赤い悪魔

 サールは白髪ハクハツとゆっくり距離を詰める、そしてアリア達からあまり離れすぎない位置で対峙する。武装が重いだけに引き回されれば厄介だ。


 敵の狙い、、、やはり暗殺か?


 サールには心当たりがある、だがやはり赤髪族アカガミと言っても「幼体」と言うのは解せなかった。

 思い当たる人物の性格を考えれば、嫌がらせにしても中途半端過だ。


 どちらにせよ、、、


 サールは目の前の白髪ハクハツを確りと見据えながら、少し離れた位置でもう一人の白髪ハクハツと対峙するレティシアを視界の角に捉える。


 共闘を申し出たアリアは「明かり」の魔法で周囲を照らし出した。夜明け前とは言えまだ辺りは暗い、だがこれで夜目の効かぬヘムでも不自由なく戦えるだろう、レティシアの腕前を認識するサールは安堵と共に眼前の敵に集中した。


 長い手足と大きく特徴的な頭部、幼体だからだろう身長はサールの腰までも無い。だが相手はこちを恐れる様子もなく間合い詰めてくる。

 ヘムと違い、亜人デームの「鬼の血筋」は特徴として殆ど体毛が無い、瞳の色は赤や黄色で大きくギョロリと印象がある。また口は開ければ大きく開き、そこから尖った乱杭歯が覗く凶暴な風貌だ。


 幼体とてそれは変わりない、むしろ幼い面影があるだけ不気味だった。


 これが、母さんの言っていた、森に棲む「赤い悪魔」か、、、


 サールは子供の頃に「母」から聞いた、ヘムに伝わる「赤髪」の話を思い出していた。


 親たちは夜の森は危険だから日暮れまでには必ず帰って来るようにと、子供達に「赤い悪魔」の話をする。

 赤い帽子を被った子供が日暮れ近くの森に現れ、いつまでも遊んで家に帰らに子供に「もっと楽しい所がある」と言って何処かへ連れて行く、その子供は二度と帰って来ることは無い、「赤い帽子を被った子供」は悪魔の化身なのだ。


 子供時分にとても恐ろしい話だったのを覚えている、だが母を手伝いをするようになってからは、親が子供を躾ける方便だと感じ始めていた。


 だがある日、数人の子供が森から帰ってこなかった、母は村人を率いて夜の森に捜索に出た。

 依代シャーマン見習のサールも子供探しに加わり森を捜索した、村は一晩篝火を焚き、母親たちは子供が無事に帰る事を社に祭った「女傑ゴア」に祈った。

 母と依代シャーマン達、そして村の男達は松明を手に、明け方近くまで森探したが、探して見つかったのは遊び道具と片方の革靴が一つだけだった。

 サールは狩りの技を学び始めていた事もあり、暗い森に子供の痕跡を探し続けた。

 そして動物でも人でも無い何かの足跡を見つけた。サールは必死になって追跡を試みたが、途中で見失ってしまったのだ。


 サールは森の奥深を見つめた。暗い森の先、そこは亜人の領域。


 戒めの物語に潜んだ真実。


 伝える大人ですら、いつの間にか本当の意味を忘れてしまうほど稀な出来事だったのだろか?


 、、、いや


 人々は常に彼等を恐れていた。だから物語として残した。


 だが強くも戒めなかった。詳細に口にする事でソレが何時かこの地に帰って来るかもしれない可能性を危惧し、生活に落ちる影を見たくなかったのだ。

 人々は新しい土地の暮らしをより良いモノにするために懸命だった、希望を抱いてこの地に来たのだった。


 今更行く当ても帰る場所も無い、恐怖は誤魔化すしかなかったのだ。


 「赤い悪魔」にさらわれたのは、この入植地で生まれた子供ばかりだった。


 15年前、亜人デームから奪って「領土」とした土地、サールがヘムに拾われて育った村の出来事だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る