4-16

 早朝。


 東の空に太陽が昇り、暗かった森には次々と陽の光が差し込み始める。気温が上がり、しっとりた空気が漂い始める森影から、アリア達は陽の光を浴びてたたずむ「砦」を目にしていた。

 人が奪い取った砦はひっそりとしていた。戦で破壊された跡が残る姿は何処か廃墟の様な印象だった。


 少し前、砦に近づけば哨戒と言った部隊と遭遇するであろうと思っていたアリアだが、予想に反して何の障害も無く辿り着いた。

 現状のデーン部隊は亜人の領土で孤立した状態だ。攻撃力と機動力において勇名を馳せるとは言え、突出した状況で周囲を軍勢に包囲されれば全滅は免れない。自身の特性を活かし撤退のタイミングを見計らう為にも、周囲の警戒と退路の確保は万全を期しているはずだと考え、アリアは途中で見つからないよう慎重に進軍してきた。しかし砦を目の前に、サール達との「合図」のために灯した「魔法の光」は効果を失うまでに十分な時間を残していた。


 砦の人気の無さに、アリアは自分達と入れ違いでヘムの軍隊は撤退したのかもしれないと思い、危険を冒さずに目的を達成ると期待しが、防壁付近に明かりが在り、人影が動くのを認めると嘆息した。だが、これなら計画通り進められるとも思った。 


 デーン将軍の後継者とやらは馬鹿か?それほどの力を持っているのか?それとも何かの策だろうか?


 定石に照らし合わせれば「何か」がおかしいと思う。だがそれを言っても始まらない、今回の戦いそのものが敵もアリア自身も異例なのだから。

 いつかは一軍を率いてヘムと戦う事に成るだろうと思っていたが、まさか初陣で伝説の将軍配下を相手に、資金も戦力も乏しい郎党を率いて戦う事に成るとは考えてもみなかった。

 

 ふとアリアは「自分は何故、こんな馬鹿げた事をやっているのだろうか?」と自問する。


 そして、その答えに小さく笑った。


 マリシアスを「愛している」からだ。今やっている事を深く考えれば考えるほど、全てがそこへ帰結する。


 「愛」の定義とはなにか?


 マリシアスへのそう言った感情に気付いた時、アリアが真っ先に考えた事だ。

 物事を理詰めで考える彼女には、自信に芽生えた感情に納得しがたいものがあった。


 何故、彼なのか?


 年も近く、同族の異性と言う所は解る。マリシアスの外見や性格も「永遠の生活」を共にしていく相手として申し分ない。

 両親の娘への配慮だろうか?アリアにも解ってはいる事だが「政略結婚」の相手として、これ程の「好条件」が今後期待できるかどうか難しい。


 「宴」での両親やドーソン伯の思惑は、二人の「婚約」による同盟樹立だろうが、父にとって別に条件が良い相手が見つかれば簡単に破棄される盟約だ。

 そして次の相手が同年代どころか、必ずしも「竜の血筋」であると限らないのは亜人社会に於いての「常識」。

 一番上の兄は「常闇ノ主ジョウヤノアルジ」の女領主と婚約した。いづれは城を出て移り住み。同盟を堅固なものとしていくのだろうとアリアは思ったが、、、


 二番目の兄が言った。


 「「入り婿」や「嫁」は結婚後に伴侶を殺害し、領地を乗っ取る」って昔から良くある話だから、兄貴が実際にこの城か出て向こうに移り住むかどうか、まだ判らないね。逆に儀式で「常闇ノ主ジョウヤノアルジ」になって取り込まれないとも限らないし、兄貴が自由に「牙」の「真性」が操れるようになるまでは「婚約」だけじゃないかな?それだけでも互いに有益では在るんだろうけど。」 


 亜人支配者の「結婚」とはそういうモノだ。


 「神話によれば「三柱ミハシラ」は「愛」と言うモノについて眷属に説かれ、婚姻にも互いにそれが必要だとおしゃったそうです。」


 何が切っ掛けだったか思い出せないが、オライン伯とそんな会話をしたことがあった。


 「アリアさん、亜人の婚儀は手段であって目的は在りません。ヘムに言わせれば亜人の婚姻には「愛」は存在しないそうです。ではヘムの言う「愛」と言うモノが「何」なのか?ヘムでは「相手の存在に感謝して思いやる」と言うのが一般的だそうです。だとするならば「隷属」もまた「愛」と捉える事が出来ます。つまり奴隷を沢山従えるモノは「一番愛されている」と言う解釈も成り立つ、婚姻によって領土を拡大し、己に従う配下や奴隷を多く従える事もまた「愛」と呼べるでしょう。」


 魔術の師の「愛」の解釈は独特だが何となく理解は出来た。少なくとも今の自分の感情の真ん中にマリシアスが居る事は事実。目的も、行動の選択もすべては彼の元へ行くためだ。確かに「隷属」しているのかもしれない。

 アリアは考える中で、理性が愚かだと告げる自身の行いの根底にある「答え」、「本心」と言うモノの迫りつつあった。

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