断章 女子会?あれ、不穏な空気が

 あの後、美味しいお姉さまのご飯を食べた後は、二時間ほどの勉強会があり、今は、芽唯ちゃんとお姉さまとパジャマパーティーが始まっていた。

「なんだか、今日は、濃密な一日でしたね……」

頭を抱えながらもその表情は楽しそうな表情のお姉さまと……

「胡桃……まだ電気消さないで……本の続きを読みたいから」

同じ時間勉強をしていたにも関わらず、いつも通りの芽唯ちゃん。

私たちは、女子会と評して、お兄ちゃんを抜きにして私の部屋でお姉様とほとんど強引に芽唯ちゃんを連れて三人で寝ることにした。

「まあ、私としても、いつも一人で寝ている部屋にこんなに人が集まってくれると考えると中々新鮮です!というわけで枕投げしましょう!枕投げ!」

そして、いつもない新鮮な部屋の様子に普段できないようなことを言うが……

「胡桃。それは、私の運動能力の低さ知って言っている?」

いつも見せないような、シリアス顔を私に見せる芽唯ちゃん。ここまでは想定済みのだけれどお姉様も意外な返事だった。

「あの……胡桃ちゃん……私、弱すぎて相手にならないのです。流石に申し訳ないです」

「大丈夫です!お姉さまならきっと勝利が確定……」

私は、お姉様を持ち上げ、多数決で枕投げに芽唯ちゃんを丸め込もうとした作戦が失敗位に終わってしまう。

「それに黒川さんは、私並みに運動音痴」

「そうなんです……私道後産と体育と成績がほとんど一緒で……」

「うぐぐ……」

死体蹴りされた……まさか、普通の中学生である私は、お姉さまは、体育が苦手なんて情報は、なかったから余計に悔しい。

今度しっかりお兄ちゃんにお姉様のことを聞かないと……

「そ……それなら、恋バナしません!?ほら体を使いませんし楽ですよ!」

私は、このまま寝てしまっては勿体無いと考えて、代案を提案した。

「……私、恭也以外とは、話さない」

「私は、そ……そういうの……」

「でも、お姉さまならきっといい話が聞けると思うの!ぜひ話が聞きたくて……ダメですか?お姉さま?」

「くっ、かわいすぎる……」

私の渾身の潤目(演技がうまくいったのか)なんとか、恋バナには、持っていけそうな気がしてきた。

「……じゃあ、胡桃は誰か好きなの?」

「フェ?」

しかし意外にも恋バナに最初に乗ってきたのは、芽唯ちゃんだった。読んでいた本を閉じて、私に聞いてくるあたり、真剣度が伺える。

「わ……私が、話せることなんてないよー。だって、私とふたりが知っているきょう」

通の男の子なんてお兄ちゃんくらいしかいないじゃん……」

「ん、恭也の話なら私も参加」

芽唯ちゃんの意図は、おそらく面白そうだからという興味によるものだろう。芽唯ちゃんって以外に快楽や、愉快なものに対して、リスクを全く考えず、全力をぶつけてくることがある。

お兄ちゃんや、芽唯ちゃんには、よくあることなのだがいつも何が目的でそういう発言をしているのかは、分からなかったが、今回はなんとなく理解出来た。

「水上くんの話ですか……と……特に話すことなんて……ただの同級生ですから」

お姉様のおかげで……

なんというか、分かりやすい。お姉様は、何か、お兄ちゃんに対して何か考えているのかもしれない。確かに盗撮趣味のお兄ちゃんに対して、どのように考えているのか、妹としては、気になるところだった。

「ただの同級生の家には、泊まらない」

そして芽唯ちゃんのツッコミは、面白いくらいにお姉様を動揺させる。

「た……ただの同級生です!趣味は、変態みたいでナルシストです!ただの友人ですよ!水上くんなんて!」

「恭也は、友人。黒川さんも物好き。ナルシストなんでしょ」

このセリフで、完全に芽唯ちゃんのしたい事が読めてしまった。芽唯ちゃんは、基本的にお兄ちゃんの悪口を口に出さない。

しかし、そんな芽唯ちゃんがお兄ちゃんの悪口を言う。家族だから分かるブラフ。

多分だけど、ここ最近、突然お兄ちゃんと深く関係を持ち出したお姉さま。

確かに、お兄ちゃんの趣味バレがあったのもあると思うけど、それなら、逆にドン引きしてお兄ちゃんに関わらない様にするのではないのだろうか。お姉さまの本心が知りたいのだろう。この状態になったら、芽唯ちゃんは、もう絶対に納得のいく答えが出るまで、聞いてくるだろう。

「そこまで知っていて、お兄ちゃんを友人と言うなんて……友人は、しっかりと選んだほうがいいです。」

そして、私も、お姉さまがお兄ちゃんの事をどの様に思っているか私も気になったため、芽唯ちゃんの挑発に乗ることにしていた。

「で……ですがいつも困ったことがあれば、いの一番に助けてくれるのは、水上くんです。話もちゃんと聞いてくれます……結構茶化されますが……どんなことでも受け答えに手を抜いたりはしないっていういいところもあります」

私と芽唯ちゃんは、お姉さまのお兄ちゃんに対する擁護の仕方がとんでもなく前向きであったので、驚いていた。

芽唯ちゃんに関しては、学校でのやりとりも見ているからか、余計に驚いているのだろう。

そして、お互いアイコンタクトで、どっちが、お姉さまに聞くかを議論した結果、私がお姉さまに気になっていたことを聞いた。

「あの……お姉さま?」

「なんですか?胡桃ちゃん?私もしかして変なこと言いました?」

……お姉さま、もしかして自分がどれだけ変なこと言ったのか分かっていない?

私は、仕方なく、お姉様に指摘することにした。

「お姉さまって、お兄ちゃんのこと好きなの?」

「え……!な……なんでそういう話に!わわわ……私がなんで水上くんのことが好きなんだって思われてるのですか!?そんな訳ないです!盗撮趣味の彼氏なんて、私絶対嫌です!!ありえないじゃないですか!」

……ツンデレですね。分かります。

「いや、確かにありえないですが、お姉さまは、私や、芽唯ちゃんが、お兄ちゃんの悪口を言った時に擁護していたじゃないですか。なんというか、お兄ちゃんの趣味を知ってから、まだ二週間くらいしかたっていないのにそこまで、お兄ちゃんのいい所を見つけるなんて……嫌いならそこまで見てないですよ。むしろ目を離さず、お兄ちゃんを見ているからこそ言えるのではないかと思う……」

「そ……そんな訳……」

「そんな訳、無い訳が無い。だって、黒川さんが恭也を擁護するときの目。真剣で、まるでゲームの主人公みたいに澄んでいて、とても純粋な瞳をしていたから。それに黒川さんは、隠し事をする時は必ず、服とか、握りやすいものを両手で握る癖がある。たった今、同じことをしている」

「あ……」

慌てて、お姉さまは、手を話すが、芽唯ちゃんは、両手を話すのだが……

「黒川さんの癖に関しては、嘘」

「なんなんですか!もぅ……」

「けど、私の嘘に引っかかったって言うことは、少なからず好意は、ある」

「う……うう……」

お姉さまは、否定しようとした。しかし、芽唯ちゃんの的確な援護射撃によってお姉様は、顔を、わかりやすいぐらいに真っ赤にしてしまう

「お姉さま……吐いちまいな。すっきりするぜぇ」

私は、この前、お兄ちゃんと見た、刑事ドラマの取り調べシーンで見た時と同じセリフをお姉さまに言ってみた。

お姉さまは、観念したかのように溜息を吐いて真相を口にしはじめる。

「はぁ……今から言うのは、他言無用ですよ」

「やっぱり好き?」

「お姉さま、一目惚れなら、お兄ちゃんの無駄に良い容姿に騙されているだけですからね。お兄ちゃんは、確かに見た目は、異常にかっこいいですが、中身は、人間の中でも最低ランクの性格最悪盗撮魔ですからね」

「あの、道後さんは、答えを出すのが早すぎますし、胡桃ちゃんに関しては、褒めてあげてる部分は、水上くんは、大喜びしますが、後半の貶した部分は、絶対に言わないほうがいいですよ。水上くんが聞いたら絶対に泣くので……」

「黒川さん。前置きはいい。回答はよ」

……芽唯ちゃんの答えを早く求める所など意外とせっかちな所は、直したほうがいいと思うけれど、今言うと、お姉さまの回答をはぐらかされそうだから、言うことは、やめた。

そして、お姉さまは、重い口を開き始めた。

「そうですね……。二週間くらい前、私は水上くんの秘密を知ったと同時に、私の秘密も知られました」

「露出趣味?」

「ちがいますよ、道後さん。そういう私を貶めるような適当な事言うとさすがに起こりますよ、私も!」

「ほ……ほら、芽唯ちゃんは、あさっての方向に会話を持っていかない!はいお姉さま!続き続き!」

確かに、私もお姉さまの秘密を知りたいと思いましたがそれは、きっと親しい仲の人にも見せなかったようなこと。だからこそ、秘密に関して、言及はしなかった。

おそらく芽唯もそう考えているはず。

「そうですね。私の秘密を知っても、水上くんは私を普通の女の子として、扱ってくれました。それに私のことを真剣に怒ってくれて、あまつさえ私のことを……その……友達と言ってくれました。だから……私の水上くんに対する好意は……愛では無く、友情です」

「なるほど、つまり好きだと」

芽唯ちゃんは、わかったように頷いているが、おそらく分かっていない。しかし、お姉様の言いたいことは、分かった。

「本当にお兄ちゃんもいい人にあったなぁ」

「く……胡桃ちゃん!私、別にいい人なんかじゃ……!」

そうやって奥ゆかしい所が本当に、愛らしく。

お姉さまが、『本当のお姉ちゃん』に見えてしまった。

だからこそ私は、自分の本当の気持ちを悟られないように……

「まあまあ、そこは気にしないで!ね!お義姉さん!」

「微妙にニュアンス変えて呼ぶのは、やめてください胡桃ちゃん!」

「バレちった?てへ」

まあ、私もたまには、ボケてみる。だってなんだかその方がいい気がしたから……

そうして、今日も夜は、更けていく。


 黒川が、帰り、明日から学校なので、夜も遅いので寝ようとしていた。しかし……

「頭が痛い」

俺は、最近頭痛に悩まされている。今も、寝付けなくて、水を飲もうと台所に向かう途中で頭痛に襲われた。特に頭痛持ちという訳でもなく。

本当に突然やってきた。世界が歪み、世界が眩み、世界が竦み。全てを飲み込む。

そして、俺は、重力に身を任せて倒れ込みそうになった。その時、俺は誰かに支えられた。

「お……お兄ちゃん!大丈夫!?」

「く……くるみ?」

「お兄ちゃん苦しそう。どうしたの……」

「な……何でもない」

俺は、最近の自分のことを隠そうとした。しかし、胡桃は、それを許さないのか、真剣な表情で、俺を睨みつける。

「嘘。前に一緒にテレビを見ていた時もそう。私の名前叫んだ時と同じ顔。苦しそうで辛そうで、何かに悲しみを覚えている顔」

「そんなんじゃ……」

しかし、俺は、胡桃の顔を覗く。泣いていた。

「うそ……だもん……私。最近思い出したもん……」

胡桃の泣いた顔、今まで何度も見た涙だったけれど、今回は、全く違う。

「お……俺は……」

混乱する。感情や記憶が氾濫する。見たことない記憶。感じたことのない感情。

否。

忘れていた記憶であり、忘れていた感情。

「俺も……思い出した」

そして、思い出した。本当の記憶。過去を……

何もかもが突然だった。しかしそれは奇跡であったはず。

「ただいま、胡桃」

「おかえり……お兄ちゃん……」


 記憶をたどる。過去を振り返るのは、個人的には、不服だったが、今は、思い出にすがりたい。噛み締めたかった。

何がきっかけで思い出したのか俺たちにも理解できない。それに超展開すぎた。今まで、兆候はあったものの、ここまでドラマチックから、かけ離れた思い出し方は、正直、話として三級品だがそれでもいい。

『九年ぶりの妹との再会なんだから』

俺と胡桃は語らった。夜中であることも忘れ、俺たち二人は、九年を取り戻すように語り合った。

「本当にお兄ちゃんのハイパーセンスは、加減ができないんだから」

「しょうがないだろう。あそこまで能力を酷使したんだ加減なんてできるわけがない」

俺には、ハイパーセンスが宿っていた。

能力は、『使い勝手のいい粗悪品(ジャンクフィクション)』

簡単に言えば、記憶の改ざんなのだが、この記憶というのは、人や物全ての情報を自分の思ったように変えることができるが、改ざんするものが大きいほど俺自身も何か、代償を払わないといけない。

その、なんか微妙に役立つが、リスクが大きすぎる能力特性から、サバトにいた頃には、使い勝手のいい粗悪品なんて言う大変不服な二つ名をいただいていた。

「けど良かった!お兄ちゃんも思い出したんだ!」

「まだ、完全じゃない。自分がどうしてあんな目にあったのかわからないからな」

そう、感じたのは、違和感。

確かに、黒川が持つホイッスルが効かないのは、俺が能力者だから。

では、なぜ、ハイパーセンスの能力検査で陰性が出たかは、簡単、俺の能力が検査結果を改ざんしたからだと思われる。

しかし、それならあのこと……正確には、胡桃の能力実験が行われたのか。

夢で俺は、妹が実験に巻き込まれるのを拒んでいた。

しかし拒んでいたのなら能力で、胡桃を一般人ということにすれば良かった。

しかし、そうは、しなかった。おかしい。

リスクは、あるといえ、この力は、隠蔽や隠匿に優れた力のはず。

「お兄ちゃん……考えすぎ……」

「でもな、胡桃。俺としても気になる……」

「いいんだよ。お兄ちゃんは、考えすぎなんだから。そういうことは、後で話そう。今は、九年ぶり……永劫に会えないと思っていたお兄ちゃんとの再会。今は、ぬくもりを感じさせて、今は、甘えさせて。長く永遠で暗く深くも感じた時間。会えなかった分、存分にお兄ちゃんに甘えさせて……」

そう言い、抱きついてくる胡桃。いつも妹のことを可愛いと思っていた。今は、とても愛おしい……

「もう……もう絶対に離さないからな!」

この日、俺は、泣いた。今まで見せなかった涙を妹に見せないよう。強く抱きしめた。俺も胡桃の顔が見えなくなってしまったが服についた涙は、妹の表情を代弁しているようだった。

その後、互いに語らい。そして喜び、笑い、泣いた。

そして最後に……怒りを覚えた。

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