逸材

 だが英雄達は、それら全てに答えてくれる訳では無かった。


 英霊達は代理人と認めた者にだけ「御声を掛け」「奇跡」を授ける。

 「奇跡」を得ようと力ある個人、組織はこぞって教団を立ち上げた、奇跡やその組織力の恩恵に預かろうと、さらに団体や個人が参加し強大な集まりが世界各地に誕生した。


 亜人、人を問わず存在する英霊教団。


 亜人でありながら「ヘムの英霊」を信仰するサールと言う存在にを目の当たりにしてアリアは改めて思う。


 英霊崇拝は一国を造り上げ、また眷属の垣根を超える程の強大さを秘めていると。

 

 「鍛治の匠」ポルトや「鬼火払い」ルイーダはその職業や守護する対象から眷属問わず崇められる英霊達だ。

 「力の神」の眷属に於いては「神の戦ジャド」で多くの武勲を上げた「勇者」ベルド、「調和の神」では「原種」を戦に持ちだした「力の神」を単身で乗り込んで説き伏せたと言う「雄弁」モーラや、ベルドの剣を何度も弾いた「堅固なる盾」ルフトが広く信仰されている。

 また、噂に過ぎないが「原種ゲンシュ」を崇拝する者達がいると耳にしたこともある。


 だが英霊達が全て等しく崇められている訳でも無い。


 毒や病気、謀と言った「苦しみ」や「貶める」事を快楽とする英霊崇拝は亜人では平然と存在するが、ヘムではそういった英霊崇拝は忌避される。

 「神の違う」英霊崇拝は多くの場合「侵略」や「寝返り」と受け取ら社会で弾圧される立場だ。


 ヘムの英霊を崇拝する元「竜の血筋」とは?異色すぎる存在だとアリアは思う。


 が、同時に期待が胸に膨らむ。


 英雄「ゴア」って女性だったからしら?

 確か親の言う事を聞かない子供を蜂で刺したり、女性や妻に暴力を振るう男や旦那のを斧で切り飛ばしちゃうって英霊だっけ?


 アリアの見識は良く知らない「ゴア」崇拝と、亜人の偏見と嘲笑からくる誤解だ。

 後日、アリアはその件で「」剣幕のサールに驚愕する。


 英霊ゴアは「女傑」と呼ばれる数々の神話、逸話に出てくる名のある英雄群の一員だ。

 躾や良妻賢母といった母や子を持つ女性の守護者として崇拝されている。五穀豊穣や生活の安寧といった事柄に連なる英雄の一人だが、斧を持ち家庭やコミュニティーを守ると言ったその逸話は、理不尽や言われない暴力には断固として立ち向かう男尊女卑が根強いヘム社会にあって女性の役割と権威を象徴する側面がある。


 生産基盤が奴隷頼みの亜人にあって、ほぼ存在しない崇拝と言って良いが、亜人は実害がなければ働く奴隷達の神や英霊への祈りを大目に見る。

 彼らの届かぬ祈りを見て楽しみ、苦境に立つ眷属や拝徒に何もしない異眷属の神と英雄をあざ笑うのだ。

 時に「奇跡」を使う者が現れるというが、主達は見つけ次第殺すか「奇跡」を利用する手段を使うという。


 サールもそんな異端の「依代シャーマン」の一人だろうか?


 アリアのサールを見つめる瞳は、、、邪な企みに笑っていた。


 、、、、訳アリの逸材よね~


 「奇跡」は得難く貴重な力だ。


 支配者は「教団」と契約を取り交わして力を借りる手段が一般的だが、懐に自分の意志と別種の存在が居る事を常に警戒しなければならない。

 だから支配者は己の領土に社を建て英霊を祭る。自分の意志を汲む郎党クランの中から「声」を聴くものを見出すためだ、アリアの兄もそうだ。 


 アリアは森を見張るサールの横顔を改めて見る。


 悪くないは、一番最後になるかもしれないと思ったけど、やりようでは一番最初に貴重な戦力をゲットできるかも!!

 彼の事をもう少し探って、「あの方」のお役にたてるようなら「郎党ウチ」にぜひともスカウトしなくちゃ。


 目の前の問題を束の間わすれ、乙女アリアは期待に胸膨らませた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る