思っていなかったけれど、こうやって二人で話すとなんというか……うん、私がいじられそう。しかも本人は、無自覚に……
「おっほん!では、私がマリアを信じたのは3つの根拠がある」
「はあ」
「1つ、恭也たちとマリアの記憶に齟齬がある。間違えは、恭也」
そう、『恭也』は、記憶が完全に戻っていない様子であった。それは、胡桃との感情の高ぶり方の違い。恭也が、自分の幸せを奪った相手を目の前にして、あそこまで冷静には、なれないから。それは、彼の性格的問題。熱くなると何を仕出かすか分からないから。
「はい……」
「2つ、胡桃の話には、一切マリアが出ていない」
胡桃の話は、意図的と思える程、記憶の中にマリアが出てきてない。これは、おかしい。マリアが恭也の過去の物語に関わっていないのなら、そもそも、マリアの記憶の改ざんは、ありえないから。
例え、マリアが嘘をついていたとすると、恭也の家に両親の不在が多すぎるのだ。
私が、四年前に居候をしてから、両親は、仕事や法事、旅行など、様々な理由をつけて帰ってこない。私も現に居候を始めてから恭也たちの両親にあったのは、二回ほど。
常識知らずと言われる私でも、この頻度は、明らかにおかしい。育児放棄のレベルである。
「はい」
マリアも、だんだん私のことを理解してきたのか、黙々と頷いてくれている。
「そして3つ。胡桃と恭也の記憶が戻るのが余りにも唐突すぎること。そして、胡桃と恭也の記憶の回復速度の違いがおかしい」
前兆があったにしろ、恭也と胡桃の記憶の修復には、違和感を感じた。
昨日まで、何の変哲もなく、いつもどおりの日常を過ごしていた私を含む、水上家。それがなんの前触れもなく、突然記憶を思い出すのだろうか。
確率としては、ゼロに等しいとまで感じる。それなら、よっぽど、恭也についての調査の資料を読んで記憶が戻ったという方が、説得力があるからだ。
「結論、恭也とマリアは、被害者。加害者は、胡桃」
そして、この喧嘩の元凶は、記憶の戻り方のおかしい、恭也か胡桃。
そして、一日にして、恐ろしい程の態度の変化……キャラ崩壊といっても過言はない変化をしたのは、胡桃である。
信じたくはないが、現実は、時に残酷であるのかもしれない。
「ということ、私の言いたいことは、分かった?」
私は、我ながら素晴らしい推理だ。もう、私を答えが先に出るタダの天才なんて言わせない。私は、完璧な天才に昇華したのだ。
これでマリアも納得の表情のはず。私は、マリアの理解度を確かめるために確認をとったのだが、マリアは、少し間を置いてドヤ顔で言った。
「なるほど、分からん」
「……なら分かるまで言う」
なんというか、こう。マリアは、友人だけれど、苦手なタイプかも知れない。
だから、とりあえず、言おうとしていたカッコイイセリフだけは言うことにした。
「私と一緒に、世界を救いましょう」
「……世界?あ!恭也と胡桃のことですね!分かりました!」
……私、恭也以外は会話の成立しない人間しかいないと思っていたけれど、見当違いなのかもしれない。完全に私の方が、会話の成立しない人間なのだろう。
結局この後、マリアを泣き止ませるより長い時間を掛け、マリアが私の話を理解するまで話し続けた。
結局、お互いが、説明によって疲労困憊。シンデレラは、とっくに魔法が解けている時間であった。
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