4-11

 「起きて下さい、スフィーネ様。起きて下さい、隊長!!」 


 四日目の明け方だった。仮眠をとっていた彼女は呼び起こされる。浅い眠りから即座に覚醒するスフィーネ、窮地に在るからこそ休息を取らなければならないと思いつつも、全く寝た気がしなかった。


 間に合わなかった、、、


 耳朶を打つ兵士の声音に緊張の色がこもっていた。飛び起きると同時にスフィーネは下唇を噛む。そして立ち上がって寝床の脇に置いた装備を素早く身に着け始める。魔力を帯びた剣、そして片手用の「魔弾の射手」。そうやって慌てづ一つ一つ動作ので乱れた気持ちを落ち着け、指揮官としての思考へ切り替えていく。


 「状況を報告。」


 部下達には申し訳ないと思ったが、バセットだけでもこの場から脱出出来た事がスフィーネの救いだった。「魔弾の射手」の装填を確認しつつ平静を取り戻したと判断したスフィーネは、隊員へ報告を求めた。


 「ハッ、亜人の奴隷と思われる小集団が、我々に助けを求めて砦の外に来ております。」


 「!?」


 亜人軍勢が攻めて来たと思い込んでいたスフィーネは、隊員の報告に思考の虚を突かれ、報告する部下の顔を一瞬見詰めたままとなった。


 「隊長?」


 「つ、続けなさい。」


 隊員に報告を促し、「魔弾の射手」を腰にしまうとスフィーネは部屋を出て外壁へ向かう、隊員は随伴して報告を続けた。


 「先ほどやぐらの見張りが、森の中ら現れた不審者を発見し、当直の隊員が迎撃態勢に入りました。不審者は森と砦の間の開けた場所の真ん中までゆっくり進み出て、そこから交易語ワルで我々に「助けてくれと」叫んだとの事です。確認したところ十名近いコーボルトと、見る限りでは外見上で人と思われる女が一名、助けを求めたのは女だそうです。


 「コーボルトが十名?人の女?」


 言葉にしたのは報告する隊員へ確認する為では無く、この事態をどう解釈するか?スフィーネの自身への問いかけだった。事前に耳にした敵の「王殺し」と「紅月」、その戦いぶりは知略と言うよりは亜人本来の力業の様に評される。だがスフィーネは亜人の戦い方がそこに至る前の段階で周到なモノが見え隠れする気配も感じていた。そしてそれは今回の戦でより強まったと言える。


 どちらにせよ、、、


 スフィーネの気持ちは起きた時より幾分軽くなった。外にでると日が昇り始めた所だった。夜目が効く亜人達は夜間に攻めるのが基本的に有利なはず、日が昇り始め朝から亜人が攻勢に出ると言うのはあまり聞かない話だ。こちらは砦を攻略し、偵察部隊を退けた事は向こうも知る事実。あの闇巨鬼の様な化け物が何人もいるとは思えない。だから攻めて来るならきっと数で押してくるとスフィーネは考えていた。


 本物の脱走者?それとも相手の様子見かしら?


 スフィーネは櫓の梯子を登って、なるべく姿を晒さない様に外の集団を覗き見る。そこには報告通りにコーボルトの小集団と人の女の姿が見える。


 「周囲の森影に不審なモノは?敵兵の気配は全くないの無いの?」


 スフィーネは見張りの隊員に尋ねる。


 「はい、目視できる範囲ではありますが、そう言った様子は全くありません。大規模な部隊が移動すれば、さすがにそれなりの音が聞こえるでしょう。彼女達は小集団では在りますが、砦の門を開けなくても収容は可能です。開門を狙ったとは考えにくいですね。」


 兵の数が限られる、降伏したと言えコーボルトを周辺巡回に使う訳にもいかない。大規模な兵隊が移動して来る道には、そうした進軍を検知する仕掛けは設置済みだが、解除された可能性も考慮はしなければならい、、、


 「しかしコーボルトのあの数は脱走者にしては異常かと思います。」


 確かに部下の言う通りだ、十名近くは確かに大脱走だ。主達が気がつかない訳が無い。だがスフィーネには櫓から下を見て別の見解もあった。


 「普段ならね、でも砦を見たでしょ。ここにはちょっとした街中並みにコーボルトが登用されているは、一人、二人がここでは五人、十人が当たり前なのかもしれないは。」


 スフィーネの言葉に疑問を呈した部下も首肯する。


 「確かに、尋問した奴隷達も「他の砦も同様だ」と言っていましたね。にわかに信じがたいですが、、、」


 状況を確認したスフィーネは森を睨み、不敵な笑みでを浮かべ部下に指示した。


 「良いわ、彼女達を迎え入れましょう。」


 軍勢に攻められれば全滅は免れなかっただろう。だが敵が奸計をもって攻めて来るならやり方は在る。

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