2-14

 アリアはマリシアスをエスコートする形で城の一階に降り、城壁を目指した。機甲具アーティムを見る為だ。


 側仕えには目的を話、招待客を自ら案内する旨を伝え、幾つのかの予定の取りやめる。宴の身支度はしなければならないが、それでも十分な時間が作れた。


 そしてしばらくすると、血相を変えてこちらに向かってくる蛇女ジョカ達と遭遇した。


 「姫様、その者をどこで、、、」


 蛇女ジョカが言い終わる前にアリアは手を挙げて彼女達を制す。

 能力的には彼女達の方が遥かに格上だが、これが「頂城」における城主の娘と言う立場のアリアの「力」だ。

 アリアは一度マリシアスに顔を向け「大丈夫だと」目線で伝え、事前に打ち合わせた通り、彼をその場に残して蛇女ジョカ達に歩み寄る。やって来る城主の娘に彼女達は礼を取った。


 アリアは畏まる蛇女ジョカ達を見渡すと静かに問いかける。


 「誰が男爵を案内したのですか?」


 「私が、、、」


 問いに対してすぐさま一人の蛇女ジョカが進み出た。表情は緊張の色が見える。


 アリアは静かに、だがハッキリと蛇女ジョカ達申し渡した。


 「御役目ご苦労さまです。マリシアス様とは庭園で楽しい時間が過ごせました、これからあの方の機甲具アーティムを見に参ります。貴方には引き続き男爵様の案内をお願いします。他の方たちも、もうすぐ沢山のお客様が城に到着されます。お客様に粗相などないよに、城に不慣れな方もいらっしゃいます。方々には「宴」を楽しんで頂けるようにご配慮を、必要なら母の許可をもらって私の側仕えコーボルトに手伝わせて下さい。」


 蛇女ジョカ達は一瞬呆気にとられた。が、アリアの意図を察し、深々と頭を下げ、一人残してその場を去った。アリアは残った蛇女ジョカに問質した。


 「どうして彼から目を離したの?」 


 蛇女ジョカは当然の質問だと思った、アリアにしても確認は取らなければならない。


 「恐れながら、、、」


 蛇女ジョカは次第を説明する。男爵マリシアス案内し城の回廊を移動中に、持ち物ギークが見当たらなくなった。直ぐに見つかったが、持ち物ギークは回廊から出た城壁付近の地面が剥き出しとなった場所で、用を足そうとする寸前だった。持ち主マリシアス飛び出してが必死で止め、その場は凌いだが、、、


 「緊急事態です!!」


 振り向いた男爵マリシアスの「この世が終わるかもしれない」と言った形相と言葉に、最悪の予想に飲まれた蛇女ジョカは、事態が恐ろしくなり奴隷達が使う「お手洗い」の場所を指さすだけで精いっぱいだったと言う。

 その時の状況を想像するとちょっと笑える。蛇女ジョカ立場を考えれば同情の余地残るが、アリアは更に尋ねた。


 「それでも貴方が最後まで案内すべきだったわね。」


 詰問の様なアリアの問いかけに蛇女ジョカ頭を下げる。


 「申し訳ありません姫様、しかし万が一にも城内を奴隷の汚物で汚すような事に成れば恐れ多くて、、、」 


 「それで、城内に入れる事が出来なかった訳ね。」


 状況判断は的確なのかもしれない、類が及ぶことを恐れて随伴しなかった可能性もある。想定外からの突然の「死」の恐怖、その前には誰もが判断を誤る。アリアも先程その事を充分に味わった。

 だが腑に落ちない事もある。蛇女ジョカに後ろで待つコーボルトを目線で差しながら訪ねる。


 「来客が城内にあのような持ち込む時の対処は、方達が最も手慣れているはずよ、だとすれば不手際ね。事前の処置は取らなかったの?」


 「全ていつも通りだったはずなのです!!」

 「、、、何故このように成った、、、」


 蛇女ジョカはまるで抗弁するようにアリアに返した。だが途端に感情的になった自分に気付き声のトーンを下げる。


 マリシアスも蛇女ジョカも話も一致する。アリアは得心がいった。


 なぜこうなったか。


 策を弄したとか謀があったと言うもとでは無い、やはりあの「支配者に物怖じしない」コーボルトが特殊なのだ。


 「お父様のお許しは?」


 「伺ってておりますが、、、」


 そんな時後ろから声が掛かった。


 「あ、あの、アリア様。もうその辺でよろしいのでは?非があるのは私共の方で、その方をあまり責めないで上げて下さい、、、」


 マリシアスが心配げにこちらを見ている。蛇女ジョカへの確認をすませアリアは事態に納得した。




 一同はまず、城壁に設けられた物見櫓に向かった。機甲具アーティムは城壁内には入れる事が出来なかった。庭園でアリアが気付いた騒動はそれだったのだ。


 道すがら突然ギークコーボルトが「交易語ワル」でアリアに尋ねた。


 「ね、何でオシッコであんなに騒ぐの?」


 マリシアスは慌ててギークを抑えた、蛇女ジョカは血相を変えて不心得者に処罰を下そうとしたが、アリアは手で彼女を制した。


 ホントに無礼な奴隷コーボルト!!


 アリアは腹立たしかった。だがコーボルトの指摘は正しい、支配者の序列にある亜人達が揃って、害意も力も持たない奴隷一人で何故こんなに騒ぐの?


 アリアは思った。力の誇示の仕方がおかしいのだ。父の治世のほころびをアリアは見た。


 変えなければ、変わらなければいけない。

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