第2話 女たらし
「怪盗ステラ」
私の呟きは嫌にも響き渡った。
辺りが静かだからだろうと思った。
ん、静か?
おかしい。
確か私の回りにはたくさん人がいたはず。
なぜ静かなのか。
「何かお悩みのようですね。女王シェルナリア様」
私が考え事に頭を
それに怪盗ステラはよほど頭が良いのか、「なんで、私の正体を知っているか、ですよね?」と私の疑問までをも読んでしまった。
今の私は普段の艶やかな銀髪を染め、金髪に染めている。
金髪はこの国では一般的な色であるため、これにした。
気づかれるはずはないと高を
「なぜ?」
想像していなかった展開に、私は弱々しい言葉しか出せなかった。
「私があなたに惚れているからですよ」
彼の言葉は予想外で、
いや、予想はできていた筈だ。
なぜなら、彼は女たらしと名高い、怪盗ステラなのだから。
反応出来なかったのは、そういう言葉に免疫が無かったからだ。
それでも、
「何を言っているのかしら?あなたと私は今日あったばかりですわ。そのような
私とこの人が合うのは、今日が初めての
でも、この人も変装している。
黒のフード付きマントを羽織っていて、変装は厳重だ。
顔の半分から上には仮面を被っていて、見えるのは前髪と瞳と口元だけ。
髪色は輝かしいばかりのカーディナル。
瞳は綺麗なターコイズブルー。
珍しい色だ。
そんな人に会ったことが有れば、忘れるはずがない。
「そんなに見つめないで下さい」
一瞬何の事だか分からなかったが、私が彼を見つめていたのだと気付き、じわじわと恥ずかしさが襲ってくる。
面と向かって言われてしまったのもその恥ずかしさを助長させている。
彼はマントをくるりと翻し、宝石の方へ向かっていく。
こんなことは由々しき事態だ。
「ちょっと、待ちなさい。あなたはなぜ、このようなことをしているのかしら?」
しかし、彼は宝石の前で立ち止まり、こちらを振り向いた。
「悪を倒すため」
律儀に答えてくれた彼はとても冷たい目をしていて、私は背筋に凍えるような寒さを感じた。
彼は私が動けない間にも怪盗ステラに戻り、手品のように宝石を盗んでしまった。
正確に言うと、ガラス張りのケースの上部を円形状に切り抜き、ぱこっという音と共に、ガラスを取り外し、宝石を盗ったのだ。
私は竜頭蛇尾、その場から動けずに彼を見ていた。
こんなことは本来ならあり得ない。
しかし、私は彼の姿から目が離せないでいた。
月明かりに照らされた彼は、盗みを働いているのにも関わらず、綺麗で見とれてしまっていたのかもしれない。
「では、また会いましょう。女王シェルナリア様。
彼は動けない私を
残ったのは、宝石の入っていた残骸と呆然とした私だけ。
「な、なんだったのよ、一体」
怪盗ステラは、宝石を盗み、謎を置いていった。
☆★☆
結果、この家の宝石は盗まれてしまった。
大臣は私が来ていたことも幸いし、不満は少ないようだったが、家宝とも言える宝石が盗まれてしまい、
これから、この家には審査官が入るだろう。
悪事を働いていなければ良いが、働いていれば、爵位返上も
書斎の椅子に座り、私は怪盗ステラの資料をみていた。
見目は珍しく、見たことも無い色だった。
それに、怪盗ステラのあの呼び名。
あれは平民か他国民のような言い方だった。
自国の民は私のことをシェルナリア様とは言わない。
女王陛下、もしくは『銀糸の賢者』と呼ぶ。
『銀糸の賢者』とはこの銀髪と私が、国家最大の学力機関である、国立聖デルジェナ学園を主席で卒業したという点から出来た2つ名だ。
これは、女王になると同時の卒業だったため、〝賢者〟という称号はその前に手に入れた物だ。
私の中で唯一の、女王とは違うところで手に入れた物だ。
その学園で何ヵ国語も学ぶ機会があり、私は
しかし、ある国の言葉は学ぶ事が出来なかったのは、私の唯一で最大の後悔である。
そんな私に怪盗ステラは最後、さよならをエスパル語で話していた。
ディモーア。
エスパル語でさよなら。
怪盗ステラはエスパル人なのだろうか、という考えが私の頭の中を駆け巡る。
しかし、決めつけるのはまだ早いと考え直す。
シェルナリアは書斎の椅子に座り、頭を振った。
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