三章 ラッキースケベ?

 




 夢、それは、レム睡眠の時に起こり、脳の記憶を司る機関が、睡眠中に、関わらず、覚醒状態と同じ水準で機能し、過去の記憶映像を再生している状態、空想上の記憶をストーリーとして映し出す場合もあり、入眠時幻覚などと言われる時もある。

まあ、その結果、現実では、ありえないような夢を見るときもあり、それが正しく今だった。

「おはようございます。水上くん。いい加減起きないと遅刻しますよ」

「うん、黒川さんが、俺を起こしに来るはずがない。つまりこれは、悪夢だ。早く目、冷めないかな」

俺のベッドと横から、俺の体を揺するのは、学園のアイドルこと、黒川マリア。

本当なら、垂涎ものの夢なのだろうが、昨日の出来事などを考えれば、悪夢でしかなかった。

「いや、夢じゃないですよ。いいから起きてください。朝ですよ!」

体をとにかく揺すってくる悪夢こと、黒川を俺は、無視して目を覚まそうと布団に包まり、頬をつねるのだが……

「痛い……あれ……もしかして、もしかするとこれって、現実?」

「いや、だから、さっきから起こして……」

「いや、夢だ!黒川さんが、俺を起こしに来るなんて!夢だ!夜にこっそりと、布団に入ってきていやらしいことを俺にする黒川さんがいる。それこそ現実!つまり、今、目を覚ますと、俺に夜這いをかけている黒川さんがいるはずだ!きっと初めて同士うまくいかないこともあるかもしれないけれど、それは、夜這いの醍醐味!早く目を覚まして、俺は、黒川さんのいやらしい姿を堪能しなきゃいけないんだ!目……覚めろォォォォォォォ!」

「……えっと昨日の今日で、私が、水上くんにそんなことすると思ってますか……?」

冷静に俺に突っ込みを入れてくる、夢の黒川さん。

夢ながら、現実にとっても近い再現度である。しかし、俺も、現実に戻らないといけないので、しっかり受け答えをしなくてはいけない。

「いや、俺のイケメンさに学園の美少女もメロメロになって途端に処女は、淫乱になるはずだ……。黒川さんが、寝起きのイケメンを見て淫乱にならないのならこれは、夢だ」

「最悪です。誰が盗撮魔で、ナルシストで、朝からやけにハイテンションな男に、その……よ……よくじょう……するんですか?」

恥ずかしそうに隠語を口にする夢の黒川さん。夢なら、どんなセクハラをしても大丈夫。・

その信条を今俺は、作り出しニヤッとしてしまう。

「んん?なんだね、黒川くん、途中なんか声が小さくなったけど、なんて言ったのかな?」

「ば……!そ……それは」

「たしか、よく……なんだろう。わからないから、大きな声でもう一回言ってくれないか?」

「い……言えるわけ……きゃっ!」

俺は、夢の黒川さんをベッドに押し倒して耳元で囁いた。

夢だから、セクハラには、ならないよね。

「いいんだよ。俺の前では、ウソをつかなくても」

「だ……誰が」

顔を、真っ赤にする、黒川さん、そしてそこはかとなく、部屋が暑くなってきた。

まあ気のせいだろ。夢だし。

「誰が、アンタなんかに欲情するかあぁぁぁぁぁぁ!」

「あっつ!熱い熱い熱い熱い!」

黒川さんの強烈なビンタは、痛いだけではなく、とにかく熱かった。

というか、ここまでして、ようやく気が付いたんだが、これ現実じゃないか?

「おい!黒川さん!セクハラしたのは謝るよ!けど、ハイパーセンス使って、俺をビンタするのは、やめろ!俺の美しい顔が傷ついたらどうするつもりだったんだ!」

「しししし、知りません!朝からなんてことしてるんですか?!朝から本当にぶれないですね!水上くんは!」

「それが俺!後悔はしない」

「少しくらい反省してください」

俺たちが、騒いでいると、胡桃と芽唯が部屋に入ってきた。

「やっぱり」

「お兄ちゃん!やっぱりしましたね!いつも通りの朝セクハラ!」

制服にエプロン姿で怒った表情で俺を問いただす胡桃に、しっかり支度を済まし眠そうな表情が全くない芽唯。

なぜ、こいつらは、こうもすぐに駆けつけてきたのだろうか?俺は、そこまで寝ぼけてセクハラなんてしたこと……結構、思い当たることがあるがあるなぁ……

「うわぁ、ドン引きです。本当に、ひどい。いつもこんなこと……」

「うん、私は、恭也に抱き枕にされた。貞操が危機」

「お兄ちゃん起こすときは、触れない、近寄らない、目を見ない。これが鉄則です」

「ええい!うるさいぞ、マイファミリー!いいか、そもそも、なぜ黒川さんが、うちに来ていることに疑問を持たない!おかしいだろう!それに黒川さんは、うちに芽唯が住んでいること教えてなかったのになんで平然としてるんだよ!」

そうである。俺は、なぜ疑問に思わなかったのだろうか。

昨日まで、同じクラスでしかなかった黒川が、突然家に来て俺を起こしに来たのを胡桃達が驚かなかったのか、逆に黒川さんがなんで、家に、芽唯が住んでいて驚かないのか。

もしかしたら機関がなにか関係して……

「あー、お兄ちゃん、一人でシリアス顔するのもいいけれど、黒川さん、もう30分以上前に来ているよ。なんでもお兄ちゃんの盗撮用カメラのデータを全部消したから返しに来たんだって。ちなみに、芽唯ちゃんは、ウチの家族同然って説明したら、納得しちゃったから」

「そうです。セクハラ男が寝てる間に、私は、全ての問題をクリアし、お寝坊な、水上くんを起こしに来たのに……やはり、胡桃ちゃんの忠告は、聞くべきでした」

なぜか、ため息をつく黒川さん。

恐らく、胡桃に忠告は、受けたのだろうけれど、俺の寝起きの悪さを理解していなかったことを全力で後悔しているのだろう。

と普通の一般人は、考えるだろう。

しかし、そんなの考えるのは、一般人。俺のようにイケメンで天才だからこそ、真のため息の理由は、わかる。

「つまり、俺に耳元で囁かれてキュンキュンしちゃったんだろう。そうだろう!」

「そんなわけないじゃないですか!」

「お兄ちゃん馬鹿なの?そんなわけ無いでしょ!」

あら?ハモった。

それに気がついたのか、黒川さんと胡桃は、目を合わせ、シンパシーでも感じたのか、お互い涙目になって、互いの手を握り合った。

「私にもついに理解者が……」

「泣かないで胡桃ちゃん。悪いのは、全部、水上くんなんですから」

「あぁ、今日から、黒川さんのことお姉さまって呼んでいいですか?」

「あら、嬉しいわ、胡桃ちゃん。私、姉妹っていなかったから嬉しいわ」

「お姉さま!」

「胡桃ちゃん!」

なんだか、ものすごく不本意なシェイクハンドをしている、黒川さんと胡桃。

しかし、そんな俺を見てか、芽唯が俺に手を差し出してくる。

「恭也、私があなたとシェイクハンド」

「芽唯、お前、やっぱり最高の親友だよ!」

「でしょ」

俺の悲しいという感情を知ってか、芽唯は、俺の手を握ってくれた。

さすがは唯一無二の親友にして、俺の理解者である。

「うわー、お姉さま、あっちでもロクでもない結束が結ばれていますよ」

「大丈夫、胡桃ちゃんは、私が絶対にあの人たちのセクハラから守るから」

「お姉さま!大好き!」

「ありがとう!胡桃ちゃん!」

何故か冷たい視線を感じたが、俺と芽唯は、永遠の友、こんなことで屈するはず……

「えぇ…胡桃も黒川さんもずるい。私も友達に入れて」

「おい!芽唯はどっちの味方なんだ!?」

「え……自分?」

ひどい話だった。

「まあ、それはいいとして、なんで黒川が、家にいるんだ!」

「あー、胡桃ちゃんが言っていたの聞いていましたか?カメラを返しに来たんです。しっかりデータは、消しておいたので安心してください」

「じゃあ、カメラは?データ消されたのは、残念だが、カメラ返してくれるんだよね?ねえ、カメラは?」

「お兄ちゃんが、悪事をこれ以上働かないように私が、責任をもって隠しました」

ドヤ顔でそう告げる胡桃。俺は、耳を疑った。

「あの……え……嘘。嘘ですよね、胡桃様!」

「いや、お姉さま、本当にナイス判断です。あんな大きなカメラをお兄ちゃんに渡してしまったらまた盗撮をするのを分かって私に渡すなんて」

「あ、あはははは。ソウデショー」

完全に黒川さんの目が泳いでいた。あ、黒川さん、絶対に成り行きで胡桃にカメラ渡したな……。

「黒川さん……」

「な……なんですか?」

「はん」

「なんか凄く、屈辱的な鼻笑いされて、なんだかすごく悔しいのですが」

「何でもないですよー。黒川さん。それより、俺のナマ着替え見たい人は、俺の部屋に残ってくれないか?今から着替える」

「そ……そうですか。何故か釈然としませんが、行きましょうか?」

「そうですね、お姉さま。芽唯ちゃんも先に待っていよう。そこにいたら、お兄ちゃんにセクハラされるよー」

本当に胡桃は、俺のことをなんだと思っているんだ。まあ、それもツンデレだと思えば、そこまで、寂しくもないのだが……

芽唯は、部屋をでないで、俺の前にたっていた。

「どうした?芽唯俺着替えるぞ」

「知ってる。恭也の着替え、私みたい」

「ちょ!道後さん!でないと……」

「大丈夫、黒川さん。先に行って、胡桃のご飯食べて待っていてね」

「でも……」

何か言おうとしたが、胡桃が止める。なんかもう、諦めたかのように。

「お姉さま、芽唯ちゃんは、頑固だから、無駄ですよ。それに、普段の発言がチャランポランでもなんだかんだ、考えがあるんだもん」

「そ…そうなんですか?私……行きますよ」

「うん、でも私は、チャランポランじゃない」

「は、はぁ……」

そう言い、黒川さんと胡桃が、部屋を出て、この空間には、俺と芽唯しかいなくなった。

「ねえ、恭也」

「どうした、芽唯?」

「お願いがあるの」

俺は、着替える前に、芽唯の真剣そうな声音に答えてあげないと感じた。

「きっと、恭也は、私に気を使うことが多い。けど気にしないで大丈夫。恭也の人生は、恭也が主役だから」

「俺が、自分以外を気にしてると思うか?」

俺は、ふざけたように返すが、依然、芽唯は、納得していなかった。

「もうそのセリフが、気を使ってる」

「そんなこと……」

「恭也」

芽唯の久しぶりの表情は、怒りにも悲しみにも取れた。

普段から、表情を隠している芽唯。

その彼女が見せる表情。

それは、彼女の真剣さを伺わせた。

「まあ、俺も気づかないうちに、気は、使っていた。あの時から、芽唯に嘘はつかない、隠し事は、市内って言ったけれど……すまん、今回実は、黒川との件で言えないことができてしまった。許して欲しいなんて都合のいいことは言えないけれど……これは、話してしまえば、黒川さんは、傷つくかも知れない。だから、ひとつ、芽唯に隠し事をさせてくれ」

 確かに、ハイパーセンスについては、話してしまっても、ホイッスルを使えば、記憶を消し、ハイパーセンスについて隠せるかも知れない。

しかしそれは、結果的にまた芽唯に隠し事をしてしまうことになってしまう。

もう、絶対に、芽唯に隠し事はしない。

これは、自分を保つためのプライド。

しかし、俺の黒川さんに対しても今後、俺が彼女に信頼してもらい、俺が、彼女から信頼してもらうため。

どんなことであれ、俺は、黒川さんと、ハイパーセンスについて喋れない。

約束したから。

芽唯に隠し事をせず、ハイパーセンスについて隠すには、やはり正直に言うのがいいと感じた。

矛盾しているが、その矛盾も自らの魅力につながるのなら良い。

「恭也、私は、それを言ってくれただけで嬉しい。だから、私に隠し事をしていても気にしないでいい。私だって、隠し事をする時もあったから」

俺は、その言葉に救われたかもしれない。

だからこそ芽唯に言う言葉は、ひとつ。

「ありがとう芽唯」

「うん」

これで俺は、誇って芽唯とこれからも親友と名乗れるだろう。

「お……お取り込み中ごめんなさい。水上くん、道後さん、胡桃が朝ごはんの用意をしてくれたので早く来てくれって言ってました……」

なんだかバツの悪そうな顔をして俺の部屋に入ってきた黒川さん。

「いや本当に黒川さんは、タイミンが悪い」

……しまった。ついつい本音が出てしまった。

「む……反論しようと思いましたが今回は、私が悪かったです」

「ほーん『今回は』ね。謝罪の心からしている?黒川さん……」

「ぐ……」

「黒川さん、ご飯行こう」

そう言い、猛スピードで芽唯は、苦虫をかんだ表情の黒川さんの手を握ってダイニングまでいった。

この空間に、俺しかいない。それは、それで、悲しかったりした。

……人生は、寂しく、ドライな世界。

ついつい年寄りみたいなセリフが出てしまった。

「寂しいなー」

俺の声は、自分の部屋で虚しく響き渡った。

「本当に寂しいな……」

俺、寂しさなんかに負けないぞ……負けないからな……


その夢は、不思議なものだった。

病室の窓から、胡桃を覗いていた。胡桃は、様々な機会に繋がれており、何かを計測されていた。

俺は、心配して母親に泣きついた。

「母ちゃん……胡桃ちゃん、死んじゃうの?」

そうじゃないと母ちゃんは、俺を安心させたが、俺は、一向に安心できなかった。

なんだか、妹が遠いところに行ってしまうような感覚になった。

機械に繋がれた妹は、人ではなく機械の様に見えてしまう。

「胡桃ちゃん」

血を分けた妹は、俺の声には反応し手を振ってくる。

俺を安心させようとした行為なのだろうが俺は、余計心配してしまう。

そうして、ついに、妹をつないでいた機械が動き出す。

初めは、順調だった。

それは、俺の周りにいる研究員の喜びの声からも聞こえているから、幼い俺でもわかる。

しかし異変は、突然起きた。

妹に繋がれていた機械が火花を散らし、次々に壊れていく。

妹は、苦しみだした。

「母ちゃん!胡桃ちゃんを助けないと!」

母ちゃんは、悲しそうな顔で俺を止めた。

けれど、俺は、その静止を振り切り、妹の方に走っていった。

俺を止めようとする大人は、ドミノのように次々倒れていった。

胡桃!今助けるからな!


「胡桃いぃぃぃぃ!」

「きゃ!お……お兄ちゃんどうしたの!?いきなり叫んで!」

「あ……あれ?夢?」

目が覚めると、そこは、自宅のソファで寝転がる俺と、椅子に座っておせんべいを齧りながらテレビを見ていた胡桃が、驚いておせんべいを落とし俺のほうを向く胡桃がいた。

「もう!お兄ちゃん、テレビ見て寝落ちしたかと思ったのにいきなり叫ばないでよ!」

「あ……ああ、ごめんそういえば俺寝ていたんだな」

「そうだよ!」

……どうやら、俺は、テレビを見ながら寝落ちをしていたみたいだった。

見ていたテレビもオカルト系だったので変な夢を見てしまったのだろう。

とにかく、夢で良かった。 

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