照らし出されたモノ

輜重隊長オークを起こしますか?まだ寝入ったばかりですし」


 レティシアがサールに問いかける、何事も最終決定権は雇用者であり隊の指揮者である鋭鬼オークが持つのだから彼女の判断は正しい。


 が、


 同時に些末な問題を「長」を煩わせる事無く処理し、雇用主を満足させるのが「傭兵」の腕の見せ所でもある。


 微妙なバランスが問われる「灰色の領域」だ。


 「君の意見は?」


 サールはアリアに意見を求めた、恐らくレティシアのに同意しているのだろうが共闘者としてこちらの立場を尊重している事が分る。


 彼とは今後も組みたいわね。


 アリアは僚友に恵まれた事を「力の神」に感謝した、とすればなすべきは試練に全力で応える事だ。

 

 「まずは相手の正体、そして出来れば目的を知りたいはね。」

 「輜重隊長オークを起こすにしても、それなりの報告をしなければ双刀で切り刻まれても文句は言えないは。」 


 「確かに、、、」


 ヘラレスは身をブルッと震わせ相槌を打つ。


 「、、、明かりを付けましょう。ヘラ爺、よく見張ってなさい。」


 「へッ?」


 アリアは膝立ちで腰のから魔道具である棒杖ワンドを抜き一度眼前へ正中に構えると森に向かて突き出す。

 

 主の命にヘラレスは慌てて暗い森に目を凝らした。


 アリアは棒杖ワンドを操て空に何かを描きながら静かに呪文を唱えた。


 「ヴェスベル・ジャレ・アレル・ヴィニュース」


 たったそれだけの動作だったが、アリア達の正面の森、サールが示した一角が 

ポッと光に照らし出される。

 光は強すぎず、それでいて不審者の潜む辺りをハッキリ辺りを照らし出した。

 

「明かり」は初歩の魔法で派手さは無いけど、そう言ったものの効果的な使い処を判断するのが魔術師の腕の見せ所だよ。


 ま~普段は宴会芸ぐらいが関の山だけどね。


 魔術の師であるオライン伯の言葉だ、使い魔を使役出来れば安全に正体を知る事がでいたかもしれないが研鑽が足らない。だが雷撃魔法での攻撃は大雑把すぎる。

 ならばとアリアはコーボルト達の視界も確保するために明かりを点けた、これには不審者も慌てた。


 「アリア様!雑鬼コブリンが一人、、、あ、あれは白髪ハクハツ?」

 

 光に照らし出されたのは雑鬼コブリンが一人と白髪ハクハツが二人。

 雑鬼コブリンはともかく赤髪アカガミ族の幼体だけが何故?


 赤髪アカガミは体格的にはコーボルトとさほど変わらないが、細く長い手足に体毛の薄い赤い肌、その色と髪型が特徴的な種族だ。

 気性の粗さ、そして残忍さは亜人の中でも一、二をを争う。技術を治めると言った言った事には向かないが、さして訓練しなくても天性の隠密行動能力と俊敏性を活かし、敵の喉笛を本能のまま切り裂く。

 その小さな体格と夜目が効く亜人の特性から敵との戦いにおいては奇襲や攪乱といった任務に好んで使われるが、「血に酔う」その性癖が指揮系統に混乱をきたす傾向があり、扱いの難しい種族だと言われている。

 また、赤髪アカガミは権力闘争に於いて過去から「暗殺者」として多用されてきため、明確に軍役や庇護の無い赤髪アカガミは亜人の街で見る事は無い。

 彼等は僻地に隠れ住む様にコミュニティーを形成して暮らす、支配者の要請に応じて戦や権力闘争に金や権利で雇われるのだ。


 アリアの父も赤髪アカガミと契約を交わし、十数名の傭兵と暗殺者を城の一角に抱えていた、決して一族以外に知られぬように。

 そしてその刃はヘム族の社会にも「取引相手」によって時折振るわれると噂を聞く。


 照らし出された事に驚き、慌てて木の陰から森の奥に逃走を始める。その雑鬼コブリンは標準より背が高くヒョロリとした印象だった。


 鋭鬼と共に亜人軍の中核をなす兵士達だが、数を頼み、「虎の威」を駆る立ち回りが目立つ。肝心な所で敗走を始め総崩れとなるのが彼等の泣き所だ。

 中肉中背で全身の体毛は薄く、肌の色は部族にもよるが薄い緑だ。標準的に兵士として人より強く生まれつき、器用に立ち回れる使い勝手の良さから、亜人社会では支配者によって所領を与えられ、部族ごとに各地にで繁栄している。


 逃げる雑鬼コブリンを捕まえようとアリアは立ち上がり、ヘラレスに指示を出そうとした時だ。


 「下がれ、」


 無頼な一言と共にサールの背中がアリアの目の前を壁の様に塞ぐ。大盾を構え、「女傑ゴアの武器」とされる戦斧バトルアックスを腰の留め金から外す。


 サールの背中越しにアリアは、逃げる雑鬼コブリンに反して、白髪ハクハツの二人が嬉々とし顔をこちらに向けゆっくりと近づいて来るのが見えた。

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