九章 ポンコツ鎮魂歌

結局、この後も黒川と合うタイミンが無く時間は、昼まで面を向かって会うことは、できなかった。そして昼休み人気が少ない屋上で黒川と食事を取っていた。

ちなみに俺は、妹の愛妻弁当を食べ、黒川も女の子らしいお弁当箱を開けていたが、黒川の機嫌は、とても悪かった。

「なんで、今日の朝、水上くんは、助けてくれなかったのですか!?」

「いや、それ、黒川が楽しそうだったから?」

「あれが楽しそうに思えますか?!」

「そりゃ楽しいだろう。俺が見る分には」

「やっぱり最低です。水上くん最低です……なんで私がこんな最低男と……つき……付き合っているなんて思われないといけないんでしょうか」

悔しさに震える黒川の目には、若干の悔し涙がたまっていた。

「そりゃ、こんなイケメンが、毎朝、美少女と一緒に登校しているのだぞ。話題にもなある。そうだな……ゴシップ記事で言うところの『まさに妬みの極み?水上恭也禁断恋愛お相手は、学園のアイドル』みたいなのは、やはり世間に注目を浴びるだろう」

「私にだって、好きな人を決める権利ぐらいあります。盗撮魔は嫌です」

「なんだと中二病。また、フリーテンプチャーさんとか名乗るのか!?」

「だから名乗りません!水上くんは馬鹿です!変態です!」

「俺は、イケメン紳士だ!この中二病!」

「最低男」

「馬鹿女」

 あれ、最近友人になれたはずなのに、気がついたら、いつもみたいに何故か喧嘩に発展していた。

まあ、もうなんか慣れたのだが、その後、二人で無言で弁当を開け、お互いそっぽを向きながらご飯を食べていたのだが。黒川さんは、俺の弁当を見てつぶやく。

「あ、その唐揚げ美味しそうですね」

「そりゃ、胡桃のお手製だからな」

「交換しません?卵焼きと」

「別にいいぞ、ほれ、食え食え」

俺は、唐揚げを箸でつかむと、黒川の口の中までそれを運んだ。

「はむ……うまうまです」

「だろ、胡桃は可愛くて、料理もうまいから将来は、いい嫁になるな。まあ、俺よりイケメンで、性格が良くて、理解のある優しい有能じゃない限り許さないがな」

「……そうですねぇ。ありゃ……あれ……」

唐揚げに舌鼓をする黒川だが、からあげを咀嚼し終わった後に何かあったのか顔を真っ赤にしていた。

「どうした黒川、そんな変な顔をして。流石にそれは、女性としてどうかと思うぞ」

「いや!ちょっと待ってください!今!水上くんは私に何をしたんですか!?」

……唐揚げを食べた瞬間から、変なリアクションをする黒川。明らかに、挙動不審になり怒っていた。

「いや、もう、黒川のことを中二病とか言わないから許してくれよ。ていうか、いつもしているような喧嘩をなぜ、今日は、しつこく怒っているんだ?」

「違います!そうじゃなくて!」

「じゃあなんだよ、俺に卵焼きくれるんじゃないのか?早くよこせ」

「なんで、水上くんは、平然と私にアーンして食べさせて平然としているのですか!?」

「いや、そこか?そんなどうでもいいことで怒るんだ?」

少し俺は理解ができていなかった。普段から、芽唯にねだられたり、胡桃にも良くしていたから、友人とかの間なら、当たり前のことだと思っていたのだが……

「なんで、そんな分からないみたいな顔をしているのですか!?」

「そりゃ、俺の家では、これが普通だからな」

「それは、普通じゃ無いんですよ!私されたことないのです!」

「ん?だが、芽唯には、よくするぞ?それに黒川だって、なんの疑問もなく、食べたろう」

「そうなんですが……そうなんですが……」

なぜか、頭を抱える黒川。なぜだ?

「いや、水上くん、気がつかないのですか?貴方、異性へのアーンは、恋人同士がするものなんですよ!」

「いや、芽唯とは、付き合っていないが、するぞ、アーン」

「それがおかしいです!昨日読んでいた漫画でも、恋人同士がアーンしてました!」

「?いや、それは、漫画だろう」

漫画と現実を混合しないのは普通なのではないのか?

「だから……あー、もう、いいです!これでも食べて黙ってください」

「ふご!ふごご!」

強引に卵焼きを俺の口に入れてくる黒川。いや暴力系ヒロインは、絶対にはやらないのに喉元に卵焼きが入り、味わう間もなく飲み込んでしまう。

「おま!なにして!」

「もう、知らないです!」

こんな感じで、少しだけ、前より日常は、変化し時間は、過ぎ気がつくと昼休みも終わりに近づいていた。

「く…やっぱり、納得いかない。別にあれぐらい、普通なのに……」

「この……まだ言いますか、この鈍感ボーイは……」

「失礼な、鈍感ではない。イケメンだ」

「変態」

俺に冷たい眼差しを当ててくる黒川。今まで俺は、変態行為なんてしたことないのに、失礼だ。しかし、ここまで言われたら言い返さないと男の名折れ。

「うるさい。それなら、今度こそ、まこちゃんの作った卵焼きを食わせろ」

「……?あれ、私が作ったのですよ。母さんは、料理どころか、仕事以外は、壊滅的ですから……あと、人の母さんを変なあだ名で呼ばないでください」

「嘘は、付かない方が良い。黒川さんが料理だって?そんなのモザイク料理になるだろう」

……唖然、あの弁当は、完全にまこちゃんが作ったものだと思っていた。だって、なんというか、第一印象で料理できなさそうじゃん。学園のアイドルって。

「いや、そこまで、驚かなくてもいいじゃないですか?私にだって、特技の一つや二つは、ありますよ」

「いや、だってイギリス人ハーフだろ、あそこってカップ麺にお湯入れたら料理になるところだろ。調味料を、バカみたいに入れたりしたり、まずい料理の典型だろう。鰻のゼリーとか考えられない」

「偏見!非常に不服な偏見!私だって半分は、日本人です。料理の心得くらいあります!」

「う……嘘乙」

あまりの衝撃に動揺してしまう俺。まて、俺にできないことを黒川ができるだって……そんな馬鹿な……ポンコツの申し子とまで、名付けられた黒川が料理は、できるだと……そんな訳……

「絶対に失礼なこと考えていますよね」

「だっておまえ……」

ここで、どれだけ、黒川がポンコツか知ってもらうため、とある一日の黒川ポンコツハイライトを見てもらおう。

 まず初めに、俺と黒川が、秘密の共有をした次の日の学校。数学の授業中の出来事だ。

「えーつまり、この場合、xは、yの回答を解くために最初に解かなければいけないのですが……」

数学の教師が淡々と授業の内容を黒板に書いていく。黒川は、しっかりノートをとっているのだが……

「そうです

ね。では、この場合は、どのように解けばいいのでしょうか?黒川さんに解いてもらいましょうか」

「は……はい」

黒川は、緊張した面持ちで、黒板の前に立つのだが棒立ち。そして、数学の教師に助けを求めるような目で見てくる。

「せ……先生」

「ん?なんですか?分からないことがあれば、教えますが」

数学の教師は、自らの職務を全うしようとするのだが……

「全部わからないのですが……つまりどういうことですか?」

数学の教師は、口をあんぐりと開けて驚いた。

「あの、ノートは、とったんですよね」

「はい、つまりxとyってなんでしょうか……」

「あ……あの、ですね」

結局なんの難しさもないない問題、1分あればとけるような問題を5分かけてようやく説いたこともあれば……

 体育の授業で、飛び箱をしたときも。

「各自自分の飛べる段を俺に申告してくれ」

男子は、運動が出来ない奴でも、5段ほど、女子でも4段ほど、ちなみに芽唯は、仮病を使ってサボっている。うん、清々しいほどに最低な行為だが、それはさておき。

黒川は、とんでもないことを口走った。

「飛べないです。一段も無理なのですが」

「黒川、ダメだぞ、先生をからかっちゃ」

体育教師は、冗談だと思って女子の運動が苦手な奴らと同じ4段にされた。

先生は、気楽そうに、黒川を見守っているが、見るからに黒川の顔は、青ざめており、そのまま走り出す。

そして踏み込み台に突進からの激突。

「黒川!」

先生は、走って黒川を助けに行く。鈍臭すぎて、誰もが、空いた口を塞がなかった。

結局、黒川の記録は、授業を受けたのにも関わらず、芽唯と同じ記録。測定不能という、前代未聞の記録を叩き出した。

 以上で黒川ポンコツハイライトは、終わるのだが、俺のハイライトを聞いていた黒川は、我慢できないのか、もはや、お決まりのパターン、周りの気温が徐々に上がってきていた。

「あの、黒川、ぼ……暴力は、いけない」

「決めました」

俺が、暴力に対しての、ガード体制をとったのだが、いつもみたいに、超高熱平手打ちは飛んでこなかったので黒川の顔を覗くと決意したような顔になっていた。

「次のお休みは、水上くんの家に泊まりに行きます」

「な……なんで!」

「私が、水上くん達に手料理を振る舞います。私が、ただのポンコツでないところを見せてやります」

「お断りします」

「な……なぜですか!?」

俺は、黒川の提案を丁寧にお断りさせていただいた。理由を聞かれたがそんなの決まっていた。

「胡桃の手料理が一食でも食べられないなんて、ありえない。俺の楽しみを奪って、黒川は何が楽しいんだ!」

「このシスコン……。私の卵焼き食べたくせに」

「ふん!喉に突っ込まれて味わえる間も無く丸呑みさせられたからな。俺は、悪くない」

「それは、水上くんだっていきなり恥ずかしいことしてくるから!」

「だから、それは、なんだって!」

「そレは……ミなかみクん……が……」

突然、視界がぼやけ、黒川の声が聞き取りづらくなった。

「ぐ!」

「ちょ……ドうシタノ……すカ」

頭が、割れるように痛い。激痛が脳に走り出し俺は、その場で倒れ込んでしまう。終業のチャイムが、ありえないような音色で流れ、俺の聴覚を狂わし、目から入る視覚情報は、俺の脳みそを焼き尽くす様な色に変わり、嗅覚情報は、鼻が曲がるような、焦げ臭さに支配される。吸った空気は焼け付くような熱さに、焦げた味のする味覚に、吐き気を催し、触るもの全てが熱く、火傷しそうになり。

五感の異常によって俺は、ついに気を失った。


そこは、火事になった研究所、意識があるのは、俺だけだった。

俺の行ったものは、生やしいものではない。罪には罰をそれは、例え、唯一の妹を救うためだとは言え、罪だ。

罪には、罰を。

俺は、罪を償わなくてはいけない。恐らく数分後には、大切なものを失う。

それは、家族かも知れないし、自分の命かも知れない。

「なあ、胡桃、め、覚まして……」

「……」

「なあ、頼むよ」

俺は、涙を零す。冗談みたいだが、比喩もなし、滝のように涙が流れる。

「……」

動かない人形のような妹が、ぴくりと動き出す。

「おにい……ちゃん」

そして、人形のような妹は人間に戻った。すべてを取り戻した。

「よかった……」

そして、俺は、全てを失った。

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