逃亡の花嫁

 アリアはコーボルト達の事を考え過ぎて迷走する思考と確証のない疑心を失笑する。


 アリア自身その昔、狩りへ行き、深い森の奥にあった彼等コーボルトの隠れ里を襲い、兄達と沢山のコーボルトを奴隷として連れ帰った事もある。

 「」と呼ばれ、専門の奴隷商によって「」を管理され。毛並み、外観、躾けと「特別な芸」を施されたコーボルトを父に連れらて行った「郎党クランの宴」や、父の「城」に訪れた賓客の「装飾品」として観た事もある。

 全ては「力の神」に属する「竜の血筋」としての、「郎党クラン」を率いる一員としての教育である、アリア自身その事で彼等コーボルトを哀れんだ事など無かった。


 「思い込んだり侮ると、色々見落としちゃうよね~」


 「力の神」のお考えを自分ごときが測れるはずもない、むしろ彼等コーボルトはこのままである事こそが最も「世界シアの覇者」に近い状態にあるのかもしれない。


 世界最弱コーボルトを別の視点で見れるようになったのは、「」に出会ってからだ。


 膝元で眠りに就くコーボルト達を見ながら、もしかするとの夢でも見ているのだろうかと思う。

 「あの方」の話によれば、「調和」と「力」の神の争いに関わらないと決めた「自由の神」の加護を受けた地に彼等コーボルトがあると言う。また別の話では「力の神」が世界シアを無に帰す秘密をコーボルト達に伝えたとも、、、


 この世の自分の知らぬ知識、価値観を語る存在。


 「あの方」に会って自分はすっかり変わってしまった、、、


 冷静な部分が己をそう評価する、この人生の流転もあの時は想像だにしなかった。


 アリアは、ベルトのポーチから残り少なくなった銀貨を一枚取り出して眺める、金を使うと言うコトにこれ程悩む日がこようとは、、、

 彼等コーボルトは父兄から彼女を匿った協力者、「」から餞別としてもらった資金から調達した。


 それが「引き換えたモノ」と等価であたのだろうか?とアリアは思う。


 もう少しぐらい、、、いや、ババーンと亜人デームの軍隊一つぐらい貰っても足りないぐらいのだったはずだ。


 「竜の血筋」に与えられた加護、「牙」を預けただから。


 そう、、、、


 アリアの幼少より一族との交流があり、自身に友愛を示し、父兄にない別種の強さと立ち振る舞いが魅力的だった、幼い時分には焦がれていたのかもしれない。

 父や兄達にとって協力者であり、そして微笑みと優しさの仮面の下で策謀を巡らす、でもある「おじ様」。


 同じ「竜の血筋」であり広大な領土と軍団を持つオライン伯爵おじ様


 だが「おじ様オライン伯爵」が助けてくれなけば、「牙」預けると言う提案、そして決断をしなければ、、、今のチャンスは無かった。

 提示された条件は選択肢と呼ぶには程遠かった。だがそれで「しるべ」はあった、そして考えて決めたのは自分だ!


 「ま、良いか~」


 アリアは誰ともなく独り言呟き、長く吐く息ともに胸の内の憂鬱を吐き出す。

 平静を装っても、どかで「これでよかったのだろうか?」と自身の選択に怯え悩むのは生まれて十五年程でしかない彼女の若さの証だ。不死ではないが竜の血筋は無限の時を生きる、彼女はまだ子供に過ぎない、経験不足、未知に対する恐怖と迷い。

 だが自分の中で燃え盛る「火」を彼女は無視できなかった、「理」をもって亜人デーム社会で名を成すと決めた自分はまだ確かに内にある、自分自身が不可解だった、不条理だった。


 だが、自身で御せない衝動に身をゆだね、興奮する自分が居る。


 「もろもろ含めて私自身だものね、」


 アリアは膝元に目を向けた、薄く禿げた粗末な毛布に包まり小さな体をさらに丸めて小さくなった彼等コーボルトの姿は実に「可愛い」とアリアは感じた。


 そうだは「あの方」との間にも沢山の子供を作ろう!!


 幸福な幻を見るのは身を寄せ合って眠る彼らの愛らしさと、暖かさのせいかもしれない。

 だがこの感覚も、元の生活、自分のまだったら味わう事は無かっただろうとアリアは思った。

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