第24話 魔法の神髄

「我が王、ご命令を」


 絶体絶命のピンチで生まれたのは、新たなる果実将『果実将』だった。


「ああ、お前にはあの『武器封じ』の群れを討伐してほしいんだ」


 俺が村に近づいてくる『武器封じ』を指さすと、果術将はゆっくりと立ち上がり『武器封じ』を見つめる。


「なかなかの巨体。いや群体ですか。そして魔力の流れに違和感を感じますね。なにやら特殊な能力を持っているようで」


「分かるのか?」


「ええ、私は魔法を司る果実将。故に魔力の流れを知覚する事が出来ます。私が生み出された事から察するに、あの魔物には魔法しか通用しないといったところでしょうか?」


「あ、ああ。その通りだ。凄いな、本当に分かるんだ」


「ははははっ、簡単な考察ですよ我が王」


 果術将はモノクルのツルを指で押しながら、笑みを浮かべる。


「さて、状況は理解しました。それでは早々に対処してしまいましょうか」


 と、杖を構えかけた果術将が何かを思い出したかのようにこちらに向き直る。


「と、その前に。我が王にお願いがございます」


「お願い?」


「はい。わたくしに名前を下さらないでしょうか?」


「名前?」


 そういえばラシエルやリジェも名前を付けてもらいたがっていたっけ。


「そうだな……」


 三度目ともなると、俺も慌てることなく名前を考える事が出来る。

 ラシエル、リジェ、二人とも、俺の良く知る人達の面影を持っていた。

 その事を思い出すと、やはりこの果術将にも見知った人間の面影を感じる。


「カーツさん……」


 そう、果術将から感じるのは、村で唯一魔法を使えたカーツさんだ。

 たまたま村に寄った旅の魔法使いから、才能があるぞと言われて魔法を教えて貰えたんだそうな。

お陰で魔物が村に近づいてきた時は、狩人と一緒に戦って村の人達に感謝されていた。

 カーツさんは本当は学者になりたかったって言っていたけど、お金のない農民じゃ学校には通えないし、こうして村の皆から頼りにされるのは悪くないって笑っていたっけ。


「……カザード、カザードはどうだ?」


 魔法使いだったカーツさんの名前と、異国の言葉で魔法使いを意味するウィザードを合わせた名前だ。


「カザード、それが私の名前ですか!」


 名前を与えられたカザードが喜色満面の笑みを浮かべる。


「ふふふ、私に相応しい英知に満ちた名前ですね。これより私はカザードと名乗ります」


 カザードはピシリと身を正すと、優雅に頭を下げてくる。


「我が王より賜ったこの名、我が宝と致します」


 そう礼を告げたカザードは、再び武器封じへとその身を向ける。


「では、我が初陣に相応しい活躍をお見せ致しましょう!」


 カザードが杖を構えると、その先端、空中に魔法陣が浮かび上がる。


「バニシングブレイカー!」


 瞬間、カザードの構えた杖の先端から、凄まじい大きさの白い光の奔流が放たれた。

 光の奔流は一瞬で近づいてくる『武器封じ』へと接触する。


「う、うぉぉっ!?」


 そして光の奔流が『武器封じ』を通り抜け、空へと昇っていったあと、そこに残されたのは驚くべき光景だった。


「なっ!? 『武器封じ』が!?」


 残されたのは、体に大穴が空き、半分以下のサイズになった『武器封じ』だった。


「一撃で『武器封じ』を!?」


「いえ、まだです」


 驚く俺に対し、カザードは冷静にまだ終わっていないと告げる。

 そしてそれを肯定する様に、残っていた『武器封じ』の体がブルブルと震え、突然破裂した。


「ほう、固まっていては一網打尽にされると判断し、即座に分散して個々に向かってくることにしましたか」


「そうだった! あいつ等は群れだった!」


 武器封じ達はカザードの魔法を警戒してどんどん広がりながらこちらに近づいてくる。

 大部分を吹き飛ばされたといっても、それでも武器封じの数は多い。

 それがこうも広がってこられたら、村への侵入を許してしまう!


「何は手はないのかカザード!?」


 けれどカザードは慌てる様子も見せず、冷静なままだ。


「ご安心を我が王。全て私にお任せください」


 カザードが杖を掲げると、果術兵達が村を守る様に円陣を作る。

 しかし果術兵の数に限りがあるので、ここの間の隙間が広く、とても『武器封じ』を抑えきれそうにない。


「魔術増幅、術理拡散」


 カザードの杖が輝いたと思うと、今度は細い光が果術兵達にへと走り、まるで蜘蛛の巣の様に繋がってゆく。


「攻撃開始!」


 カザードの号令と共に、果術兵達が魔法を放つ。


「うぉっ!?」


 驚いた事に、果術兵達の放った魔法は、俺の知る彼等の魔法の威力を大きく上回っていた。

 更にその魔法は網の目のように大きく広がり、近づいてくる『武器封じ』達を文字通り一網打尽にしていく。


「凄いな! 果術兵の魔法の威力が上がってるぞ!」


「その通り」


 カザードは視線を外に向けたまま、俺の歓声に答える。


「これこそが我が将としての能力。私は個人として強力な魔法の力を持つだけではなく、儒者達の魔法の力を強化する能力があるのです」


 おいおいっ!? それって凄すぎないか!?

 ただでさえ凄い魔法が使えるってのに、部下の魔法も強化できるとか反則だろ。


「おっと、敵の首魁が出てきましたよ」


 カザードが杖を向けた先を見ると、そこにひときわ大きな『武器封じ』の姿を見る。


「あれが『武器封じ』のキングか……」


 その姿に気づいた時だった。

 周囲にいた『武器封じ』達が、キングの体に張り付き始めたんだ。


「なんだ!?」


「王を守る為の鎧となるつもりなのでしょう。自分達が犠牲になってでも、自分達の主をこの村に侵入させようと」


「おいおい、忠誠心高すぎだろ……」


 更にキングは今も『武器封じ』を産み出しているのか、どんどん体積が増してゆく。


「とはいえ、それは悪手ですね。それをするなら最初からそうするか、自らが王に偽装して、王は別方向から進軍させるべきだったかと」


 そう酷評しつつ、カザードの杖に輝きが増してゆくと、光は果術兵達に伸びた魔力の網を太く眩く輝かせてゆく。


「これこそがもう一つの将たる力! 部下達の魔法を一つに束ねる指揮者の技! バンドリングマジック!」


 果術兵達がキングに向けて一斉に魔法を放つと、それらの魔法が集まっていき、一条の巨大な魔法へと形を変える。


「フィナーレです!」


 魔法が『武器封じ』達を身に纏ったキングの巨体を完全に包みながら貫いてゆく。

 魔法の光は衰えることなく天へと延び、雲を貫いて空へと消えていった。

 そして地上には『武器封じ』の欠片の一片も残ってはいなかった。


「た、倒したのか……?」


 俺が呟くと、カザードが構えていた杖を降ろす。


「ええ、討伐完了です」


「マ、マジかよ……」


 さっきまで絶望的な状況だったっていうのに、あっというまに終わっちまった。

 正直言って信じられん。


「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」


 目の前の光景に呆然としていたら、地上から歓声が上がっていた。

 どうやら難民達が『武器封じ』が消滅した光景を見ていたらしい。

 

「うぉぉぉぉっ! すげぇ! あのバケモンが一瞬で消えちまったぞ!」


「すごい! 騎士団が手も足も出なかった魔物がこんなにあっさり!」


 どうやら彼らの中に『武器封じ』から逃げてきた人達がいたみたいだ。


「凄いぜセイル村長は!」


ん?


「ああ! セイル村長のお陰で俺達は救われたんだ!」


 待て待て。


「セイル村長ばんざーい!」


「「「「ばんざーいっ!!」」」」


 いやだから待てってお前等!


「やりましたね! 村の皆からお兄ちゃんへの感謝の気持ちが溢れているのを感じますよ!」


 皆からの感謝の気持ちが世界樹に流れ込んでくると、ラシエルが笑顔で伝えてくる。


「いや、俺がやったわけじゃないんだからさ……」


「ご安心ください我が王。 私の活躍は我が王の活躍。ご遠慮なさらずに民の称賛をお受け取りください」


 と、カザードが当たり前の様に俺を持ち上げてくる。

 いやいや、それが嫌なんだって⁉


「ほんとに勘弁してくれーっ!」


「「「「「セイル村長ありがとうございまーす!!」」」」」


 だが、俺の叫びもむなしく、難民達は夜遅くまで俺への感謝の言葉をつづけるのだった……

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