12章 天才過ぎぃ、なろ……みたい
時間は少し飛び、夕食時、いつもの食卓とは少し違うオカズが多くあった。
「凄い…なんだこれ、初めて見る料理だ」
「ふふーん!見直しましたか、水上くん。今日は、少し気合を入れてハンバーグにしてみました!なんと!今回は、ステーキ皿で本格的なハンバーグを作りましたよ」
そこに置かれていたのは、夕飯の人気者、ハンバーグ。いつもと違い、ステーキ皿に置かれ肉汁がこぼれ落ちそうなほど詰まっていそうで、見るだけで……
「「ゴクリ」」
芽唯と同じリアクションを取ってしまう。
「お姉さまは、凄いんだよ!ハンバーグ作るにも、タネの中に氷を入れて、ソースにもこだわって作ってるの!私びっくりしちゃった!私、すごく勉強になったんだ!」
ここまで興奮気味に語る胡桃は、久しぶりに見た。今まで、家の中で料理できたのは、旅行中の母さんを除いて胡桃だけで、あったので胡桃の料理は、ほとんど独学で学んでいるから、余計新鮮に見えたのだろう。
「いえいえ、胡桃ちゃんも独学とは、思えないほど料理が上手でしたよ。やっぱり胡桃ちゃんは筋がいいです。」
「えへへ。芽唯ちゃんやお兄ちゃんに褒められるより嬉しいかもしれないです」
照れている胡桃だが、そのセリフに俺達は、抗議する。
「マイシスター。俺もいつも、料理がうまいと褒めているぞ」
「そう。胡桃がいないと私たち、カップ麺が主食になってしまう」
「そりゃ、お兄ちゃんたちに褒められるのも嬉しいけれど……料理出来る人に言われると、やっぱり食べる専門のお兄ちゃんたちに褒められるより嬉しいの……にへへ」
「胡桃ちゃん、可愛いですね。やっぱりこんなに素直な子でと覚えも早くて、私も教えていてとっても楽しかったです」
「お姉さまに褒められると、ニヤケが止まらないよー」
胡桃は、黒川に褒められてか心底嬉しそうな笑顔で話す。なんだろう、本当の兄として悔しいが料理スキルの高さは負けてしまうため、何も言えない。
「うぐ、黒川に妹が連れてかれてしまうような気がしてしまう!」
「恭也、私たちもクック●ッドで料理できるようにならないと……」
芽唯はそう言いどこからか出したタブレットでクックパ●ドを開くのだが……
「芽唯、大さじ1杯ってどう図るんだ。15ccということしか俺知らないぞ」
「これは……計量器で図るのだと思う。何となく」
「なるほど。わからん」
芽唯の天才ぶりに感動する俺なのだが、それを見て、胡桃と黒川は、苦笑いをした。
「お兄ちゃんと芽唯ちゃん。二人が料理をしたいと思ったら、私たちに教えて、しっかり料理が、できるように教えてあげるから」
「そうです!なんだったら、このあと教えてもいいですよ!」
ふたりの善意が料理のできない俺たちの心をえぐる。
しかし、それに屈してはいけない。俺たちも全力で恩返しをしないといけない。
「ありがとう二人とも、俺たちも勉強のことについてなら俺たちも教えることできるからな!早速このあとは、約束通り勉強会をしよう」
「私も頑張る」
しかし、俺たちの発言に固まる、胡桃と黒川。
「べ……勉強ねぇ……」
胡桃は、受験生だからか、勉強のネタを出された瞬間、胡桃の表情は、少し暗くなり、黒川は、何かとぼけようとしているのか、俺から、目をそらした。
「恭也、胡桃は、受験生。こういう時くらい、勉強からは開放してあげないと可哀想」
珍しく、正論を言う芽唯。確かに俺や、芽唯も受験生の間が一番勉強したかもしれない。だからこそ暗い表情をするのだが……
俺は、忘れない。今日の泊まりの二つ目のコンセプト……その名も勉強会である。
「黒川、ごはんを食べる前に確認な。この後いつから始める?」
「ぐぐ……全く考えていなかったです」
「やっぱり……いいか?季節としてもまだ、春だから良いが、もう一ヶ月もすれば、中間テストだからな。テストだけ乗り切ればいい訳じゃないぞ。このあとのテストは、段々受験にも関わってくるんだぞ。受験を考えていないのならいいが」
「私だって大学には、行きたいですが……私の成績では……」
落ち込んだ表情をする黒川。確かにこのままでは、黒川では、大学にはいけないかもしれない。しかし、もう違う。
「黒川、勉強は、任せろ。なんたって、この俺が教えるんだ。好きな大学に行き放題だぞ!」
「な……なんだか不安です。保健体育を教えられそうで……」
あからさまに不安そうな表情を見せる黒川だが、珍しく胡桃が俺をフォローしてくれた。
「大丈夫ですよ、お姉さま。お兄ちゃん普段は、ナルシストでウザイですが、勉強を教える点については、ピカイチです。正直、夏期講習で行った時に教えてもらった大学生い
より、わかりやすいです」
「く……胡桃ぃ。愛してる。マイシスター!」
俺は、感動のあまり涙を流すが、マイシスターは、うざったそうに手で払ってくる。
「もう、お兄ちゃんのそういうところがウザイ」
「はい……」
「……大丈夫ですか?水上くんがもの凄く頼りなく見えてしまいます。これなら道後さんに教わったほうがいい気がしてきてしまいます」
「あー」
「うーん」
俺と胡桃は、黒川の発言に対して何とも言えない表情をする。しかし、話題の張本人は、なんで、俺たちがこういう表情をしているか理解できていない様子だった。
「え……!?なぜです?成績トップは、いつも道後さんですよ?確かに水上くんも成績上位ですが、黒川さんより成績が良かったことなんて……」
俺たちの表情に驚く黒川。そう彼女は、知らないのだ。芽唯の勉強の面に対して唯一残念な所。それが、人に教えるということだった。
「お姉さま。芽唯ちゃんは、教わるには異次元過ぎて理解できないよ」
「え……それはどう言う?」
体験者だからわかる感想を胡桃は、黒川に説明する。
「芽唯ちゃんは、問題を見たら、解き方とか無視して、答えがわかっちゃうの」
「え……でもそれなら、分かりやすいのでは?」
言葉だけでは伝わりづらいと感じたのか、胡桃は、芽唯と黒川に問題を出した。
「では、わかりやすく……お姉さま、芽唯ちゃん。問題です。『死刑囚が最後の言葉を刑務官に聞かれました。嘘をついたら、電気椅子刑でジワジワと。真実を言うなら、絞首刑。死刑囚は、ある最後の言葉を言うとその死刑囚は、死刑を免れました。』さてその言葉は、なんでしょう?」
「えっと……でも死刑囚ですよね……うーん」
問題を出し終えると、黒川は、考え込むのだが、黒川が考え出したコンマ数秒。芽唯はサラっと答えた。
「『私は、電気椅子の刑に処されるでしょう』もしくは、『私は、絞首刑には、ならないでしょう』」
「え!そんなので処刑を免れられるのですか!?」
この一瞬に衝撃をする黒川。しかし、その驚きを理解できない芽唯。
「芽衣ちゃん。なんで答えがこうなったか、お姉さまに教えてみて」
「わかった」
胡桃のお願いに芽唯は、頷くと説明をしだした。
「だって『私は、電気椅子の刑に処されるでしょう』もしくは、『私は、絞首刑には、ならないでしょう』って言えば、死刑されないから」
「え!だからなんで、死刑が免れるのですか?」
「免れるから」
「?」
答えに至る理由を聞いた黒川だが、芽唯は、当たり前のようにもう一度言う。なぜ理解できていないのかと言わんばかりの顔になる芽唯に対して、さっぱり理解出来ていない黒川。
こういうことになることを予測していたのか、胡桃は、俺にふってくる。
「お兄ちゃん、なんでこうなったかお姉様に説明してあげて」
「まあ、『私は、電気椅子の刑に処されるでしょう』って死刑囚がいったとして、これが真実なら絞首刑になる。しかし、絞首刑だと最後の言葉は、嘘になる。こんな感じでどっちに転んでも、矛盾が生じるように答えるんだ。そうしたらどうなる?」
「あ……最後の言葉が真実でも嘘にでもなるのですね!なるほど!」
「なるほど。そう説明するんだ」
「え!道後さんもそう考えたのでは無いじゃないのですか?」
正直、今の説明に俺も自信がなかったが、どうやら黒川は、理解してくれたので安心した。
なぜか一緒に頷く正解者の芽唯。いつもの光景で見慣れたが初めて見る人には、恐怖にも感じるだろう。芽唯には、理屈が通じないのでは無く。そもそも理屈が存在しないのだ。芽唯にとっては、東大の入試試験問題も1+1も同じ様にしか見えないのだから。
「だろ。芽唯にも可愛いところがあるだろう」
「ん……くすぐったい」
俺は、芽唯の頭を撫でる。芽唯は、気持ちよさそうに頭を撫でる。
「でも、この問題あの短時間で水上くんも解いたってことですか?流石に事前に問題を知って……」
「お姉さま。この問題、今、即興で調べて出した問題です」
「え……では、あの短時間で」
「お兄ちゃんも解きました」
「……凄すぎる」
「まあ、天才達の思考回路は、私たちには、わからないです。そんなことより!ご飯が冷めるから食べよう!私もお腹すいたし」
「そ……そうですね」
そう言い、俺たちは、胡桃の一言でご飯にありつきだした。
この時、黒川が俺たちのスペックの高さに驚いていたことを知る機会は、二度と無くなったことは、誰もが知ることはなかったのだった……
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