化粧

 サールは亜人でありながら人として育ち、成長につれて自身が周りと違うのだと悟っとった。

 悲しい記憶、苦い記憶が蘇り胸を締め付ける、殺し合いの最中だと言うのに感情が揺らぐ。


 刹那、サールの出来た隙を感じ取ったように白髪ハクハツが低く、地を這うように滑り込んできた。


 !!


 盾を構え備えたサールだが、白髪ハクハツは大盾の陰の潜り込んでサールの視界から消える。


 !?


 右?左?いや、、、


 サールが敵のペースにはまる前に視界に捉えようと動くのと、股の真下にボーっと白髪頭がのぞいたのは同時だった。


 白髪ハクハツはバネでも弾けるようにサール向かって飛び上がり、同時に手にした短剣を股間目掛けて振り上げる。

 サールはまらず飛びのき、身体を捻っるが腕に通した盾のせいで動きが重くかわし切れない。

 白髪の刃は防御の薄い革ズボンの内股辺りを裂きながら腿の辺りを薄く切る。刃はそのまま登ってブリガンディの表面を削りながらサールの眼前に迫る。

 サールさらに首を捻って刃を何とかかわしたが、金の髪が糸の様に散った。


 体勢を崩され後ろ向きにバランスを崩すサール、それでも滞空した白髪ハクハツを狙って戦斧バトルアックスを手首で返すと下手から振り上げる。

 しかし白髪ハクハツは体制を崩すサールに向かって一蹴り放って離れると同時に身体を捻って斧をかわした。


 アリアは噂以上の赤髪アカガミ族の動きに目を奪われる。


 白髪ハクハツそのまま地面で一回転、転がるように受け身を取って起き上がり、向き直る、そして蹴られた弾みで後ろに倒れ込むサール目掛けて突進する。


 対するサールは大盾を地面に突きたて身体を支え、何とか倒れ伏すのを防いだ。 だが迫る白髪ハクハツに対し、立ち上がって構える暇が無い、サールは突進を凌ぐように様に身を屈め盾の後ろに隠れた。


 右、左、


 白髪ハクハツどちらから盾の裏へ回り込むか考えた、だがの躊躇いは僅かだった。


 、、、上!


 白髪ハクハツは狂喜を含んだ笑みを浮かべ跳躍し、軽々と大盾の上に飛び載った。その後ろで「右か?」「左か?」と待ちかまえる相手の頭上を目掛け、短剣を振り下ろそうと覗き込んだ。


 だが大盾の後ろに「竜族の男」は居なかった。


 白髪ハクハツが事態を理解するのと、左後ろから大きな影が覆いかぶさるのは同時だった。


 両手で握った戦斧バトルアックスを大上段に振りかぶったサールは、白髪ハクハツが振り向くのとほぼ同時に戦斧を振り下ろした、手に刃が肉に沈み、骨が当たって砕ける独特の感触が伝わる。


 白髪ハクハツは咄嗟に盾の上から飛びのいたが、戦斧をかわしきれず背中から脇腹が消し飛んだと思える激痛と共に地面に叩き付けられた。


 あまりに派手に叩き付けられたのでアリアは死んだと思ったが、白髪ハクハツは息も絶え絶えに立ちあがった。そのヨロヨロとした動作に先ほどの俊敏さは見る影もない、重傷なのは明らかだった。


 サールは突き立てた盾を引き抜くと、構え直してゆっくりと間合いを測りながら位置をとる。


 粗い息をつきながら白髪ハクハツは視野の角に奴隷コーボルトと竜族の女を捉えた。

 大盾を構えた竜族の男はゆっくりと回り込んでくる。


 男の股間を狙ったが、惜しくも交わされた、見れば股の辺りは血で汚れ、まるで「漏らした」様ではないか、白髪ハクハツは可笑しくて低く笑ったが、咳き込むと同時に臓物と血を吐いた。


 もう長くは持たないと解かる。


 朦朧とする意識を何とか保つ、そして力を振り絞り竜族の男を睨んだ。

 白髪ハクハツの里はこれまで同盟関係だった竜族に突然襲撃され、一族は滅んだ。

 わずかな生き残りと落ち延び、この森で潜むようになってまだ一年に満たない。 能力はあっても赤髪アカガミ族は街に入る事が容易ではない、落ち着くまでに共に逃げた仲間達は、不審者として捕られて殺され、飢えて倒れ数を減らした。


 彼は復讐を誓った、支配者に一泡吹かせてやりたかった。

 目の前に竜族を見た時、大して信心した訳でも無い「力の神」がチャンスをくれたと思った、、、


 、、、神はチャンスはくれたのかもしれない、、、だがやはり信心は足りなかったようだ。


 白髪ハクハツは雄たけびを上げた。それは隣で戦う仲間に対して「逃げろ」と言う符牒の意味もあった。


 魂の叫びともいえる雄たけびを上げると、白髪は自らの腹から滴る血と臓物を頭部になでつけた。

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