番外編 1

●妖精と王子


「マルクー!どこー?」


木々の隙間から双子の姉、シャリルナの声がした。が、耳を貸さずマルクと呼ばれた、銀色の髪に赤い瞳の少年は目の前にいる同じくらいの少女を見ていた。

少女は見たこともない白金色の髪に白い肌をした妖精だった。

その背中には妖精が持つと言われる、羽が存在していた。


「ねえ、あなた、誰?」


突然離しかれられて驚いたのか、目の前の妖精はどこかへ走っていき、目の前から消えてしまった。

余程恥ずかしかったのか。

マルクは姉の元に戻ろうかと考えたが、頭を振り、その考えを消す。

そもそも悪いのはシャリルナなのだ。

ことの発端はシャリルナが母上を怒らせたことにある。

シャリルナは見た目は母上にそっくりだ。

双子のマルクとは間違われるほど似ている。

シャリルナはマルクの格好をして、母上の大事にしている腕輪を盗もうとした。

マルクは慌てて止めに入るが、その際に揉み合いになり、腕輪が壊れてしまった。

結局、マルクも怒られる結果となり、マルクはすぐにシャリルナに抗議した。

シャリルナは我関せずという態度を貫き、マルクは我慢が耐えきれず城の裏手にある森に逃げ込んだのだ。

シャリルナが悪いのに、マルクも怒られることはしょっちゅうある。

それなのにシャリルナは悪びれもせず何度も続ける。

スリルを楽しんでいる。

マルクはその態度が常々気にくわなかった。

マルクのやめろ、とう制止も聞かずいろいろとやらかすシャリルナにマルクほとほと呆れを通り越し、いかりが湧いていた。

しかし、ここでその怒りを爆発させても良いことはない。

マルクはもう迷わず、妖精を追う事を選んだ。


妖精の進んだ先はとても綺麗な色とりどりの花が咲いていた。

マルクはその花を採ろうとしゃがみこんだ。

そろそろと手を伸ばしていると、突然声がした。


「とっては、ダメ」


振り返ると、さっきの妖精がこちらを見ていた。


「なんで?」


マルクは妖精の事が知りたくなった。

初めての衝動だった。


「花は生きているのよ。あなたは今、その命をもぎ取ろうとしたのよ」


妖精はにこりとも笑わず、その綺麗な顔をこちらへ向けている。

少しは笑ったらいいのにとただ笑顔が見たいだけだが、正当な理由をつけた。

口には出していないので、関係ないが…。


「早く帰ったら?」


妖精はマルクを早く帰させたいのだと、マルクは直感で分かっていた。

いくら幼いといっても1国の王子だ。

他人からの感情には敏感になれと言われている。


「いやだね。僕は帰らないよ。それよりも君、名前は何て言うの?」


妖精は答えようかたっぷりと悩んだあと、小さく呟いた。


「フェシリア」


睫毛をふせ、顔にかかる影が妖艶で可愛らしく、マルクはフェシリアと答えた少女に近づき、その足元にひざまづいて、彼女の手を取り、その、ほっそりとした指先にキスをした。


「フェシリア、僕と結婚してください」



↓その後

「ねぇ、その頬どうしたの?」


シャリルナの元に戻ったマルクにかけられた言葉は、マルクの頬についた赤い紅葉に対する疑問だった。


「いや、ちょっと猫に、ね」


「猫じゃないわよぉー。人よ、その跡」


「ち、違うよ。そういう意味じゃない」


「じゃ、どういう意味よ?」


「シャリルナには関係ないでしょ」


「ま、それもそうね」


その晩の夕食。

マルクは家族に笑われた。

笑った拍子に母上が産気付き、見事な男の子が生まれたのは家族での笑い話だ。


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