第22話 『武器封じ』の脅威

 新たに増設された村の一角では、この村の住人となった難民達が畑を耕していた。

 今はラシエルのお陰で食料の心配はないが、やはり人間何かをしていないと不安なんだろう。

 自主的に畑を作らせてほしいと頼んできたんだ。


 そして畑づくりを手伝うのは何十頭もの馬達。

 開墾道具を括り付けられた馬達が、圧倒的なパワーで土を耕してゆく。


 ちなみにこの馬達は、以前村を襲った騎士団の馬だ。

 以前の戦いで仕掛けた罠にかかった馬達は、負傷した事でそのまま放置されていたんだ。

 騎士団は敵だが、馬に罪は無い。

 そう思った俺は、ラシエルに頼んでポーションを実らせてもらい、それを馬達に飲ませた。

お陰で馬達は元気になり、今では村の端に作った牧場を走り回っている。


「領主の動向が気になるけど、ここもだいぶ村らしくなってきたなぁ」


 そんな風に灌漑にふけっていると、リジェが緊迫した様子でやって来た。


「我が王、魔物が近づいてきております」


「魔物だって?」


 俺はすぐに防壁の上に設置された物見台にあがると、魔物が向かってきているという方向を見た。


「何だありゃ!?」


 そこに見えたのは、巨大な動く水の塊だった。


「湖が動いている!?」


「いえ、あれはスライム型の魔物のようです。とはいえ規模が凄まじいですね。数が多すぎて、まるで一つの生き物のように見えます」


 あれがスライムの群れだって!?

 いくら何でも多過ぎだろ!?


「何でまたあんなのが……」


「植物達からの情報では、何者かがあの魔物を誘導している模様です」


「誘導だって!?」


 一体誰の仕業だ……ってこんな事する奴は一人しかいないよな!


「くそっ、また領主の仕業かよ」


「恐らくは」


 ホント碌な事しねぇなあの領主!


「とにかく、あんなのが村に来たら大変だ。なんとかここに来る前に倒さないと!」


「承知いたしました。果実兵達を出撃させます」


「ああ、任せた!」


 俺が頼むと、リジェが直ぐに果実兵達を呼び寄せる。


「皆の者! 出陣だ! 魔物を村に近づけさせるな!」


「「「「!!」」」」


 リジェの命令に果実兵達が、了解! と答える様に武器を天に掲げて応じる。


「セイル村長、一体何事ですか?」


 果実兵達が慌ただしく出撃の準備をしていると、難民の長をしていたジーオさんが何事かとやって来た。

 ちなみにこの人には、俺の代わりに難民達のまとめ役をしてもらっている。

 やっぱ苦楽を共にした人の言葉の方が従い易いだろうからな。

 決して俺が楽をする為じゃないぞ。


「ああ、村に魔物が近づいてきたので、果実兵達に討伐を頼んだんですよ」


「魔、魔物ですか!? 大丈夫なのですか!?」


魔物が現れたと聞くと、ジーオさんが不安そうな顔になる。

 まぁこの人達はその魔物から逃げる為に難民になったんだもんな。

不安になるも仕方がない。


「心配はいりませんよ。彼等はこれまでに多くの魔物を討伐してきましたから」


「なんと、人……? は見かけによりませんな」


 ジーオさんが意外そうな目で果実兵達を見つめる。

 まぁ確かに見かけの割には強いからな皆。


「我が王、念のため私と同行してくださいますか?」


「ん? ああ分かった。鎧を装備してくるからちょっと待っててくれ」


 ◆


 村を出た俺達は馬に乗って移動をしていた。

 なお俺は馬に乗った経験がないので、リジェの後ろに乗っている。

 ……今度乗馬の練習をしよう。


「しかしリジェが自分から俺を戦場に誘うなんて珍しいな。いつもは俺に危険が及ばない様にって、危険から遠ざけようとするのに」


「村には難民に紛れて入ってきた領主の手の者が居ますので」


「何だって!?」


 それは初耳だぞ!?


「少し前に、夜中に村を抜け出して仲間と連絡を取っているところを確認しました。現状は偵察目的で我が王に危害を加えるつもりがないと分かりましたので、泳がせています。なるべく早くご報告するべきだとは思ったのですが、魔法などでこちらの会話を盗み聞きされる可能性がありましたので、こうして自然に外に出るタイミングが見つかるまで黙っていました」


「成る程、それを報告する為に俺を外に連れ出したのか」


「それもありますが、私が居ない状況で我が王の身に危険が迫っては大変ですから」


 なるほど、護衛も兼ねてって事ね。


「って、それならラシエルも危ないだろ! あの子はまだ子供なんだぞ!」


 そうだよ、ラシエルを一人にする方が危険じゃないか。

 俺よりも戦う手段を持たないラシエルの方が大事だろ!


「ご安心ください。村には果実兵達が駐在しておりますし、いざとなったら世界樹の中に戻れば良いだけです」


「あっ、そうだった」


 そういえばラシエルは世界樹の聖霊だから、いざとなったら隠れる事が出来るんだっけ。

 いつも傍にいるから、どうにもその辺りの感覚が薄いんだよな。

 

「領主の側の動きを調べる為、暫くは泳がせておきたいのですが、よろしいですか?」


「ああ、皆に危険が及ばないのなら、それで構わない」


「ありがとうございます我が王」


 そうこう話している間に、接近してくるスライムたちの姿が見えてくる。


「誘導してきている連中は捕まえられないのか?」


「どうやら途中で逃げ出したようですね。ここまでおびき寄せれば、もう誘導の必要はないと考えたのでしょう。それにあまり近づいては、我々に捕まってしまいますし」


 まったく、ずる賢い連中だな。


「よし、まずはあのスライムからだ。逃げた連中の事は後で考えよう」


「はっ!」


 リジェが合図をすると、果馬兵達が槍を構えて戦闘のスライム達に突撃する。

 十分な距離を取っての突撃攻撃は、果馬兵達の槍の威力を何倍にも高めて敵に襲い掛かった。

 だが……

 ブニョンという音でもしそうなほど形を変えたスライムだったが、すぐに何事もなかったかの様に果馬兵に襲いかかる。


「下がれ!」


 リジェの号令を受けてすぐに下がると、果馬兵達が居た場所に覆いかぶさるようにスライム達が襲い掛かった。


「果馬兵達の攻撃が効いてない? そんなスライム……まさか『武器封じ』か!?」


「『武器封じ』? それは一体どのような魔物なのですか?」


「スライムの一種だが、物理攻撃を無効にする厄介な敵だ。有効な攻撃手段は魔法しかない」


「承知しました。では果術兵、放て!」


「「「!!」」」

 

俺の説明を聞いたリジェは、即座に果術兵による魔法攻撃を選択する。

 果術兵達の放った魔法が『武器封じ』を焼き尽くし、破裂させ、凍らせてゆく。


「よし、効いてる!」


「このまま攻撃をしつつ村から引き離すぞ! 果馬兵は果術兵を乗せて移動! 他の者達は村に戻れ!」


「「「!!」」」


 物理攻撃しか出来ない果実兵や果弓兵では戦力にならないと、撤退を命じるリジェ。


「今、村に待機している果術兵と果馬兵に出撃の指示を出しました。戦力が揃い次第殲滅します」


「ああ、頼むぞ」


 よし、果術兵達が集まり次第反撃開始だ!

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