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「ホットココアです」
「ありがとうございます」
紙コップに入った甘いココア。上にはマシュマロまで乗っている。分かってるなぁ、うん。しかも美味い。
ココアに満足していると、背後から歓声が上がった。誘われるままに後ろを向くと、大階段の一番上に作られた真っ白なバラのハートのアーチの真ん中に、年若いカップルが並んでいた。その間には運命の鐘が設えられている。
「あすみー! だいっすきだー!」
体育会系特有の腹の底からの真っ直ぐな声。数秒の沈黙の後、隣の彼女が胸に手を当てて叫んだ。
「わたしもあやとのことだいすきーー!」
こっちも負けじと腹から声が出ている。二人は手を取り合って一緒に運命の鐘を鳴らした。つられるがまま、俺も手を叩いていた。若いっていいなぁ。
拍手喝さいを受け退場したあと、続いて俺と同世代と見える男女が登場した。男性の方はもっぱらこういうイベントには出なさそうな、少し固めの印象が見て取れる。仕方なしに、彼女に付き合ったのだろうか?
温かい紙コップを傾ける。ココアが通った身体の中心がほわっと熱くなった。
会場中が二人の言葉を待つようにシンッと静まり返る。遠くで子供たちのはしゃぐ声だけが聞こえた。
強張った表情の男性は、ここからでも分かるくらい大きく息を吐いて叫んだ。
「一生幸せにする! 僕と結婚してくださーい!!」
お、プロポーズ来た~、なんて胸が跳ねる。チャペル、告白大会、そりゃあるよな、と思いつつ彼女を見ると、口元に手をやったまま固まっていた。信じられない、と言った風に。
彼女が何て言うのか、それはもう、「はい」か「イエス」しかないよなぁ! とにやける顔を我慢できない。ほらほら、早く答えてやらなきゃ。
「うっ」
次は肯定の言葉が来ると思っていたのに、彼女はその場でボロボロと涙を零し始めた。「うわーん」と声まで上げて。それを見てオロオロした彼が近寄ると、彼女はその背中をぎゅっと抱いた。
「うっうぅうれしいよぉぉ、ありがとぉぉぉ」
リンゴーン、と響いた鐘の音は、空の遠くまで響いた気がした。
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