第7話 パーティー
スノーエル。
俗にいう、クリスマスのことである。
少し違うのはサンタが来るのではなく、神が生まれた日、つまり、世界が誕生した日のことを指すということである。
ここ、ベリル王国では去年から各国のお姫様や王子様をお呼びしている。
それは、今年も例外ではない。
「女王様!料理はいかがなさいますか?」
料理人が書斎に駆け込んで来る程の忙しさ。
横目で料理人を見て、いつも通りで良いと告げる。
言っておくが、いつも通りというのは去年と同じという意味ではなく、いつもと同じように美味しい料理にしてくれ、というものだ。私は手元の資料を読み続ける。
これは出席者のリストである。
いつもは参加している、デザール国が来れないらしい。
デザール国とは長く貿易や国交をしており、非常に仲が良いため残念だ。
そんなこんなで支度を済ませ、あっという間に2週間がたった。
ホールには多くの招待客。
手の凝った料理。
オーケストラが奏でる音楽。
中々の出来になったと思う。
今日のドレスは濃紺である。
腰回りで引き締まるタイプで、スタイルが綺麗に見えるのが特徴だ。
最近の流行はフリルらしく、その繊細なフリルがふんだんに使われており、流行にも則されている。
みていて惚れ惚れとする美しいドレスだ。
挨拶をしなければならないため、ホールの2階、階段の上に立つ。
がやがやしていた客人達は、私の登場に一気に大人しくなった。
「ようこそいらっしゃいました。今日は楽しんで頂きたいと思いますわ」
私の挨拶を合図に、先程話していた人や新しい人に話しかける等、各々近くの人と話し出す。
私の所にも、他国の王子様、お姫様が詰めかける。
「シェルナリア様、ごきげんよう」
始めに来たのは隣国のナパヤ帝国の第3王女、コンツェラ姫。
その隣には、婚約者のユーシケル様がいる。
パナヤ帝国は世界で一二を争うほどの領土を持っている。
そのためか、各国の使者である王子、王女は彼女達を先に寄越したのだろう。
当の、二人は美男美女で有名だ。
コンツェラ姫は、艶やかな黒髪に流し目の妖艶な美女。口元のほくろもアクセントとなっている。
方や、ユーシケル様はナパヤ帝国きっての美男子で、黒髪にぱっちりとした二重瞼、すっと通った鼻筋。
これが有名にならないわけがない。
「ごきげんよう、コンツェラ姫、ユーシケル様。本日はようこそおいでくださいましたわ」
「いえ。こちらも招待して頂いて光栄です」
話すのは、コンツェラ姫ばかり。
ユーシケル様は無口なのだろう。
その時、丁度曲が鳴り始める。
「ダンスが始まりましたわ」
「では、ここらで御暇させていただきまして、一曲踊りたいと思いますわ。失礼致します。行くわよ、ユーシケル」
コンツェラ姫はお辞儀をしてからユーシケル様に一言言うと、中央に歩いていく。
ユーシケル様はこくりと頷き、コンツェラ姫の後ろを着いていった。
そこで人は止む訳もなく、後から何十人も押し寄せてきた。
一組一組相手にし、挨拶が残り一組になったのはそれから1時間30分くらいたった頃だった。
よし、最後はルービィア王国だわ、と思い、辺りを見回してみると、ルービィア王国の王子はこちらへと歩いて来ていた。
この場合、女王である私が動くのはあまり良くないため、相手が来てくれるのを待つ。
ルービィア王国。
鎖国的な国で、自国の事は殆ど漏れない。
まさに、秘密主義国家。
唯一知られているのは、宝石が多く採れるということだけ。
王子も1人しか知られていない。
今までも参加していなかったことから、今回もパーティーには参加されないと考えていた。
しかし、1週間前、参加の旨が書かれた手紙が届いた。
初めは、偽物か何かだと思ったが、紋章もルービィア王国のもので間違い無かった。
そういう要因もあり、今回のパーティー参加者は例年よりも多い。
それも
どの国も、ルービィア王国の事を知りたがっているようだ。
「本日はお招き頂きありがとうございます。ルービィア王国を代表致しまして、ルービィア王国第1王子ゴンドラ・ルービィアと申します」
ゴンドラ・ルービィア。
オレンジの髪が特徴的だ。
瞳は濃い青。
濁っているようにも見える。
どことなく、ミステリアスな雰囲気を
ふと、怪盗ステラが頭に浮かんだ。
最近よく怪盗ステラがちらつく。
共通点と言えば男性という点だ。
だから、無意識の内に考えているのかも知れない。
彼は、何処かの王子なのだろうか、それとも只の平民か。
「どうかしましたか?」
ずっと話さないで、じっと見つめていたからだろう。
ゴンドラが尋ねてきた。
「いえ。申し訳ありません。ベリル王国女王、シェルナリアと申します。こちらこそ、本日はお越し下さりありがとうございますわ。いつかはお会いしたいと思っていましたの」
「私もです」
にこりと爽やかに笑い、ゴンドラが言った。
「ゆっくりと楽しんで頂けると幸いですわ」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」
ゴンドラは深々と頭を下げ、去っていった。
それから程なくしてパーティーは終わりを迎えた。
各国の王子様やお姫様は馬車に乗り、帰路に着いた。
遠方に住む方々は一晩泊まり、翌日帰っていった。
後日、招待した国々からお礼の手紙が大量に届いた。
有意義な時間だった、とのことだった。
無事に終わったことに安堵のため息を吐き、ベッドに顔を埋めた。
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