4-10

 アリア達が倒したムクロシカバネからは、砦やトルプに繋がる目ぼしい情報を得る事は出来なかった。鬼火オニビ達の正体は、かなり前の戦で戦死したヘムの兵士と推測された。

 戦死後に遺体が放置されたままだったり、負傷して人知れず戦場で行き倒れた兵士が、ムクロシカバネと呼ばれる鬼火オニビとなる。

 戦いが繰り返される前線で彷徨う彼等に合う事は珍しくは無いが、亜人にしろ人にしろ、鬼火オニビを見れば問題が起きる前に早急に対処し、荼毘にふす。鬼火オニビには亜人も人もないからだ。生者を見れば襲い掛かってくる。


 今、これらの鬼火達を埋葬や火葬する時間的な余裕は無い。だが幸いにしてサールが依代シャーマンとして作法にのっとり彼等を弔っていた。

 これで少なくとも彼等の「火」は、迷わず「自由の神」の「クニ」へとたどり着くことが出来るだろう。鬼火をこのまま放置していけば、更なる邪悪な何かを引き起こす可能性もあった。


 比べてアリアはあまり関心はしなかったが、ヘラレスは慣れた手つきで鬼火オニビ達から戦利品を剥ぎ取った。袋に入った銀貨に中程度の「魔の水晶」、それと片手で扱える小型の「魔弾の射手」を一丁と弾を数発。

 今だに懐具合は厳しいアリアにとっては思ってもみなかった「お宝」。特に「魔の水晶」は今後を考えてもありがたい品だ。


 「奥様のお気持ちは理解できますが、私の様な奴隷にとっては、こうして生きるための日銭や「思いもしなかった戦果」を獲得するのが常でした、、、」


 しみじみとヘラレスは言う。


 「それに奥様。本当に稀ですが、倒れ伏した死者の中に息がある者を見つける事もあるのです。そうして助けた「幸運な者」が幸運を分けてくれる事もあるんです。」


 たしかに遺体の丹念に調べれば、そう言った強運の「誰か」を見つけ、救う事は出来るかもしれない。アリアは手の中の「魔の水晶」を見ながら、これがこの先の戦いにどれだけ自分達の命を救う役に立つかと考えると、ヘラレスの行為を無暗に責める事も出来なかった。


 ヘラレスはシカバネから何を取ってアリアの前に持ってきた。アリアは何かと思って老コーボルトが差し出したソレをジッと見つめる。


 異臭が鼻を衝く。ヘラレスの掌から「白濁したた瞳」がアリアを見ていた。


 「※〇□△」


 アリアは驚いて飛びのき、声にならない声を上げた。アリアの反応にヘラレスは呆気にとられる。


 「奥様?どうされました、、、「シカバネの目玉」は魔術の材料と伺っております。先の旦那様はこうやってをお届けすると、喜ばれたのですが、、、、」


 老コーボルトの言葉は正しい。アリアも知識としては持っていたが、いつも原材料そのものでは無く、城出入りの鬼変りオゴロの商人から粉状に加工した物をを購入していた。


 「は、、、ははは、、、ははは、、そ、そうね、、、」


 アリアは乾いた嗤いで誤魔化す。


 「あ、あ、ありがとうヘラレス。で、でもね、、、ちゃんとした容器に収めないと切り取ってしまった「目玉」は直ぐにダメになってしまうの。ごめんなさい、今は、その、持って来ていなくて、、、」


 女主人の言葉に老コーボルトは手の中の目玉を見ると「そうですか、、、」と少し残念そうにつぶやいて「目玉」を遺体に戻した。


  サールが鬼火オニビ達への祈りを済ませると、アリア達は再び砦へと移動を始めた。あと少し近づいたら本格的な作戦に入る。アリアは緊張で身震いしたが先の小さな戦闘で自分の考えが間違っている訳では無いと確信を得た。


 私の至らない所を郎党彼等が補ってくれる。信じてやり遂げるだけだは。


 アリアは道すがらそう決意した。ふと、サールがアリアの側まで来て小声で話した。


 「先ほどの鬼火オニビ達だが、力の強い魔獣か何かに襲われたようだった、、、」


 突然の話で、アリアはサールが何が言いたいのか良く判らなかった。


 「、、、母から聞いたんだがヘムの間ではこんな話があってね。」


 己の身の上がアリアに伝わっていると認識っしているサールは、隠さずに母親からの話をアリアに聞かせる。


 「月獣ゲットに襲われて生き残ったモノには、更なる悲劇が待っているそうだ、、、」


 サールは一旦言葉を切る。


 「月獣ゲットに襲われたヘムは、その後14日間、高熱に浮かされる。そして死ぬと必ず鬼火になるそうだ、、、ヘムでは「月獣ゲットの呪い」と言っている、、、そして本当に極稀に病の床から、人知れず姿を消す者がいるそうだ、、、その者は病を克服した後に、、、月獣ゲットなる。」


 亜人の文献に存在しない初めて聞く話に、アリアはその目を見開いた。


 「母から聞いて本当なのか、嘘か判らなかった。だけどあの鬼火オニビを弔った時、その有り様を見て「あの話」は本当の事かもしれないと思った。少なくとも亜人である夫人や僕には関係ない事かもしれないがね。」


 「ここは「紅月」の縄張りだ、、、まだ他にも鬼火オニビが彷徨っているかもしれない、、、ゲラール夫人、作戦中の貴方は一人になる。くれぐれも気を付けてくれ。」


 サールがアリアの身を案じて伝えた話ではあったが、アリアはこの先の不安を隠せない。だが今更別の手立てを考える余裕もなかった。 

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