1話

「はぁっ!」

 声と共に剣を振る。ビュッと剣も音を出す。

「おーい、ローリエ。そろそろ帰ろうぜ。」「あっ、そうだな。リヒト。」

 ここは、花鳥賊はないかという集落からほど近い森の中。周りの木を切り倒して作られた広場は、士官学校に通う生徒にとっては練習場であり、それ以外の人たちにとっては遊び場でもあり、憩いの場でもある。

 今、ここには斜陽でオレンジに染まり、森の奥を見ると、黒い影がこっちに一歩一歩歩いてくるようだった。森の出口へと、足を向けたとき、何者かの足音が聞こえた。

 ガサッ、ガサッ、パキッ、ガサッ…

 草をふむ音、小枝が折れる音が聞こえる。いつもなら、気にせずにさっさと家路につく二人だが、何せ小さな集落であるため住民は全員顔見知りである。誰がいて、いつ帰ったか、というのは二人とも知ってる。なぜなら、この広場を通って帰ることが一番の近道であるからだ。そして、この森にはもう、二人しかいないはずなのだ。

 ローリエもリヒトもさっきまで振っていた剣に手をかける。

 ガサッ、ガサッ、ガサッ…

 広場に現れたのは身なりが粗末な男だった。立っているだけなのにフラフラと揺れ、今にも倒れてしまいそうだった。

「えっと、男だよな。」

 リヒトがローリエに耳打ちをする。

「うん。でも、うちの集落にあんな人いないよね。」

「もしかして、旅人か?」

「かもしれない。」

 二人が話してる間も男はフラフラとしている。心做しか少し、揺れが大きくなりつつある───。

 バザッ

「あっ!大丈夫ですか!?」

 ローリエが慌てて駆け寄り、男に声をかけるが反応はない。

「っ。とりあえず、この人を集落まではこんで診てもらわないといけねーな。」

 二人は男を担いで急いで集落へと帰っていった。


 それを見ていた者が一人。舌打ちをして、

「被検体を一体逃したか。…まぁいい。もういらなかったしな。」

 それは恐れずにしっかりとした足どりで、濃い黒の森の中へ帰っていった。

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