第3話「虹の魔法使い」
昼の
放課後の校舎には部活動を励む生徒は少なく、ほとんどが下校していた。
その下校する人数は、校風と言うには奇妙なぐらいに多かった。
「先ほどは迷惑をかけたわね。アイツとはとことん気が合わないの。と言うよりはせっかく私がとった席の近くに座るアイツが悪いの……わかる…? だから、あの去り際の態度から君がアイツを良い奴と思うかは自由だけど。あの面には絶対裏があるからね。あと……」
謝罪から始ま責任転嫁が延々と続き、飽きてきた頃に先輩から唐突に話を切り出される。
「
「え?」
「いや。覚えてないならそれで良いわ。ここで過ごすのならいずれ関わることだから。」
黙々と廊下を進んでいくと、突き当たりに生徒会室と看板のある教室があった。
「どうしたの。入らないの?」
「入りますよ。入らないとなんにも始まりませんから」
急かされながら扉を開くと、誰も座っていない椅子1つを囲むように先程食堂で会った生徒会の面々が陣取っていた。多分あの囲まれた椅子が今日の俺の席ということだろう。
椅子を囲む生徒会の面々の中でも生徒会長の律規道先輩は、半円になっている席の真ん中、つまり多分俺が座るであろう囲まれた椅子の真正面に座っている。
生真面目そうな顔ではあるが、入ってきた俺を見た途端人当たりの良さそうな笑顔になり
「先ほどは迷惑をかけてしまってすまなかった。もともと君があの席を使っていたところに我々が邪魔をしてしまった。本当にすまなかったと思っている。」
と、どこぞの誰かとは違う全面的に罪を認める謝罪を受けた。
「いえいえ。あの時は、六花院先輩からケンカをふっかけたような気がしたので、こちらこそすいませんでした。」
なんかチクッと殺意が後方から飛んできたような気がするけど場の雰囲気は和やかなようだ。
その和やかな空気を生徒会長の言葉が終わらせる。
「じゃあ。さっそくだが、本題に入らせてもらう。」
これからの俺の処遇についての話し合いが始まった。
最近に話を切り出したのは会長だった。
「まず、君は昨晩黒の獣に遭遇したらしいがそれは本当か?」
聞かれたことは、さっき廊下で六花院先輩に聞かれたことと同じ。ただ、あの怪物の名前がはっきりしている。
「俺が見たあの怪物が会長の言う黒の獣で合っているんでしたら、昨晩六花院先輩があの怪物と戦っている場面に遭遇して、六花院先輩に助けてもらいました。」
昨晩あったことを偽りなく話す。
と言ってもあの一瞬だ。詳しいことは何もわからないし、あれ以来黒の獣に遭遇してないからあいつらのことも何もわかってない。
それでも、生徒会の面々は驚きの顔を隠せていない。
「これが、昨晩あったことのほぼ全てだと思います。」
この場では電車内のことは話さなかった。
多分この人達には、絶対に信じてもらえないと思ったからだった。ただの直感というには確信できるほどのものだ。なぜこれほどまでにこの直感を信じることができるのかは我ながら不思議だった。
「六花院。彼の言ってることに間違いはあるか?」
「無いわ。驚くべきことにね」
六花院先輩の一言でどよめく室内。
どよめきに慌てる俺を傍目に室内は、「彼は戦力になるのか?」とか「しかし現状だとあの女の陣営だぞ……。」とか聞こえて来る。
頭上のクエスチョンマークが消えずにパンク気味になったところで助け舟が出る。
「皆さん。今後が気になるのはわかりますけどとりあえず落ち着いてください。」
淡々とした声だった。
声の主は会長の右隣の席に座ってる女生徒だった。
「いきなりのことで驚かせてしまいましたね。私は
そして彼女は淡々と続ける。
「今、話すべきことはこんなしょうもないことではなく、彼のこれからの処遇を考えることでしょう?」
紛れもない正論にいがみあっていた両陣営がうっと苦しい顔を見せる。
正された空気に背中を押されたのか会長が本題を話し始めた。
「じゃ、じゃあ本題を始めようか。今回話すべきなのはつい先日現れた記憶消失中である枢意君の処遇である。昨晩、君は黒い獣と交戦中であった六花院と出会い成り行きで我が学園に入ることになったわけだが、ここで君にこの学園のルールを知ってもらいたい。」
「ルールってなんですか? それで俺はいったい何をすればいいですか?」
「そうだな・・・まず君には七色の魔法使いについて知ってもらいたい」
七色の魔法使いってなんなんだろうか? ていうかこの現代で魔法っていうものが存在していること自体がおかしい気がする。でも昨日見たあの黒い獣が関係するのなら信じられないわけでもない。
「突然のことで多少の驚きがあると思うが先に進ませてもらう。この学園にはそれぞれに自身を示す色を持つ7人の魔法使いがいるんだ。例えば、橙…オレンジ色は俺、律規道理世。小波君が水色で、あとはそこの六花院が青色だ。今は全員紹介できないが他には赤、紫、緑、黄色がいる。そして、君にはこれら7人の魔法使いのうち誰かひとりの下で黒い獣と戦ってほしい」
「戦えって……そんないきなり言われても困りますよ……。俺には魔法なんて大層なもんは使えませんし、それにこの現代社会で魔法なんてものが存在する訳ないじゃないですか。」
「確かに少し急ぎすぎたのかもしれないな。でも我々には君の理解を待てるほど余裕はないのだ。それにこの現代社会であっても魔法は確かに存在している。君の思う魔法ってどのようなものだ?」
先ほどまでのぐだぐだをなかったことにするように、事態の深刻さを口調で伝えてくる律規道会長。やはりそれだけあの小波副会長が怖いのだろうか。
「魔法っていうと火の玉を出したり、なんかすごいことをするみたいなイメージですね。」
「そうだろうとは思っていたよ。しかしながら君のイメージするそれは我々の定義する魔法とは異なっている。我々が定義し使用する魔法は科学では到底理解説明しようのない異能力全般のことだ。また多くの能力が使用者の持つ色に沿ったものになるという特徴がある。まあ一部の例外がいるがそれは今話す必要はないだろう。」
ざっくりと会長から魔法についての解説があったが、つまりこの学園には7人の異能力使いが魔法使いとして黒い獣と戦っているのだろう。そしてこの流れで求められることはただ一つ
「つまり俺はこの学園で生活するにあたって7人の魔法使いの中の誰かについて一緒に昨晩みた…えっと黒の獣だっけ? それを倒せばいいんだよな?」
「ああ。君の言う通り我々は君を貴重な戦力の一人として迎え入れたい。だが、君はまだ知らないみたいだから言っておくが君が昨晩みたものは知らないが、黒の獣は強いぞ。ここに者には家族友人を失くした者もいる。そして奴らの憎きところはその奴らの手によって殺されたものはこの世界から存在自体が消滅することだ。死んだ者が世界から消滅することは意味が分からないとは思うがなんせ我々も理解しきれていない。黒の獣に耐性のある我々なら誰かが死んだことは認識できるが、なんの耐性もない普通の人は昨日、いやついさっきまで存在した人のことをまでも記憶をなくす。これが黒の獣の力だ。」
死んだ人のいたことをなかったことにする。それは記憶のない俺からしたらいまいちわからないことかもしれない。でも俺にはそれがただ許せないものだと感じた。その能力にというよりもその存在に
「続きだが、このような黒の獣の被害を防ぐために我々生徒会は7人の魔法使いと連携をとり交代で夜な夜な街の中をパトロールしている。そして再三だが、君にはこの7人の魔法使いのもとで戦ってほしいのだがどうだろうか? 命を落とすかもしれないことだ急には決められないことだと思う。急かす気はないからゆっくり考えてほしい」
会長は決定権を委ねてくれた。急ぐ必要もないとも言ってくれた。また六花院先輩も俺の自由にさせたいのか何も言ってこない。
普通ならちゃんと決めるべきなのは十分わかっている。ましては一時の理由のわからぬ激情に身を任せるべきでないことも
でも、この身体からなのかそれとも存在自体からなのかはわからないがただ心の奥底にある怒り、恨み、が”ヤツラヲコロセ”と叫んでいるがわかる。
だから答えに迷うことはなかった。
「俺、黒の獣を一匹残らず狩り尽くします。」
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