3-11

 アリア達の郎党クランは馬の手綱を引いて夜の森を進んでいた。先頭はアリアとレティシア、その後ろを距離を置いてヘラレス率いる両郎党のコーボルト達、そして殿はサールが務めていた。

 砦指揮官ベールデナからの命令で、アリア達は陥落した砦に向かい、消息不明となった部隊の捜索並びに、陥落した砦の偵察を行うことになった。

 だがもう一つ重要な仕事を月獣ベールデナから多額の報酬を約束された上で引き受けた。依頼は領主ドゥーム・ダッハの息子、トルプの捜索と救出だった。


 「生きているのか?死んでいるのか?捕虜となって捕らわれたのか?単純だがそこからが知りたい。生きておいでなら早急に救助に向かいトルプ殿をお助けせねばならない、捕虜の場合は状況を見極め対策を立てねばならぬ。もし死んでおられるとしても遺体が回収できれば「復活」の道が見えてくる。」


 「貴様達を使うのは、今、我らは守備を固めなければならないからだ。調査のために兵を出し、各個撃破されてはたまらん。すでに駐屯地にには伝令を走らせ、増援を要請している。貴様らとはほぼ入れ違いだ。」


 「常であればこのような事に兵を割くことは出来ない、誰の息子であろうが、帰還できないのであればそれほどの脅威が存在すると考えた上で、戦域全体の行動を考えねばならないからな。」


 「以上は建前で、次からは実質的な話だ、まずトルプ殿ほどの戦力を失うのは惜しい。仮に戦死されたとしても、「英霊の奇跡」を頼れば「復活」がかなうかもしれん。ならばトルプ殿の御遺体が必要になる。たとえ「首級みしるし」をあげられとしても、首から下があるなら十分に見込みがある。」


 「次にこれは私の感であり、確信に近いが、トルプ殿は生きておられる。戦いで敗れ、部隊は壊滅しただろう。だがそう簡単に死ぬとは思えない。「闇巨鬼コクテン」の恐るべき能力ならどこかで命を繋いでいる可能性が高い。」


 「捕虜となった可能性についてだが、これも無いとは言い切れない。敵の出方次第でその事が判明するだろうが、例えそうだとするなら、敵方の姦計に利用される前にこちらが事実を確認し、対処の手を打たねばならない。」


 「どちらにしろ、今、トルプ殿がどうしておられるか正確な情報が必要なのだ。「八脚馬」の後継とやらの恐ろしさは初手で十分に判った。だが詰めが甘い、せっかくの一突きも後続がなければ意味をなさない。急所に叩き込むなら別だが、壁に穴一つ開けても大量の水がなければ決壊はしない。」


 「お前たちにへの頼みは、砦の様子を可能な限り探る事、そして消息不明の部隊がどうなったか?それを調べることだ。重要なのはこの二点、それを最初に申し渡しておく。仮に生存者がいてそれがトルプ殿でなかった場合、その生存者を連れ帰る事が重要となる。」


 「危険な任務であり、貴様では荷が勝過ぎる事は十分に承知しているが、動かせる兵の余裕が今現在は無くてな。一両日中にこの状況は改善されるであろうが、その一両日の時間がトルプ殿の運命を左右する。」


 「ここまでの話で良く解ったと思うが、俺はリスクを払わずに可能性を見出そうとしているだけだ。この仕事を受ける、受けないは貴様らの考え次第ということだ。もし成功ないし、何らかの結果を残せば互いに大きな利益を得られる。だが私にとって貴様らが全滅したとしても、特に失うものは無い。」


 砦司令官ベールデナはそういって此方を値踏みするように笑った。

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