闖入者

 レティシアが小剣を抜き、ゆっくりとアリア達から距離をとる。白髪ハクハツの一人も釣られるように動く。


 「ヘラ爺!」


 アリアは彼女に手助けしようとヘラレスを向かわせようとした。


 「奥様、白髪ハクハツの相手はサール様達にお任せしましょう。」


 アリアの意に反してヘラレスは留まってコーボルト達を呼び集める。


 「すまない。」


 ヘラレスに一言謝意を示し、サールもまた進み出た。


 アリアは三人の意図を理解する。

 動きの速い白髪ハクハツに飛び込まれて乱戦にでもなれば、巻き込まれたアリアやコーボルト達の被害が想像できない。


 白兵に秀でたサール達が一人一人を相手取り、逃がさない様に抑えるのは的確な判断だ。そして万が一振り切られた時の用心として、ヘラレスをアリアの側に残した。

 コーボルト達を連れて行かないのは彼等に白髪ハクハツは手には負えないと判断したからだ。


 赤髪アカガミ族が俊敏性に優れると言っても目にも留まらぬ速さで動くわけでは無い、身体能力が高くとも相手は幼体だ。この場は彼等に任せるのが最善の策だ。


 だが漫然と戦況を座視しいていい訳では無い、アリアは間髪入れず全体の指揮をとる。


 「ヘラ爺、白髪ハクハツと二人の様子を見ていて、援護が必要なら教えて!危なかった指示を待たずに彼等を援護して頂戴!」


 「君達コーボルト!」


 アリアはそれぞれのグループに「明かり」の魔法を唱えて光源を持たせた。もうすぐ陽が昇るが辺りはまだ暗い。


 「少しだけ離れて周りの様子を見て頂戴、明かりの照らす範囲が私から外れるほど遠くに行ってはダメよ、それを確認するのは貴方と貴方の役目ね。」


 「もちろんサール達の邪魔になるから戦いに近寄っても駄目、今はまだその時じゃないは。」


 「いい、周りを見張って何か見つけたり、気がついたりしたら直ぐに知らせてね。」


 アリアは指を差してコーボルト一人一人に指示を与えた。現状の彼等には「誰かが」という判断をさせるよりも、個々にしっかり言いつけたほうが動作に迷いが無く役割をこなす。


 さて、


 アリアは現状の分析に頭をフル回転させた。

 幼体とは言え赤髪アカガミ族の出現には彼女も驚いた、暗殺か?奇襲か?ちょっとただ事では無い。

 

 親族が自分に暗殺者を放った?いや、まだ連れ戻す事を優先さるはずだ、居場所がばれたなら親族が自ら乗り込んでくるだろう。情報だけなら発見した時点で持ち帰れば良い。

 そして殺すつもりなら白髪幼体と言うのは不自然だ。まだ素性の知れぬサールや、腹芸が苦手そうな輜重隊長オークが狙われていたとしてもそこは当てはまる。

 そもそも暗闇にいて気付かれた時点で何故逃げない?別の機会を伺えばいい。

 とすれば暗殺の線は無しだ。


 こちらが気付いた気配はあちらにも判ったはずだ、ならそこに留まった理由は何だろう?

 雑鬼コブリンは照らされた時点で逃げた。それまでは気づかれても逃げ切る自信があった?何らかの理由で留まる理由があった。そうするための目的があった。

 

 アリアは事実だけを一つ一つ組み立てて行く。


 いや、照らすまで私たちは白髪ハクハツの存在に気が付かなかった、不用意に近づけば不意を打たれたかもしれない。

 照らされたことで条件が変わって雑鬼コブリンが逃げたのなら話は分かる。数だけで言えばコーボルト達を差し引いてもこちらが優勢だ。

 

 だとすれば雑鬼コブリン白髪ハクハツと契約し事を成す間の護衛を頼んだ、そして雑鬼コブリン発見され逃走した、白髪ハクハツは予定の通り殿を引き受けているだけ。

 雑鬼コブリン目的を遂げたかもしれないし、途中で放棄して逃げたかもしれない。


 どちらにしろ雑鬼が居た場所あそこにその理由がある!


 その時だ、金属のぶつかり合う音が響き渡る。


 アリアは視線をサールと白髪ハクハツの戦いに向けた。

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