五章 映画館は、シリアス回?
市内で一番大きな映画館に着くと休みだからか、人はごった返しており、映画のチケットを買までで、既に俺たちは、微妙に疲れがたまっていた。
今は、映画が始まるまで、映画館にある、映画が始まるまでまつ待合室のようなスペースで座ってお互いポップコーンをつまみながら喋っていた。
「しかし、奇跡だったな。見たい映画が被っていたとは……」
「そうですね。てっきり、水上くんの好きな映画は、いやらしいものだとばかり思っていましたが、中々のセンスです」
俺たちが、選んだ映画は、雨の日、駅に現れる少女の霊とロリコンの地縛霊が戦うホラー映画であり、同じ監督の前作、セクハラおやじの家族が、幽霊よって一人ずつ殺されていく映画が人気を博し、著名になったもので、俺も、黒川さんもこの監督死水恭明監督のファンだったことが発覚した。
「まあ、俺も死水監督の世界観とか好きだからな。よくわからない設定の幽霊がいてさ、海外みたいなスプラッタなシーンは、一切作らないのに、ぞわっとするところとか」
「そうなんです!臓物や血を驚かす道具に使わない。単純な恨みや怨念で人を恐怖で陥れる」
そうなのである。だからこそ……
「駄作なんだよな!クソ映画最高!」
「名作なんですよね!神映画最高!」
「「え?」」
お互いにぽかんとした顔をした。
理解ができないという顔は、互いにそうなんだろうが、価値観の違いに衝撃を受けていた。
「いや、だからこそ、あの監督は、面白いわけであって……え……黒川さんってクソ映画ハンターじゃないの?」
「いやいや、確かに、死水監督は、面白いですが、水上くんって映画の見方知っていますか?」
価値観の衝突とは、凄まじいものだった。
結果は、恐らく、俺も、黒川さんも同じなのだろうが、それに至る過程が真逆のなだから。
しかし、俺にも譲れないものがあった。
「いやいや!考えてみて下さい。映画を見るためお金を払ってい るんです。楽しむための作品じゃないんですか?」
「いや、黒川さん。カネを払ったからこそその作品を叩く価値があるんだよ。叩けば叩くほど映画の批判のが、楽しいだろう!」
「最悪ですね、やはり、変態の思考回路は、私には理解できませんでしたか。嫌なら、見なければいいとは言いません。しかし批判のために見るのは、映画を楽しんだ人の感情を踏みにじる最低の行為なのではないでしょうか?人を馬鹿にしていくのはいけないです」
「なんだって」
なんだかもの凄く馬鹿にされている。
映画の楽しみ方は、十人十色なはずなのに映画を、一人で楽しんでいるだけなんて、俺は、映画の色すら黒川さんは、行っているような気がした。
これは、俺もしっかり言わないといけない。
「そんな映画理論間違えてる。やはり、映画とは、賛否両論を全て受け入れ盲信せず、常に切磋琢磨していくもの。擁護するだけでは、作り手を天狗にするだけなんだ。作り手を
天狗にしない、この俺の心行きは、常に映画界を進歩させているんだ。そんな、傷の舐め合いみたいな映画の見方は、間違えている」
「なんですって……水上くんに、死水監督の何が分かるのですか!あの人は、幼少から、死者と会話し、霊魂を現実かさせるハイパーセンス『死霊黒魔術(ネクロマンス)』を無意識に発動してしまい、いじめられ育ち、しかし、そんな自分にも出来ることがないかと思案した結果、能力を使い撮影した映画『呪殺』は、空前の大ヒット!ハイパーセンスを持っていても社会に進出できるという例を作り出した偉大な人だったんですよ!」
「え……あの霊って、本物だったの?」
「そうです!最初は、やりすぎて、発禁になった御蔵入り映画は、見てしまうと死水監督のハイパーセンスに当てられて寝込んでしまって……あ……」
聞きたくなかった。黒川さんも自分の映画理論に熱が入っていたのは、俺も同じだから、何も言えないが、完全に口が滑っていた。
しまったって顔になっていた黒川さん、恐らくだが、こんなに口を滑らしてしまったのは、初めてなのだろうか表情からでもわかる、かなり慌てていて、ホイッスルを手に持っていた。
「あ……あうあう、やってしまいました。私としたことが、口を滑らしてしまうなんて、これは、記憶を、水上くんの記憶を消さなくては……」
「おい、忘れたのか、俺は、ホイッスルで記憶が消えないんだぞ、まずは、落ち着こうな……な……深呼吸、深呼吸」
慌てる、黒川さんを俺は、落ち着かせようと、声をかけ深呼吸をさせる。
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」
「落ち着いたか?」
「お……落ち着きました。まあ、確かに、水上くんの記憶が消えたら私は、今ここにいませんからね……しかし、不覚です熱くなって、ハイパーセンスを持ってる人の内輪ネタを一般の人に話してしまうなんて」
「やっぱり死水監督の作品に出る、幽霊って……」
お互い落ち着いたところで、俺は、さきほど聞いてしまった事実を聞くことにした。
黒川さんも、なにか諦めたのか、やけっぱちなのか、素直に答えてくれた。
「そうですよ。死水監督の作品の幽霊は、監督のハイパーセンスによって、呼び出された幽霊たちにギャラの交渉をして、役者として出演しているみたいです。ちなみにギャラは、天国二泊三日の昇天ツアーらしいですけど、ギャラに関しては、能力者の間でも、本当か嘘での論争が終わらないみたいで……ちなみに、ギャラを払わなかったのが御蔵入り映画『無題』は、悪霊たちの労働組合と死水監督の喧嘩になって、見たものが体調を崩したり、心霊現象に見舞われたりと……サバトでもハイパーセンスの隠蔽が大変だったみたいです」
……知りたくなかった。死後もなお、労働者組合など律儀につくりストライキを起こす日本人の悪霊もそうだが、そもそも俺が、笑っていたクソ映画の幽霊が、本物だったなんて……俺、あの映画の幽霊バカにしすぎてる自覚は、あるから、呪われるのではないかと思ってしまう。
「知りたくなかった。あの幽霊たちが本物だなんて、撮影中の俳優は、戦々恐々な現場なんだろうな」
「まあ、都合の悪いことは、ホイッスルで記憶が消せるので俳優の方にも築かれてないみたいなんで恐らく大丈夫ですよ」
「なんだか、一番怖かったよ、今までの話の中で」
「そうですか?ハイパーセンスには人の時間を操ったりするような恐ろしい能力から、指から静電気を流すだけの可愛い能力まであるので、それに死水監督の能力は、まだ可愛い方ですよ」
「もうやだ、お前たちの感覚が恐ろしいよ」
果たして、今日俺は、ちゃんと、この映画を見て、楽しめるのだろうか?
今まで、ホラー映画に出てきたお化けっていうのは、作り物としか考えていなかった分余計に恐怖を感じてしまう。
「ふふ、怖いですか?作り物だと思っていたお化けが本物なんていう事実」
「俺は、その事実を聞いてなお死水監督の作品を楽しめる黒川さんの感覚の方が怖いよ。呪われるとか考えたことないのか?」
「あははは、呪いなんてファンタジーの産物じゃないですか。そんなないもの何故怖がらないといけないのですか?私的には、ホイッスルの効かない水上くんの方が」
よっぽど怖いですよ」
「俺にとって、ハイパーセンスも呪いも同じように見えるんだけれどな」
ノロイトオナジ
「いやいやハイパーセンスは、呪いとは違ってですね……」
ダイジョウブダカラ、オニイチャンハ、ホントウニシンパイショウナンダカラ……「うぐ……」
黒川さんとの会話の中でノイズが掛かる。なんだか分からないが、俺は、頭を抱えて、目の前の机に頭を置いた。
「……って、え!どど、どうしたんですか水上くん!いきなり頭なんて抱え込んで」
心配した表情の黒川さんは思わず声を大きくしてしまう。
「頭の中にノイズが……ノロイとか、ダイジョウブとか」
「え……ええ!本当にどうしたんですか!今日は、帰りますか!それとも病院に!でも、ハイパーセンスの目覚めなら、お母さんに電話しないと」
いつも罵らっているような関係なのにいきなり、俺の体調の変化を見ると本気で心配してくれる黒川さん。
俺は、この人を心配させてはいけない。なんでかそう思ってか無理やり痛む頭を動かし庵安心させようとした。
「こ……これは、呪いだ!今まで、死水さんの作品を馬鹿にしていたから、幽霊が怒って俺を殺そうと躍起になって」
「ば……の、呪いなんてある訳ないじゃないですか!それより無理はしないで休んでください!」
「うゴゴ、呪いだ。ノロイ。ノロイ」
「そ……そんな呪いなんて」
「ある訳無いだろう。馬鹿か、黒川さんは」
「そ……そうです!呪いなんて……って!なんで水上くんそんな清々しい笑顔で喋っているんですか!体調は!」
「体調は、悪くない。むしろ今日の寝覚めは、最高だった」
「……つまり今のは」
「あははは!さすが俺、黒川さん程度この俺の演技力にかかれば簡単に嘘を付けるのだよ!どうかね!我が演技力!黒川さんはもう呪いを信じるしかない」
……全力の強がりではあった。しかし、それを信じきった黒川さん。
「なんて大掛かりな嘘をつくのですか!私、本気で心配したんですからね!」
「あははは、そんな俺のことを本気で心配してくれるんて、黒川さんは可愛いな!」
「そんな訳無いじゃないですか!水上くんが呪われたって、私には、関係ないです!」
「けど、心配してくれただろう。あー黒川さん可愛いなぁ」
「もう知りません!勝手に苦しんでください!」
……黒川さんと喋っているうちに、頭の痛みはなくなり、結局のところあの頭痛がなんだったのか俺にもわからなかったが、結果的には、折角の休日を、潰さずに済んで、安心していた。
「だいたい水上くんは……あれ?母さんから電話だ……どうしたんだろう。定期報告は、まだしなくてもいい時間なのに」
しかし、話している最中、黒川さんの携帯に、まこちゃんから、着信があり、黒川さんは、電話をとった。
「うん……うん……え?違うよ!別になんでも……うんわかった気をつける。じゃあ」
電話を切ったあと黒川さんは、少し顔が青ざめていた。
「ん?どうした、黒川さん?」
「い……いえ、何でもないんですけどね。わ……私の部屋の部屋中に、血まみれの手形がついていたって……しかも、ハイパーセンスを使われた形跡が無いから、原因が未だに不明らしいです。害は、無いから安心しろと言われましたが……」
「あはは、そんな馬鹿なことある訳無いだろう!」
俺は、黒川さんを馬鹿にしていると俺の携帯にも胡桃から電話がかかって来た。
「み……水上くん……電話ですよ……でないと」
「そ……そうだよな……」
俺と黒川さんは、青ざめた顔で、まさかと思い俺は、電話に出た。
『お兄ちゃん!なんなのお兄ちゃんの部屋掃除しようとしたら血のりの手形ギッシリで気味が悪いんだけど!掃除するからね!』
「あ……ああ」
俺は、開いた口が締まらずそのまま、電話を切った。
「あ……あの、胡桃ちゃんからですよね。どどど……どうしたのですか?」
さっき以上に心配して俺に話しかけてくる、黒川さん。
俺は、冗談で、笑いを取ろうとする余裕も出ないまま、ありのままの事実を黒川さんに伝えた。
「俺の部屋も手形だらけ……だって」
「うそ……ですよね」
「嘘なら良かった」
……俺たちは、唐突に起きた怪現象を理解できずにいた。
「の……呪いって」
「あるのかもしれませんね」
待ってくれ!なんなのこのオチ!オチにすらなってないよ!なんなのさ!完全にホラーじゃないか!
俺の全力の心の叫びも虚しく、このあと始まる死水監督の映画も楽しめないぞ!
この後、俺たちは、互いに黙ってしまい、劇場への入場チケットが、まるで処刑台へのチケットのように感じてしまった。
どうするのさ!このシリアス落ち!
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