4-15
アリアがレティシアとヘラレス、郎党のコーボルトに指示したのは「亜人から逃出した奴隷」を装い、砦の正面から堂々と侵入し、内情を探る事だった。
高い隠密の能力が在る訳では無い。下手に隠れて砦を嗅ぎまわり、不審者として発見される危険より、不審で在っても「脱走奴隷」として迎え入れられる方が事前に脱出の設備があるだけ成功率が高い。ほぼ全員で捕まるのは、作戦中に砦の外で見張りに見つかるよりも安全と判断したからだ。
何より情報を見聞きする目や耳は多いに限る。そしてコーボルト達は無論、レティシアもヘラレスも実際に奴隷だったのだ。これほど確かな役回りがあるだろうか。
だが人とは言え、誰とも知れないレティシアが何処まで信用されるか?人に擬態する亜人、月獣や蛇女で無いと疑いが晴れるまで拘束される事は間違いない。それを含めての作戦だが、人が危険を排除する為に、出自の不確かな彼女をいきなり殺さないとは限らない。
アリアの不安に、思ってもみなかった答えをだしたのはサールだった。彼は輝石領の事は伏せ、亜人に捉えられれるまでの生い立ちをアリアに話た。
母親は英霊ゴアの巫女で、人に於いてかなり信用のあった人物であり。レティシアにその村の出身で、捉えられて奴隷となったと言う事のすれば、人に高い信用を得られると提案した。レティシアも奇跡には程遠いが教えには詳しいと自負する。アリアも亜人には教え広まっていない英霊であり、これならばと納得した。
アリアが最も驚いたのはヘラレスが言い出した「奇策」とも呼べる「苦肉の策」だった。
「奥様は
ヘラレスにの提案は魅力的だが、やり過ぎでは無いかと思った。真実味を増すためには、それなりの負傷を負わせる必要があり命に係わるからだ。アリアは躊躇ったが老コーボルトは彼の思惑を強く主張した。
「奥様のお考えでは結局我々全員が牢に囚われたままとなり、砦の内部を探る事は難しいと思われます。少なくとも
従者同士で示し合わせたのだろうか?レティシアが補足するように恐ろし気な内容を話す。
「傷の深さでは無く、衣服の血の汚れ具合で大怪我に見せる事は十分可能です。痛みは相当ですし一見酷いけがにも言えるでしょうが、死ぬことは在りません。ヘラレスには覚悟があるようですし、そうした斬り方は心得があります。」
殺さずに生き物をいたぶる為の剣技。拷問のための技は亜人に於いては広く普及している、剣の扱いに成れたレティシアなら確かに出来るだろう。何より提案した老コーボルトの瞳と言葉には確信と決意があった。従者の計画は能力と経験から充分な勝算を検討したうえでの提案だった。アリアも確かに上手く行きそうだと許可した。
アリアは責任として従者の策の準備を見届けようとしたが、老コーボルトは「余計な事にお気を煩わせないで下さい」といって人の少女と暗い森へしばらく消える。程なくして、歩くのが辛そうに肩を支えられ帰って来た。
その痛々しい姿にアリアは大丈夫かと思ったが。「ヒリヒリして、、、い、痛みますが血は止まってますから、、、大丈夫で、す。痛くて、、、気を失いそうですが、、その方が、、、真実味があって良いでしょう、、、」額に脂汗をかきながら、思ったよりも確りした口調で虚勢張る姿はしっかりとしている。
傷ついたトルプの発見に備えベールデナ高価な治癒ポーションを複数持ち出すことを許可した。そのうちの一本をヘラレスは懐に隠し持ち、気を見計らって使うりだ。
郎党全てが今自身に出来る全力を出した。アリアは空を見詰め、決行する刻限である事を確認すると宣言した。
「皆、良い?この作戦はわざと捕まって敵のから情報を掴むことがポイントなの。トルプ様が捕らえられたか?討ち取られたのか?敵がどうう言った戦力なのか?その情報を持ち替える事が私たちの使命よ。誰もが私達を「弱者」としか見ないなら、力におごった強者の思い込みや油断を突くの。ふんぞり返った月獣や居座る
策には自信があった。だがアリアは背中に流れる汗を忘れようと勇ましい言葉で奮起を促した。彼等の不安を少しでも和らげ、作戦へ集中させるため。郎党達、そしてどこかで彼等を死地へ進ませる自身の怯えを払うために。
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