二章 変態な幼なじみに冷たい妹

「本当になんなのですか?水上くん?能力者予備軍でないうえ、ハイパーセンスにも目覚めていないなんて」

「俺に聞くな。俺だって戸惑っているんだから」

 病院の帰り、結果から言って現段階で俺に、ハイパーセンスや、能力予備軍特有の反応が出ない陰性、一般人だという結果が出た。

まだ、簡易検査の段階なので、これからもっと検査をしていくみたいだが、ほとんどの人間は、ここで既に陽性の反応が出るらしいので、まこちゃんも首をかしげていた。

「まあ、陰性なのはしょうがない。気にするな」

「はぁ……おかげで、私に余計な仕事ができてしまいました。なんで私が水上くんと行動のほとんどを一緒にしないといけないのでしょうか」

「だから気にするなって」

そう言い、ため息をつく黒川さん、彼女がため息をついたのは、俺の結果が正式に出るまで俺が、ハイパーセンスについて他者に口外しないように監視するように、まこちゃんから言われたからである。緊急の措置なのであるが、黒川は、納得していなかった。

「いいから、早く陽性反応出てくれませんか?私、いつ水上くんに盗撮されるかとヒヤヒヤしながら生きるのは辛いです。」

「いや、俺は、人の告白シーン専門だから気にしないでくれ。というか結果が出るまでカメラは没収なんて、そっちのほうが辛い……はぁ……」

まあ、俺も、今日盗撮したシーンは、能力の秘匿に基づき、機関でしっかりと検閲し、正式な結果がで次第返却という鬼のような条件を突きつけられため息が出てしまう。

「ん……恭也、病院から女の子とでて、陽性、陰性なんて会話……孕ませたか?」

「水上くん、流石に盗撮魔であってもそれは、言ってはいけないセクハラ……え?」

「はは……そんな訳……って!芽唯!いつの間に!」

いきなり俺の後ろから現れた幼女……もとい、俺の親友で同じクラスの道後芽唯(どうごめい)は、自慢の長い黒髪をなびかせ、俺の後ろから突然現れた。

ちなみに、もうコイツとは、友人になってから、八年は立つ、俗に言う幼馴染でもある

「きゃぁぁぁぁ!お……オバケ!」

「む……人を見て、いきなりお化けとは、失礼。私には、道後芽唯という、立派な名前がある」

「え……あ、あなたは、同じクラスの道後さん。い……今、帰りですか?」

「本を読んでたら、遅くなった。そういう黒川さんは、学校帰りに病院なんて……産婦人科に用があった?」

「なんで、そうなるのですか?流石に私だってそんな、非行少女じゃないです」

「そう?」

真面目に芽唯のド下ネタに受け答えする黒川さん、対して芽唯は、涼しい顔で返す。

この幼女……道後芽唯は、俺の友人で、クラスでは、いつも本を読んでいて、表情の変化があまり見られない、ミステリアス美幼女で通っている。

しかし、読んでいる本は、官能小説で趣味は、他人の痴態の噂を聞くこと。

俺と同じく、学校で知られると社会的に死んでしまうような趣味の持ち主で、互いの趣味を知ってからは、紳士同盟という高潔な同盟を結んでいる。

紳士同盟とは、芽唯が俺に誰が今日、告白するのかという情報を与えてくれ、俺も、おすすめの官能小説を芽唯に紹介するという、正しく、紳士的な同盟である。

「まあ冗談は、いい」

「冗談だったですね!私は、なんこんなに慌てていたのでしょうか……」

「そのボケぐっじょぶ」

「ボケじゃないです!」

うん、女子同士の絡みも紳士としては、あり。まあ、冗談はさてとして、今日のことについて、話せることは、話さなくては……

「そういえば、すまんな芽唯、今日は、ついにバレてしまった」

「そう、まあいつかは、バレると思っていた。思いのほか早かったけど」

「いや、情報を流してくれていたのは嬉しいが、俺の崇高な趣味の共犯として、そこは、成功を願ってくれませんか?」

「願うのは自由。けど現実が希望通りいかないのも事実。私もいつ、自分の趣味がバレるか分からないスリルも楽しんでいる。スリルを楽しむのも人生。恭也もスリルを楽しまないと損」

「すまん、俺は、人生を楽しめていないみたいだった」

俺たちは、黒川さんをおいて、互いの話を永遠と話していると、黒川さんの顔は、段々、きょとんとし始めていた。

「あの、さっきから、情報とか趣味とはなんのことですか?」

「芽唯、話していいか?」

「まあ、死なばもろとも」

会話からも分かるように、芽唯は、その小さい体からは、分からないくらいに肝が据わっている。もう、はや、8年芽唯とは、つるんでいるが、この肝の座り方は、見習わないといけないと感じている。

「まあ、簡単に言えば、俺が一人で、水彩高校の恋愛事情について網羅出来ると思うか?」

「変態のエネルギー源は無限大って、母さんが言っていたので、可能かと……」

「まあ、無理だとおも……俺をなんだと思っているんだ、黒川さんは……」

「まあ、昨日までは、無駄にハイスペックな目立ちたがり屋でしたが、今日からは、無駄にハイスペックな盗撮魔ですかね?」

「無駄にハイスペック……うん、確かに恭也は、無駄にハイスペックかも知れない。それは、私も思う」

「芽唯……お前だけは、俺の味方でいてくれよ」

「私の中では、一番親しい友人だと思ってる。けど、現実を直視しないといけない。私は、そうやって生きてきた。恭也も知っている」

……表情の変化が乏しいからか、ものすごく重く聞こえてしまうが、芽唯の言葉はそこまで重くない。俺が言うんだ、間違えない。

「ま……まあ、話を戻すと、俺が、学園全土の恋愛事情を網羅できたのは、芽唯がいたからなんだ」

「つまり、道後さんを思いのままに操っていたと……これが変態」

「違うわ!代わりに俺は、芽唯が好きそうな官能小説を探して渡していたんだよ!ギブアンドテイクの関係だ!決してただれたエロエロな関係には、なれなかったんだぞ!」

「なれなかった……なりたかったんですね。わかります。ロリコン盗撮魔ですね」

「違います!絶対に違いますー!」

「恭也……私との関係は、そんなものだったの……よよよ」

「芽唯も、こんなところで変なボケ入れないでくれませんか?」

「てへ」

似合わない、我が、幼馴染ながら、可愛い仕草がなぜか絶望的に似合わない!

「あ、そういえば、なんで恭也と黒川さんは病院から出てきたの?陰性とかなんとか言っていたけれど」

「あぁ……それは……モゴモゴ」

黒川が、思いついてなにか言おうとしていたが、嫌な予感がしたので、黒川を羽交い締めにして口を塞いで強引に喋るのをやめさせた。

「ま……まあ、遊びに行っていたんだ。黒川も中々の趣味の持ち主でな!紳士同盟として入れるか精査していたんだ」

「モゴ…モゴゴモゴ!」

「ふむ、黒川さんも崇高な趣味の持ち主だったのか」

「見て分かるだろう!ドMなんだよ!こうやって人前で拘束されるのが好きなんだ……てか、芽唯、時間大丈夫か?帰らないと胡桃も心配するぞ」

「……本当だ。ごめんね、恭也、先に帰る。恭也も、早く帰ってきてね。胡桃が心配するから」

「大丈夫だよ、じゃあ、また後で芽唯」

「うん」

 芽唯は、走って家の方向へ走っていったのを確認して黒川の羽交い締めをといた。

「ちょ……ちょっと水上くん流石にセクハラが過ぎます!人前で、むやみに能力使えないことを良いことにセクハラなんて!ていうかドMって!私は、そこまで変態では」

高速を解かれた瞬間怒涛の訴えをする黒川。しかし、俺としても譲れないもののために、自らの紳士道、

『第一条、セクハラは、触らないからこそ意味がある』

を破らないといけない時もある。

「いいか、芽唯は、昔から病弱で、親も病気で死んだ!多分、黒川は、病院で病気の検査とか、怪我の診察って言おうとしたんだろうけど、これだけは、頼む。芽唯を心配させないであげてくれ。アイツが唯一、心の底から怖いのは、病院なんだから」

 思い出してしまう。あの時のこと。

「ふうん、今日は、水上くんの意外な一面、今日は、色々知ったけど、その顔が、一番以外、あなたってそんな悲しそうな顔するのね」

「知ったようなこと……」

黒川は、なんだか人を珍獣で見るような、なんか優しい目で見てくる。悪口を吐かれるのは、腹が立つが、道場は余計腹が立つ。

「勘違いしないでください。これは、同情じゃないですよ」

「じゃあ……」

「そうですね……私、あなたのそういう所、好きかもしれないです。人のために悲しめて、怒れる人ってなかなかいないんですから。水上くんは、優しい人なんですね!」

「そんなことはない」

「あります。私は、水上くんが優しいって知っています。だって、私、化物なのに水上くんは、怯えもしないんですもん。絶対に優しいです」

化物。

確かにそうかも知れない、一般人から見て、彼女のハイパーセンスは、怪物そのものに見えるのかもしれない。

今日、黒川さんに告白した男子生徒もそうだった。

黒川さんのことを化物と呼んでいた。

当然の反応かもしれないし、俺も驚いたが、黒川さんの記憶は、ホイッスルでは消えない、化物とか言われた記憶は、消えないのだから。

邪推かもしれないがきっと、黒川さんも今までで傷ついてきたのかもしれない。

だから、彼女の敵に俺はなりたくない。

だからこそ、お互いの信頼を保つため右手の小指を黒川さんの前に立てた。

「約束だ。俺は、例え、ホイッスルで記憶操作ができようが、絶対にハイパーセンスについて口外しない。そうすれば、黒川さんが傷つくこともなくなると思うから」

黒川さんは、少し驚いた様な顔をした。

「ふふ、やっぱり察しが良すぎる水上くんは、嫌いです」

言葉とは、裏腹に嬉しそうな表情の黒川さんは、左手の小指を俺の小指に絡め、互いに約束をした。

「よし、約束だ。俺は、黒川さんを裏切らないからな」

「ありがとうございます。やっぱり、優しいです。水上くんは」

その笑顔は、なんとなく黒川が学園のアイドルと言われる理由がわかったかもしれない。

しかし、俺は、黒川との約束をしたあと、彼女のちょっとしたことについて疑問を持った。

「こんな人通りが多い路上でそんな、ぶりっ子するなんて恥ずかしくないのか?」

「へ?」

黒川が周りを見渡すと、そこには、帰宅中のサラリーマンや、学生などが、こっちを物珍しそうに注目していた。

それは、そうか、ここで、話しているのは、イケメンな俺と、残念系(俺の独断による評価)学園のアイドル、こと黒川マリアがここまで、熱く語りあっているのだ。

こんなドラマチィックな絵はそう見られないだろう……

……あれ?なんだろう。段々暑くなってきた。冗談でなく、本当に熱く……

「あれ?黒川さん……待って……嘘だよね」

「水上くんの……バカァぁぁぁぁ!」

黒川は、あまりの恥ずかしさにその場で発火した。これまた大きな火柱付きで……

ひどくない?こんな残念な爆発オチみたいなのやめません!?

結局、この後、またホイッスルを使い目撃者の記憶を消すという後処理に追われた。


 大変な一日を終え、俺は、なんの変哲もない普通の二階建て一軒家に帰った。

「ただいまーっと」

俺が帰ってきたのに気がついたのか、エプロン姿にツインテールが似合う健康な成長をした、最愛の妹、胡桃が不機嫌そうにこっちを睨みつけてきた。

「お兄ちゃん、遅いよ!何時だと思ってるの!遅くなるなら連絡してよ!」

「おう、ただいま。芽唯から、遅くなるって聞いてなかったか?」

「芽唯ちゃんから聞いてないわよ!人に頼らないで自分で連絡したらどうなの?」

「芽唯……恨むぞ……」

 さて、中学三年生にしては、出来ている妹。この世で一番可愛いのは、やはり、俺の妹だ。ちなみに水上家の食卓を支えている家事担当でもあり、長期の旅行に出ている両親は、助かっているとよく連絡が来る。

「お兄ちゃん何ニヤニヤしてるの?きもい」

「やっぱり、胡桃は、世界一かわいい妹だ」

「ちょ……いきなり実の妹を口説き出すとか、お兄ちゃん、流石にナルシストが過ぎるよ!」

顔を赤くしている胡桃は、反抗期あいまって、余計に可愛く見えてしまう。俺の妹にふさわしい可愛さだ。

「なら、私は、恭也の可愛いお姉さん」

「芽唯ちゃん!だから下着で脱衣所でちゃダメだって!」

「でも、服、部屋に忘れた」

突然、脱衣所から下着姿で出てくる芽唯に驚くマイシスター。芽唯のステレス性能は、いつになく磨きがかかっていた。

ここで、もし黒川さんがいたら、疑問に思うかも知れない。

なぜ、芽唯がうちでシャワーを浴びているのかを……しかし答えは、簡単だ。

芽唯とは、事情があって四年前から一緒に暮らしているからである。

話せば長くなるので、聞かれないと絶対に答えないのだが。

「忘れないでよ!お兄ちゃんが欲情しちゃう!」

「むしろ、うえるかむ」

いつも通りの会話を聞いて俺は、なんだか、とっても幸せを感じた。

今日は、色々とあったからか、余計にそう感じてしまう。

この幸せを俺は、守っていかないといけない。

「お兄ちゃん?何ニヤニヤしているの?いやらしい」

素直じゃない妹は、俺に対して非常に冷たい目を向けてきた。

「何を言う、俺は、家族に欲情などしない!ただ、芽唯がそんな格好でずっといたら、最近暖かくなったからと言っても風邪をひいてしまうか心配になってな。決して、ピンク色の下着が幼く見えるんじゃないかとか思ってないぞ」

「やっぱりエッチ!お兄ちゃんエッチ!」

「む、私も女、異性としては、欲情して欲しい」

「そりゃ、俺たちが中学上がる前まで三人で風呂入ってたし、芽唯に関しては、小学校から、体型が変わっていないだろ」

「胡桃のオッパイが成長してるのは、悔しい、私は、成長してないのに。オッパイ私も欲しかった。そうしたら、恭也は、私にメロメロ」

「まあ、芽唯、ロリは、ロリで需要がある。誇っていい」

「ん、恭也、中々にグッド、ロリコンになって」

「すまんな、芽唯、俺は、シスコンだ」

「今日から、私も妹」

「芽唯は、妹じゃなくて、親友だ。合法的に、いやらしいことは、確かにできるが、絵面がまずいだろ」

「完全に援交」

「そして、児ポル」

「けど、私が裸なら恭也も欲情」

「全裸も良いが、好みは、裸ワイシャツだ。あの、隙間から見える谷間、丸出しの太ももに、チラリと見える、局部、最高だぜ。もちろん両方欲情は、するが……」

「全裸こそジャスティス。肌色は、神の姿。ちなみに、私も、裸ワイシャツは、嫌いじゃない」

「お兄ちゃんも芽唯ちゃん!ささ、さっきから何話してるの!」

俺と芽唯の紳士トークに耐えられなくなった胡桃は、抗議を訴えるように、話を中断してきた。

ウブな妹は、本当に可愛い。これは、世界共通なのだ。

「まあ、そりゃ、エロい話だが」

「そう、私の趣味はエッチな話と痴情のもつれ」

「俺の趣味は、他人の痴情を観察すること。つまり」

俺と、芽唯は、目を合わせると、息を合わせ宣言した。

「「エロは、万国共通!エロは最高!」」

「ご飯、抜きがいい?この……馬鹿共ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「「すみませんでした!」」

そして、食事も世界共通の楽しみ。

この言葉は、自炊のできない俺たちには、最も手厳しい罰にもなるのだった。

結局、俺たちは、各自、支度を終え食事の席に着くことになったのだ。


そうして、少し遅くなった晩ご飯、さっきのこともあり少し不機嫌な、胡桃と何事もない様に着ぐるみパジャマを着て、御飯を頬張る芽唯に、普段通りの日常に顔がニヤついてしまう俺。

今日の晩御飯は、生姜焼きに、味噌汁、ご飯。決して、豪華ではないが、暖かい家庭料理。嫁に出しても恥ずかしくない我が妹。まぁ俺が、胡桃の嫁入りなんて、絶対に許さないんだけどな!

「うまいな。さすが胡桃。俺、胡桃と結婚したい」

「お兄ちゃん、流石に、私にだって結婚相手を選ぶ権利があると思うな」

「なんだって、こんなイケメンのプロポーズをなぜ断る!」

 こんなこと、俺が言ったら、普通の女子なら卒倒するはずなのだが、胡桃のガードは硬いな。

「けど、ナルシストで、盗撮趣味とか、無駄に高いテンションとか、お兄ちゃん絶対に気がついていないけど、結婚したくない男の三大条件がそろっているんだよ」

「近親相姦、ダメ。恭也、私なら、うえるかむ」

「お、今日が、俺と芽唯の初夜になるのか?」

「うい」

「二人とも、食事中ぐらいそういうド下ネタはやめて!」

そう言われても、やはり、芽唯と一番盛り上がるのは、エロい話が、相場。胡桃だって実は、興味津々なはずなのだが、胡桃は、こういう話をすると、決まって顔を赤くするのだ。

またそこが可愛いんだけどな。

「まあ、胡桃イジリは、面白いけど、今日は、恭也に聞きたいことがある」

「芽唯ちゃん!私イジリってなに!?本当にやめて!」

「それは、無理。胡桃可愛いから」

「確かに、最高の妹だ。世界で俺の次に美しい」

「もう!芽唯ちゃんは、私じゃなくて、お兄ちゃんに聞きたいことがあるんじゃなかったの!」

「ん、そうだった」

静かに、しかし真剣な雰囲気の伝わるような喋り方。芽唯は、感情が表情から、読みにくい分、声音や、トーンでの表情は、実は、読みやすい。

クラスでは、感情の起伏がそこまで無いように思われるが、本来彼女は、激情家で何を考えているかがわかりやすい。

「今日の盗撮計画は、完璧だった。普段よりも達成成功率も高いのに、なんで失敗したの?」

「お兄ちゃん、ついに逮捕……」

「逮捕にはならないが、それは……」

 確かにそうだ、普段から、盗撮する前は、入念にバレないように話し合い、計画を練る。ましてや、俺が世間体を気にする人間。臆病に生き、臆病に実行する。

少なくとも、芽唯はそんな俺だからこそ、今回の計画がバレたことに疑問を持っていたのだろう。

しかし、ハイパーセンスのことを話しても信じないだろうし、話したら、それこそ社会的な死が待ち受けているだろう。

「俺も、わからない。やけに黒川の勘が冴えていたんだ」

「む、それはイレギュラー。黒川さん意外。いつもみたいにポンコツじゃないんだって」

「ポンコツ言ってやるな。まあ、今回は、許してくれたんだ。社会的死があるわけでもないから気にしないでいい」

確かに黒川は、学校では、真面目だが、勉強も運動も苦手だ。なぜ、偏差値が高い水彩高校に受かったのかは、学園の七不思議にもなっている。

芽唯の様に、学年一の運動音痴だが、学年一の才女の様な両極端な人間から見たらポンコツに見えてしまうのかもしれない。

「信じていい?」

芽唯は、真剣な目で聞いてきた。

「信じていい。俺が嘘ついたことあるか?俺は、何があっても芽唯の味方だから」

「うん!」

嘘をついた。

芽唯に嘘をついてしまった。

これほどにまで、心が痛むことが、今まであっただろうか。芽唯、ごめん。

「ねえ?」

「ん、どうした胡桃?」

胡桃は、俺たちを不思議そうな目で見てきた。

「あのさ、お兄ちゃんと、芽唯ちゃんの趣味がそもそも、エッチすぎるからいけないんじゃない?これがもっとまともな趣味だったら、いい話だけどさ、今回のとか完全に自業自得だよね?」

「胡桃、ここ良いシーン。私と恭也の愛を語らう最高に恥ずかしくて、キュンキュンするシーン。嫉妬するのは、わかるけれど水を差すのは、いけない」

「これは、呆れだと思うんだけれどなぁ。それに嫉妬どころか、本当にいつか身内から犯罪者が出てしまうから、お兄ちゃんを早く誰か正してくれないと困るのは、私なんだけど」

「なぜだろう最高に、シリアスに決まっている俺は、絵になると思っていたのだが、胡桃的には、もっとお兄ちゃんが格好良くないといけないか?」

「いや、だから、本当に呆れてるんだよ!というか、今のセリフで余計に兄としての威厳ポイントが下がったよ!」

「恭也、ふぁいと」

「芽唯!君は、少なくとも、俺側の人間だからね!」

芽唯がはやし立て、俺が調子に乗って、胡桃がストッパー役。

まあ、何度も感じてしまうが、芽唯と知り合って、8年、家に居候を始めてから、4年長いようで短い期間。

本当に幸せである。

こんな日が、続けばいい。俺は、これからもそれを願うだけであった。

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