4-14
「ヴェスベル・ジャレ・アレル・ヴィニュース」
隠し通路の入り口に立ったサールとコーボルトを前に、アリアは呪文を唱え、コーボルトが手にした二つのカンテラの中から眩い光が発した。
「夫人、魔力の方は大丈夫なのか?」
何処か落ち着かない様子のサールに、アリアは苦笑しながら答える。
「心配しないで、明かりの魔法は殆ど魔力を消費しないから。」
「私の役割は、郎党の戦力と長所を生かせる作戦考え、皆に中身を理解してもらってそれぞれに適切な役割を与える事。初めの準備を確り行い、そして皆が無事にやり遂げる事が出来るように調整する事よ。それから撤退のための陽動もね、今やる事はしっかりやらないと。これはお金の掛かる油の節約にもなるし、カンテラの中に明かりを灯せばシャッターで光源を絞る事も出来るは。二人共、道中の危険は無い筈だけど用心してね。」
そう言うとアリアは一方のカンテラをコーボルトから受け取った。
「サール、頼んだわ。この魔法の効果が切れ、灯りが消えた時が合図よ。」
アリアの言葉に、サールも躊躇いを捨る。
「判った、夫人。」
通路は出入り口と通路の中央の格子扉の三枚で仕切られている。出口と中央は魔法のカギだが、砦側は機械式で隠蔽され、魔法探知での露見を防ぐ。出入り付近は広い空間が存在し、脱出や侵入で多数の兵を一時待機させる構造だ。設計した策士に感嘆しながら、アリア達は足跡や兵の潜んだ様子がないことを確かめ、通路が期待通り発見に至っていない事を確信した。
サールとコーボルトはこの通路を進み、砦側の出入り口が今どうなっているか確かめ、砦に侵入した「郎党」脱出の退路を確保し、その時の手引きするのが役目だ。
様子を探るのはコーボルトで、万が一に誰かが居合わせたり、発見された場合でも、砦のコーボルトとして「今まで怖くて隠れていたが、食べ物が無くなってお腹が減って出て来た。」とい言う「言い訳」が通用するだろうと言うアリアの目論見だった。サールは彼の護衛と脱出時の殿を務める。コーボルトが首尾を果たすまで格子扉の出口側で待機する手筈だ。
サールと行動を共にするのは、先ほど屍の首を槍の一撃で仕留めたコーボルト、奴隷市場で購入した時は「片耳」と呼ばれていた彼に、アリアは神話時代の祖先から名を取ってサレフと名付けた。病気にかかって切ったとかで、片方の耳が無いのが特徴だった。サレフはこの役目を自ら買って出た。
ヘラレスの進言は的確だった。鬼火を相手にした初陣で勝利を飾ったコーボルト達は、自らに自信を持ち、主人への信頼を深めたようだった。
主人の指示に逆らう事も無いが、積極性も無いコーボルト達に自発的な意志が芽生えた事はアリアとしても歓迎する事だ。またヘラレスが調子に乗らない様に上手く面倒を見ってくれている。同族の年長者として慕われるヘラレスは、幼いコーボルト達を教え鍛える師としての立場に、まんざらでもなさそうだ。
サレフには万が一捉えられても降伏し、見聞きする事だけに集中して大人しく自分達が助けに来るのを待つように命じた。
「有難うございます。立派に役目を果たしてアリア様のお役に立ってみせます。」
「熱狂」の呪文が無いかの間違いで効いたままなのではと疑う程、サレフの言葉は勇ましかった。アリアは忠誠の言葉に感謝をするとともに、彼の事が心配でならかった。
サフレの姿がギークと重なる、あのコーボルトとサフレは似ても似つかないが、その行動に手を焼き、行く末を心配するマリシアスの気持ちがアリアにはやっと解った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます