第3話 お見合いどうですか?

それはいつも通りの朝だったように思う。


私はメイドに起こされる前に起き、外で体操をし、朝食の席に着いて、朝食を食べる。

今日の朝食はトーストにスクランブルエッグ、カボチャのスープ、鶏肉のソテーだった。

あまりの美味しさに食べ過ぎた感が否めないが、運動をすればいいのだ。

本当にするのかは甚だ疑問だが。

その後、書斎の机に向かい、重要書類などを読み、書類は大体が判子とサインを必要とするため、サインや判子を押していた。


いつもと違っていたのは、バンっと強く扉が開き、叔父のリオナルドが入ってきたことだった。

手には2、3枚の紙を持っている。


私は嫌な予感がした。


「シェルナリア!吉報があるぞ!お見合い話だ!」


この、見るからにハイテンションで暑苦しい叔父、リオナルドはいつも突然やって来ては、問題を起こし、帰っていく困った人なのだ。


こちらに近づいてきて、持っていた紙を広げる。


その紙には、顔写真とプロフィールが乗っていた。


ギルディア・ルーディン。ルーディン伯爵家の次男坊。

現在、24歳。領地で料理をたしなんでいるらしい。

私の9つ上。


見たところ、顔もなかなか格好いい部類に入るのではないだろうか。

色素が薄いのか、ブラウンを極限まで白に近づけたような髪。青の瞳。すっと通った鼻。まぁ、唯一欠点を挙げるなら、唇だろう。少し、たらこが強い。

笑うと薄く見えるが、普段はたらこがいるだろうな、と思う。


あの人とは違う。

瞳も、唇も、鼻も、肌の色も、何もかも。

って、誰を思い浮かべたのか、と自分で自分を叱責しっせきした。

駄目よ、怪盗と比べるなんて、と。


このままではいけない思考に入ってしまうと思い、私は頭を振り、脳内から打ち消した。


叔父様には丁重にお断りを入れよう。


「リオナルド叔父様、私、お見合いは致しませんわ」


私ははっきりと告げる。

そうしなければ、叔父は調子に乗り、沢山持ってこようとする。


「そうかぁ。良いと思ったんだがな…」

残念そうに眉毛を下げ、悲しそうな表情を作る叔父。


「そんな顔をしても駄目ですわ。毎度毎度、その顔に騙されていますもの。もう、騙されませんわ」

叔父を見上げ、成長したのだ、とばかりに言い放った。


叔父は暑苦しい程明るいが、身体は驚く程に弱い。

今も、倒れそうな、青白い顔をしている。そのため、悲しげな表情を見ると思わず許してしまう。

これが本当に今は亡き父上の弟君なのか、と目を疑ってしまうほどに、父と叔父は似ていない。

母親が違うことも理由の1つでもあるのはわかるのだが、父はどちらかというと体格が良く、悪く言えば、いかつかった。

対する、叔父は身長はあるが、細く、体力もないし、顔も格好いいというよりは可愛い部類に入る。


「参ったなぁ。ルーディン伯爵はうちと懇意こんいにしてくれていてね。あぁ、良いんだよ。シェルナリアの意志が一番大事さ。あぁ、残念だな。仕方がないよな。シェルナリアはまだお見合いはしないと言っているしな。いや、すまんな、シェルナリア。では、また来るな」


叔父は話術が上手い。

私が罪悪感にさいなまれるように話す。

私が罪悪感に耐えきれなくなるのを待っているのだ。

じっと叔父を見つめる。

駄目だ。

儚げな表情を使いこなし、罪悪感が襲ってくる。


「ええ。わかりましたわ、叔父様。そこまでおっしゃるのなら、合うだけは致しますわ。でも、1度だけですわ」


私は条件を付け、折れるしか選択肢が無かったのである。


「あぁ、よかったぁ!シェルナリア、ありがとう!ほんっとーうによかった!シェルナリアにぴったり合うと思っているんだよ!じゃあ、次の週の水曜日、午後2時にうちに来ておくれ!」


叔父は悲しげな表情を一気に、笑顔へと変え、涙目だった瞳には、1滴の涙も見えなかった。

そして、ルンルンと部屋を出ていった。


嘘泣きをしやがった!

薄々感づいてはいたが、がっくりと肩を落とす。

いつになったら、叔父様のあの攻撃をかわせるのか中々来ぬ未来にもがっかりした。



──────来週の水曜日、午後2時にお見合いをすることになりました。



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