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 「輝石領」における「女傑ゴア」の英霊崇拝は順調に進んだ。それは領主が認めた事でもあり、病を癒して人々を救ったからだ。

 またこれまでに学ぶ機会の無かった「崇拝」と言う教養は、領主の目を惹くのではないかと人奴隷達の注目も浴びた。

 更にサールの母親は、時期を過ぎた子供達を一定数外延部の特別領地への移住させ、そこの人奴隷との結婚を勧め、奇病を発生させやすくなった今の「輝石人キセキビト」の血を薄め、新たに創造し直す計画を領主の政策として認可させた。

 半ば強制に近いこの政策も「輝石人キセキビト」側には領主のためと、目立った抵抗もなく受け入れられた。


 真実から目を逸らし、サールと母親は人奴隷達の犠牲の上に、亜人の支配者の膝元で、「信仰の力で「世界シア」を完成させる」ただその目的に向かって突き進み。人の在り方、家庭の在り方と言ったゴアの信念を僅かずつ根付かせていった。


 母親は娘達がサール目当てで社にやって来る事を知っていたが、特に心配はしていなかった。サールが自分を愛し、娘達にもそのような素振り取らない事、また彼は亜人であり人との間に子を設けることは出来ない、ゴアの依代であるサールが、そのような不毛な関係に至る事は無いと考えていた。

 だがそれは母親の思い込みだった。母親の過度の欲求を満たし続けて来たサールの心は、本人サールが気付かぬうちに疲弊しきっていた。それはまるで「輝石領」での領主の欲望が奇病を流行させた様に。



 親が認め、領主も奨励するなら彼女達に憚る必要などなかった。サールが眉目秀麗と言う事もあったが「竜の血筋」と言う領主と同じ外見的特徴は、「輝石領」に於いて多くの娘達がサールに惹かれる要素として十分だった。


 領主様に選ばれなくても、サール様になら、、、


 領主に気に入られる事を盲目的に教育された娘達の承認欲求が、彼女達をそう仕向けた。また領主と違ってサールが娘達に望んだことは、ゴアの教えを理解してもらうコトだけだった。

 サールの説法に参加し、彼に微笑まれるだけで「輝石領」の娘達は、疑似的にその存在意義を達成する錯覚に満たされた。


 レティシアは何かつけサールに纏わり付いた。レティシアは勝気な気性で、淑やかな教育には全く向いていなかった。だが馬術、剣術、体術と言った稽古に優れた才能を発揮した。比して姉のジルは大人しく目立たない娘であった。

 レティシアはその能力を遺憾なく発揮し、他者を出し抜いて時折サールを独り占めにした。それは娘らしい事が苦手な自身の劣等感と承認欲求の捌け口として、優しいサールを求めたからだ。

 両親はレティシアが特徴的である事に期待を掛けていた。そしてジルが「一皿」としての可能性は低いと感じていたが、領主が新しく推奨する「英雄崇拝」に希望を掛け、娘がサールを家に連れてきて教えを説くことを歓迎していた。


 領主様の決めた事、領主様のため、整った容姿とは裏腹に彼等人奴隷達の生き方も、ある種の病に侵されていた。


 サールの苦悩に気付いたのはジルだった。彼女は高い観察眼と人の心に共感する能力に長けていた。だが内向きな気性がそれを特技として表立たせる事の枷となっていた。だがサールに求める者が多い「輝石領」で、ジル一人がサールの悲鳴に気付いた。そして彼を救いたいと思ったのだ。

 そう決めたジルの能力は遺憾なく発揮された。姉であるジルには、レティシアの行動が予測できた。妹がサールを娘達から連れ出した後、油断した妹からサールを匿う。機会は多くは無いが、ジルはそうしてサールが一人、義務から解放される僅かな時間を作った。彼女はその事でサールに何かを求める事はしなかった。

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