2-15

 城壁外に留め置かれた機甲具アーティムを警護するため、ゲラール伯領一行の殆どが「宴」の期間、城外で待機、野営する事となった。


 アリアは出向く前に側付きの者へ。


 「遠路はるばるやって来た新参の賓客へ、城主の娘が自らが出向き、列席の謝辞と挨拶を行う。図らずも野営となってしまった方々の状況を視察し、快適な逗留の便宜測り、手筈を整える。そうすれば先方には「手厚い歓迎」と言う好印象を与える事が出来るでしょう。」

 「重要なのはお父様達公爵夫妻が自ら城外へ出向く訳では無いこと。上下の立場の誇示に影響しない点よ、両家の橋渡しとして最良の行為だは、きっとお父様も褒めて下さるは。」


 と、もっともらしく説き伏せた。だが本心は、どうしても「神話」で語られる弱者を強者に変える力。機甲具アーティムを間近で見たかったからだ。

 アリアは庭園の一件以来、自身で突きつけた問いに答えを見出そうとしてた。 


 「力」とは何だ?


 「竜の血筋」と言う生まれ、公爵令嬢と言う立場、己と意志とは無関係に与えられ、用意されたモノがそうなのか?アリアはあれからずっと手に持ったままの己自身の唯一絶対の「力」を無意識に握りしめる。


 「力」の誇示とは、、、


 庭園で「牙」を恐れたマリシアスを腰抜けだとは思わない、それほど「牙」は圧倒的なのだ。だが普通に考えればアリアの年齢で「牙」を使うのは無理だ。そんな有様で「牙」をちらつかせるなど、「竜の血筋」では嘲笑の的だ。


 使えるモノなら使ってみせろ。


 もしそうなっていたなら?今頃は「宴」どころでは無くなっていただろう、、、


 気分を変えに来たのに、、、


 アリアはまた少し自身にイラついた。そしてある事に思い至る。もし、彼が全てを見透かした上であの態度をとったのだとしたら?アリアはその可能性を考えただけで、羞恥心で顔が赤くなる。知性と洞察に優れる「竜の血筋」であってもアリアもまだ多感な少女だった。


 そんなアリアの顔色を見て、マリシアスは又、何か勘違いしたのだろう。気遣わし気に機甲具アーティムの話で場を盛り上げようとする。小難しく、アリアには未知の用語が沢山飛び出すが、身近な例えを用いてなるべく噛み砕いて話し、実物で披露して見せるマリシアス。

 亜人に於いて絶えて等しい機甲具アーティムの事に、彼がここまでの知識を披露して見せるのはむしろ驚愕だった。


 一体これ程の知識をどこで?


 途中からマリシアスは、機甲具アーティムについてアリアそっちのけで熱弁を振い始めた。アリアは内心苦笑いを浮かべる。先ほどの気遣いはどこへ行ったやら、、、


 玩具に夢中。まるで子供ね、でも打算もない奴みたい。


 「欲」と「野望」。


 アリアはマリシアスが口にした言葉が、彼自身にあまりそぐわないと思った印象を撤回した。機甲具アーティムは所詮「戦」の道具だ。しかしマリシアスがそれを揮うふるう先に、血生臭さだけでは無いモノが見える気がした。


 何故だろ?


 アリアはふと、何時か父の宝物庫でみたモノを思い出す。


 、、、機甲具アーティムだったのかもしれない。


 その時アリアは父に尋ねた。「お父様、コレは何?」と、


 公爵は娘へ答えた。「コレはヘムが造った「力の神」を侮辱するモノだ。このようなモノを放置してはいけない、だから見つけて封印するのだ。」


 それは「魔弾の射手」でも「鎧車」なかった。アリアにはそれが何なのか解らなかったが、父の表情に怒り、恐れ、憎しみを感じた。そう、まるで「蛇姫公ダキニ」を語る時の様に。


 同じものを前にして、お父様とはなぜ違うの?マリシアスには何が見えているの?


 アリアは小一時間ほど前に庭園で出会って、一人怖い思いをさせられ、あきれさせた「アイツマリシアス」を、いつの間にか心の中で「彼」と呼称していた。少なくとも今のアリアは、マリシアスの「欲」と「野望」がどいうモノかに興味を持ち。そして彼の人となりを知りたいと思うようになっていた。

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