32.空手vs古代ドラゴン(後)
以前、エンディが確か、
「まさかそんなものにまでお目にかかれるとはな…!」
おれは猫足立ちに構え、クァルーズィオと対峙した。相手の構えは前傾――人間とは体型が違うその姿から、どのような技が飛び出すのか――
――フシュゥゥ――
クァルーズィオが息を吐き、足をわずかに動かして間合いを測る。
――と、その太い足が動いた――!
――ズァッ!
足を踏み降ろすのではない、それは摺り足――重心を変えず、滑るようにその巨体が迫る! その動きから繰り出される――
――グァン!!
前に構えた腕から、真っ直ぐの掌打――否、鋭い鉤爪の一撃!
おれは横に跳んでそれをかわす! そこへすかさず、逆の腕からまた爪撃!
そうだ、その構えからなら、当然そう来るだろう――おれは二撃目をかわした間隙に、踏み込んで反撃に――
「……な……ッ!?」
次の瞬間、おれは踏み込もうとした身体を捻った!
――ガキャアァッ!!
そこへ飛んできたのは三撃目――牙による攻撃!!
その長い首を、両の腕と同じ要領で使ってのコンビネーション攻撃――それは、牙と爪による
そしてかろうじてそれをかわしたおれに、襲いかかる猛攻はそれに終わらなかった――!
――ブァアッ!
三連撃で前に傾いた上体を、クァルーズィオは引き戻す――と、同時に翼での羽ばたき! 巻き起こる疾風の衝撃がおれを襲う!
「ぐっ……!」
直接的な打撃力こそないが、体勢を崩していたおれの動きを止めるのに、それは充分な威力――そして――
――カッ!!!
大きく開いたクァルーズィオの口から、迸る炎の波――!
「……ぬおおおおっ!!」
かわせない――!
まともに喰らえば消し炭になってしまうであろう、灼熱の
力で動くのではなく、脱力によって瞬時に身体を動かす動き――まさに間一髪、道着を焦がしながらも、おれは炎を避ける!
これこそが、古竜武術の
おれはまさしく戦慄した。これまでに戦った
――グオオオッ!!
クァルーズィオが吼えた。威嚇のための咆哮ではない。それは身体の動きを連動させるための気合――それと共に、再びクァルーズィオがその足を踏み込む!
大上段から覆いかぶさるようにその腕を振りかぶり、その爪が弧を描く――低い体勢から繰り出される、爪の斬撃――!
――その時、おれは違和感を感じた。
低くまっすぐに踏み込んでのスイング・フック。相手の逃げ道を塞ぎつつ、上からの攻撃。格闘技術として正しい動きだが――大きすぎる。
これほどの技を使う相手――先ほどは最短距離を突いてきたではないか? しかも、二本の爪だけではなく、牙も、尻尾もあるのだ。離れた相手に、わざわざ気合まで入れながら大振りで踏み込むような真似をする、その意味は、つまり――
「……
本命は――下段!!!
おれは身体を開いて半身になる!
――瞬間、
――ズオオォォッッッ!!!!
半身になったおれの身体の目の前を、跳ね上げられたその太い尻尾が、下から上へとかすめた――!!
これはいわば、
「跳び技までも遣うか、
クァルーズィオは翼を使って空中でその体勢を戻し、何事もなかったかのように足から着地、再び構えを取る。
冗談ではない――あんなものを喰らったら、全身が砕けるだけではすまない。空中に高々と跳ね上げられればそのあとは、成す術もなく
「つくづく、とんでもねぇな……」
背中を冷たいものがつたうのがわかった。しかし――おれは自分の心がどこか、浮き立っているのがわかった。先ほど受けたダメージもある、連戦で消耗してもいる。しかし――身体の中からなにか、熱いものがこみ上げるのをおれは、抑えきれずにいた。
クァルーズィオと、目があった。どうやらこの男も同じらしい。
「わかるぞクァルーズィオさん……あんたのその技、全力を振るう相手が……今までいなかったんだろう?」
おれは一度構えを解き、その場で軽くジャンプした。
「いいぜ……技の比べ合いだ!」
そして俺は、戦闘態勢をとった。
右手の拳を顎につけ、左手は軽く前へ。やや半身になった身体、いつもより狭くとった
構えではない、
――グォォォォォッ!
クァルーズィオが、踏み込みと共に突きを繰り出す! おれはステップでそれをかわす。続いて逆の爪で、斬撃――ステップバックで空を切る!
クァルーズィオの巨体が水平に回転した。
「……んッ!」
垂直にジャンプ――というより身体を浮かせ、それにも空を切らせる。そして再びすぐ、
続く
「なんだ、あの動き……
エンディが言う声が聞こえた。
そう、これは
武器を持った相手に対抗することを前提とした古流の技。そのためにはある程度、距離を大きく取る必要がある。しかし――素手同士の公平な条件で技を比べ合うスポーツとしての「格闘技」には、独自の技術が発展した。
至近距離での攻防において、最低限の動きで相手の攻撃をかわしつつ、自分の有利な
ボクシングやムエタイなどを取り入れ、発展を続けてきた近代の空手道。相手が武術の動きでくるのなら、
――グァァァッッ!!!
襲い掛かるクァルーズィオの牙を、おれは身体ごとかわす。目の前には、攻撃を外した
「ちぇやぁぁッ!!!」
肩口から繰り出す
――ゴッ!!
前蹴りがクァルーズィオの顎を下から叩き上げる! カウンターとなった連撃に、クァルーズィオの体勢がわずかに崩れる――その一瞬! おれは蹴り足を降ろしつつ、さらに一歩、踏み込み――
「しぇあぁっ!!」
5本の指先を1つにまとめるようにして作る、
ズギャァァッ!!
打撃とは違う感触、音。
どんなに硬い身体を持つ相手だろうと、その「眼」は絶対の急所!! それを晒したのが運の尽き――古竜の武術は、その想定する相手が大きすぎたのだ。
――グオォォォッ!!
近代格闘技のテクニックと、急所を的確に狙う古流の必殺の技――その複合攻撃にクァルーズィオは悲鳴をあげ、その身体をよじらせた。振り回すその腕を避け、おれは距離を取る。
クァルーズィオはその眼に紅い光を燃え上がらせ、怒りの咆哮をあげる!!!
――グァァァァーッ!!!
「うおおおおおおお!!!!」
おれはそれに応え、吼えた――次元の狭間が、震える!!
おれとクァルーズィオは、同時に前へと踏み込んだ。
戦闘の衝動に酔いしれ、その身体を躍らせるクァルーズィオ――古竜武術の
それはさながら、荒れ狂う拳と爪、牙と蹴りと尻尾、
いつ果てるともなく続く衝撃の中で、いつしかおれたちの間には無音の時間が流れていた。
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