売込み

 アリア達が軍関係の仕事を斡旋するの夜魔グレムリンに銀貨を握らせて割り当ててもらった輜重隊に出向いた時の事だ。


 「竜の血筋」が率いるコーボルトと人の奴隷達郎党クラン

 アリアは思う、「何をどうすればこれだけ亜人の「嗜虐心」を煽る面子が揃うのだろうか?」と。


 腰の両脇に剣を吊るした輜重隊長の鋭鬼オークは、アリア達を一瞥した後に鼻を鳴らして「帰れ」と言った。


 にべもない相手の態度に言いつのろうとしたアリアを制し、ヘラレスが言葉巧みに鋭鬼オークを持ちあげ、自分達が費用対効果に優れいかに役立つかを売り込む。

 屈辱的ではあったが支配者から堕ちた身としては、プライドを翳して銀貨賄賂を無駄にするよりも、巷の習慣や常識になれた老コーボルトに全てを託すのも、今後の世を渡るうえでの学習だとアリアは考え方を変えた。

 だがヘラレスの巧みな言葉にも輜重隊長オークは耳を貸そうとしなかった。想定した中で最悪のケースが進行していた。

 アリアは事態を好転させるべく学んだ知識をフル回転させたが、現状に有効な手段として思いつくこと全てが卑屈過ぎ、実行を躊躇わせた。

 奇跡の技を収める神官サールも、ヘムの英雄を崇めていると言う事で不審がられ、交渉の切り札にもならなかった。


 小屋の窓から西日が差し込むのを見た輜重隊長オークは、護衛人員を諦め出発の指示を部下達に出した。


 「役に立たない「護衛」に銀貨を支払うのは馬鹿のする事だ、、、」


 鋭鬼オークはそう言い放つと立ち上がって部屋を出る。取り巻きの亜人達も彼に続く。


 老コーボルトヘラレスは肩を落とし、「どうしようも無い」といった視線をアリアへ向ける。

 アリアは詫びるヘラレスに肩をすくめ、目をつぶり大きく溜息をついた。


 「惨めな者達」を目にして、これまで輜重隊長オークの後ろでニヤニヤ眺めていた雑鬼コブリンの一人が、サールの後ろで目立たない様に控えていたヘム奴隷コーボルトに、すれ違いざまにちょっかいを出した。

 その奴隷コーボルトは似つかわしくない装飾品を身に着けていた。雑鬼コブリンは分不相応だと思い装飾品を奪いとうとした。


 弱者から奪う。


 それは亜人デームの日常だった、装飾品は簡単に奴隷コーボルトから剥ぎ取られた、怯える奴隷コーボルト雑鬼コブリンは汚い犬歯を覗かせて笑う。もしかすると凄みを効かせたのかもしれない。


 弱者がさらに弱いものを甚振る。


 ここはどうしようもない世界だと思わないかい?


 アリアはあの時の言葉をかみしめながら、ヘラレスに右手を差し出した。


 大声で叫ぶ雑鬼コブリンの耳障りな声が待機所いっぱいに響く。装飾品を握った雑鬼コブリンの腕が皮一枚ほど切り裂かれていた。


 突然走った腕の痛みに奪ったお宝を取り落とす、大した傷でもないのに溢れ滴る血にちょっとしたパニックに落ちっている。


 自身を傷付けたモノがなんなのか?


 雑鬼コブリンは周りを見渡す。


 黒ずくめの「人の雌」が小刀を握ってこちらを見下していた。

 レティシアの身長が高い訳では無いが、手を押さえて前かがみに成った雑鬼コブリンが、そうした印象を持つには充分だった。


 雑鬼コブリンは激高し、レティシアに襲いかかろうと腰の獲物をに手を掛けた。

 が、視覚いっぱいに迫った大きな盾に気が付いた時には、顔と上半身を殴打され多々良を踏んで崩れ落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る