15章 芽唯の奇妙なパロディ
「じゃあ、本題」
似合わないシリアス顔をする黒川さん。まあ、私が見た限り衝撃的なものであったのだから当事者の彼女は、もっと衝撃的ものだったのだろうから仕方ないが。
だからこそ、私は、黒川さんのことを一切考えず、本題に入ろうとする……しかし、私には、それをするための信頼を獲得しなければいけない。
つまり、相手と話す際、有利に立つためには、本題だけではいけないということ……これも恭也から教わったこと。本当に私は、彼から色々な物を貰った。だからこそ、恭也が間違えたら、私が正さないといけない。それが、恭也に対してできる私の恩返し。
「私たちは、友達?」
「なん!なにをいきなり!それは、当たり前です!というかそれが本題ですか?」
「違うけれど。それは、本当?」
「な……なんですか!本当って!」
「私たちは友達?」
私が初めて挑むひとりぼっちの戦いの開始の合図は、一人の金髪少女に委ねる。
「ほ……本当です!」
そして、この確認が取れた時点で、私の戦いが始まった。
「では、マリア。まず私は、疑問に思った。なんで彼にハイパーセンスについて真実を話さなかった?マリアは嘘を付いていない。けれど隠したことはある。それは何?」
「な!……いきなりファーストネーム!それになぜ道後さんがハイパーセンスについて知っているのですか!」
マリアは、あからさまに驚く、恐らく私が突然マリアと名前で呼んだからではない。
……ハイパーセンス。何かは、さっぱり分からないが、私の家族とマリアが喧嘩した原因であり未知の概念について言及を始めたからのはず。
私は、これについて、ある程度の知識と喧嘩の原因を知らないといけない。ではないと、この物語に私は、不要となってしまう。
それは、困る。私には、家族と認めた人間にまで私が不要になってしまったら、何のために生きてきたかすら分からなくなるから。
「……さて、私は、どこまで知っているか。それは、私にしか解らない」
「やっぱり道後さんには、これを使わなくては……」
マリアは、自分の胸元の笛をとって吹こうとするが……
「『ぴゅろぴゅろぴゅろ』……あれ?これってオモチャの笛!?」
マリアが吹いたのは、私が格安の殿堂に寄る前に買っておいた百均で売っているオモチャの笛だった。
「探しているのは、これでしょ」
「な……なぜそれを道後さんが!それは、ハイパーセンスの持ち主しか渡されないはずのホイッスル!もしかて、道後さんも能力者!?」
……能力者。つまり、ハイパーセンスというのは、超能力者のようなものであると、マリアの迂闊な一言で理解した。
「その質問には答えない。持っている理由はすり替えたから。補足するとこの後、マリアは、『返してください』というけれど、絶対に返さない」
よかった……今まで、彼女が、いつも大事そうに持っていた笛。最初は、何か重要なものかと思っていたけれど、恐らく記憶を消す系のアイテム……のはず。
話を聞く限り、ハイパーセンス?とかいう概念を隠すアイテムがなければ、とっくにそういう組織があることは、バレている。
そして今頃みんなの知る概念になっていた。しかし、皆が知らない概念となると恐らく、記憶を隠蔽するようなものがあるはず。
そして、それを皆が持ち続けなければ、いつか、秘密は、バレてしまい決壊する。
そして、マリアが、学園に来てから持ち続けていたのは、恐らくネックレス状にしていつも肌身離さず持っていたこの笛のはず。
「返してください!……え!もしかしてやはり……道後さんは感知系の能力者……」
うまく、マリアが私のジョ○ョパロにハマってくれた。今回私は、真実を引き出すためには、勝利条件と敗北条件がある。
勝利条件は、友人を騙し通すこと。敗北条件は、見破られること。
これによって、私は、恭也の物語へ登場人物として登場できるかが決まる。だからこそ私は、負けてはいけない。
「……そうね。私は、自分のことをしっかりと話せないのかもしれない。それが、能力を使うための条件かもしれないし。違うかも知れない。それをどう捉えるかは、マリア次第」
賭けではあった。
能力っていうものは、物語では、二つある。
無制限に能力を使えるようなもの、何かしらの限定的な条件下で使えるもの。
私は、恭也たちの会話を聞いて推測したものだが、私も神ではない。忘れることもあれば、失敗することもある。だからこそこれは、賭け。
「そうですか、そういう代償があるのですね……では、私も答えないといけないですね」
そう言うとマリアは、自分の両手を私の両手交互別々に繋いだ。
「!」
私は、驚いた。マリアの右手は、人の体温より異常に熱く、左手は、異常に冷たかった。
「私の能力は、温度動作。私は、温度を高くしたり、低くしたりできるんです。その関係で、炎が出すことや、氷を作れますが、感情に飲まれると能力が暴発してしまうんです」
「エアコン要らず。良い能力」
「なんでしょう。水上くんとは、別の意味で嫌な例えかたされました」
……凄く、嫌そうな表情をするマリア。しかしもっと私は、今の状態が嫌だ。
今、マリアは、喧嘩して感情が不安定。つまり暴走寸前。そして、私は、手を掴まれ逃げられない状態。私なら、ここで脅して笛を巻き上げるが、マリアは、そこまで考えていないことを願う。
「あ!ごめんなさい!ずっと手を握っていたら驚きますよね!」
そう言い私の手を離すマリア。本当にいい人だ。
安心した。マリアがいい人で、しかし不思議に思った。こんな根のいい人間が果たして、恭也や胡桃を怒らせるようなことをするのか。明らかに不自然であった。私のように悪い人間ならこの時点でゲームオーバのはずだったのに、マリアはそうしないのだから。
「別に、信用してくれたならいい。所で今日のこと、貴方たちは、なぜ喧嘩したの?相談なら乗る同じ者どうし」
まあ、この場合は、同じ人間同士という意味であるが、そんな野暮なことは言わない。
私は、今から彼女の話を聞くことに徹することにした。
「そうですね……。まず、私は、ここ最近、母さんにこのことを聞くまで忘れていました。見事に私も記憶を隠蔽されていたんです。という前置きで始めます」
前置きが物騒なのは、突っ込まない。まだよくある展開。
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