14章 桃色ノ小型卑猥電動按摩機(ピンク○ーター
私は、今日の恭也や胡桃の変貌ぶりに、自分らしくもなく驚いていた。あんなにも、素直に恭也の隣で眠る胡桃。私は、最初、ボケかと思っていたが、どうもその様子は無く、朝ごはんも食べず出かける二人に違和感をかんじたが、輪に入ることもできなかった。
だからこそ、柄でもない、兄妹のストーキングをしていたのだが、驚いたのは、そんなことより、屋上で一人泣きじゃくる黒川さんだった。
「泣いてる」
「……どうごさん?」
「うん」
「ひっぐ……ひっぐ……どうごさぁーん!」
「う……泣くのはいいけれど、涙とか鼻水を私の制服で拭かないで……」
黒川さんは、私を見つけると、感情を爆発させたのか、私の制服にすがりつき、くしゃくしゃになった顔を隠すように泣き続ける。
「……今はいいか」
けれど、これ以上黒川さんを突き放す理由もなく、私は、黒川さんが泣き止むまで彼女を抱きしめ続けた。
そして、理由は分からないが、答えだけは、なんとなく分かった。彼女を泣かせたのは、私の家族であり、家族の罪。
今は、家族の罪に対する償いをしようと考えた。……制服をクリーニングにいつだそうか、そんなことを考えながらも、私と黒川さんの時間は過ぎていく。
そうして、日は暮れ、気がつくと夜も近くなってきていた。
このまま、学校に居るわけにも行かないので、私は、黒川さんを連れて、近くにある、愉快な音楽が流れるディスカウントストア、通称ドンキに来ていた。
「ん……とりあえず着替え買わないと」
「……」
ここに来るまで、黒川さんは、無言。というか、私が、こうやって、手を引いて歩かないと恐らくまだ屋上で泣いていた。それは、もはや人形のようだった。
「下着は、適当でもいいか」
「……」
私は、普段よりも大きい、スタイルのいい人向けのブラジャーを手に取るギャグをカマしたが、黒川さんは、無反応だった。
「突っ込まない、ツッコミ……うむ」
私は、この状態を打開する恭也の要領の良さはない。私は、今度こそ自分に合う下着を手に取り、自分らしい方法で彼女を慰めるしかない。柄でもないが、一緒に夜を過ごした中でもある。私に恭也がしてくれたことを今度は、この子に私がしなければいけない。そう感じさせてしまった。
そして、入ったのは、大人向けの性玩具の置かれているコーナーであった。
「さて、今日のお供は……」
普段の彼女なら、もはや、入った時点で、ツッコミが入るはずなのだが、そもそもいま自分がどこにいるかも理解していないのか、虚ろな目でどこかを見ていた。
「……黒川さん」
「……」
返事がない。ただのメンタルの弱い乙女のようだ。こういうタイプの人とは、関わってこなかったことに対して、過去の自分を説教したいが、そんなことは、できない。
だから私は、狙った様に卑猥な形をしたピンク色の電動マッサージ器の試供品の電源をいれ黒川さんのおへそに思いっきり当てた。
「目を覚ませ、さもなくば、公然の面前で痴態を晒すことになる」
「……?……!……ひ!うひゃぁぁぁぁ!やめ!やめて!道後さんやめて!」
「やめない」
「らめ……らめだから……あひぃ!」
まるで即落ち二コマの様な反応を取る黒川さんに私は、多少の嗜虐心を煽られてしまったが、今は、彼女を見世物にするときではない。そう思い……というか、ようやくまともに喋れそうで私は、多少の安心をしていた。
「……ようやく目が覚めた」
「ちょ……ちょっと!いきなり人になんて卑猥なもの押し付けてくるんですか!」
「それは、もちろん電マ。それに、電マは、卑猥なものではない。これは、元来マッサージ目的で作られたもの。エロくないからセーフ」
「それでも恥ずかしいです!」
ようやく、黒川さんが、本領を発揮した。だからこそ、私も本題に入ることにした。
「私、今日から、黒川さんの家に家出する」
「へ?なんでですと!」
黒川さんは、突然の申し出に驚いていた。しかし、ここは、激安の殿堂……ク言うところで話すのもなんというか、面白くないし、絵的にもあまり美しくない。
「詳しいことは、あとで話す。ここだと雰囲気がないから移動」
「いや!できれば概要だけでも!」
「ここがイヌカレ●空間だったらいいけれど、そういう訳でもないでしょう」
「か……カレー?いや、なんですか?そのインド的空間」
「そのボケ三点」
「ぼ……ボケじゃないです!」
いや、ボケでないのは、おかしい。黒川さんは、アニメを見ないのだろうか……今日は、アニメを見ることにした。全部終わったらアニメマラソンが確定した瞬間でもあった。
「とにかく、今は、家出用の着替えや、必要最低限の本とかを買い揃えないといけないから、まずは、私に付き合って」
「はぁ……」
こうして、私たちは、家出に必要最低限なものを買い集め、黒川さんの家に家出する準備を整えた。
そうして、テンポよく私は、物事を進め、黒川さんの家にお邪魔することにした。
彼女の家は、どこにでもあるような一軒家で、私の突然の申し出にも関わらず、すんなり家にお邪魔することができた。そして、私は、迷わず、黒川さんの自室へ向かおうとすると黒川さんに止められた。
「あー!待ってください!十分でいいので待ってください!部屋を片付けるので!」
気まずそうに私に声をかける黒川さん。
「安心して、別に、大人のおもちゃとかあっても驚かない」
「そ……そうじゃなくて!あまり見られたくないものがあるので!」
「パンツの中に仕込んだ、ピンク色のモノを隠すなら、仕方ないから、待つ」
「違います!」
そう言い、扉を閉める黒川さん。……気を使ったつもりなのだが、どうやら配慮が足りないようだった。恭也に教わった配慮を実践しただけなのに、なぜ怒られたのだろう。
とにかく黒川さんが出てくるまで着替えでもして待っていよう。
そこからきっかり十分後……
「ど……どうぞ」
しっかりと私服に着替えて部屋の扉を開けてくれた黒川さん。その服装は、前に見た白いワンピースではなく、犬をかたどったキャラパジャマだった。
「あ……あれ、道後さんも着替えたのですか?脱衣所で着替えたのですか?」
不思議そうに私を見る黒川さん。しかし、私は、脱衣所を教えてもらっていなかったから、その場で着替えたからか、ドアの横には、脱いだ下着や制服が散乱していた。
それを見て、目を丸くして驚く黒川さん。
「あ……あの、道後さん?もしかしてここで着替えました?」
私も、さっき買ったどこにでもあるジャージを着ていた。
「もちろん、一度、ここで全部脱いだ」
「下着も?」
「全裸にならないと着替えられないのは、当たり前」
……私だって、同じ下着を二日も着まわしたくはない。それぐらいの常識はある。確かに私は、無頓着と胡桃にも言われるがそれくらいは、頓着するのに、黒川さんは、顔を赤らめていた。
「いや、はい。私も脱衣所くらい教えれば良かったです」
「そう……じゃあお邪魔します」
私は、ため息をつく黒川さんに少しムッとしながらも部屋に入る。
「ど……道後さん!脱いだ服は、持って部屋に入って!」
「忘れていた」
……訂正。私は、もう少し頓着するべきかも知れない。
黒川さんの部屋は、なんの面白みもない、普通の女の子の部屋で、ベッドの上の大きなテディベアとかTHEテディベアだった。
「話も終盤に近づくにつれて、もっとヒロインは、荒むもの。このテディベアとか、八つ当たりされて腹の綿が飛び出ているとか。なのに……なんというか普通」
「いや、いきなり人の家に乗り込んで辛口評価とか、流石にひどくないですか?というか、その首の角度で喋るのは辛くないですか?」
……私は、ため息をつく。こんな普通な部屋。私は某アニメ会社の首角度で話すくらいしかシリアスさを醸し出せないのは、とても悲しい。
「……つらい」
まあ、この首角度は、虚弱体質EXスキルを持つ私には、辛いものがある。
私は、自分の首を戻し、黒川さんのベッドに腰をかける。
「……ま、まあ、そうですよね。それで話とはなんでしょうか。くだらない話だったら、流石に今日は、家に帰しますよ」
そう言い黒川さんは、女の子の部屋に置いてあっても不思議でないどこにでもある普通のウッドチェアに腰をかけた。
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