第15話 贈り物と友人の悩み

イブンに妙な勘違いをされてしまったが、とりあえず世界樹に関しては誤魔化すことが出来た。


「ところで、そんな風に上手く儲けたセイル君に提案があるんだ」


 と、イブンが胡散臭い笑みを浮かべてくる。


「お前、何を考えてる?」


 コイツがこういう顔になると、昔から碌な事にならないんだよなぁ。


「いや、そちらのお二人は君の大切な人なんだろう? だったら、プレゼントの一つも贈るのが男の甲斐性というやつじゃないかな?」


「むっ」


 それっぽい事を言っているが、要は儲けたならなんか買ってくれという事だろう。

 とはいえ、確かにラシエル達には世話になっている。

 なっているんだが……


「予算次第だな」


 正直、この村に帰ってくるまでに手持ちの金はほとんど使っちまってるからなぁ。

 イブンが思っているような大金は俺の懐には全くない。


「オーケーオーケー、あまり高価な品だと相手も遠慮すると言うんだろ? ちゃんと予算控えめで商品を提供させてもらうさ」


 うん、顔から儲けという字が消えていないから、間違いなく高い品を持ってくるぞコイツ。

 そしてちょっと待っていろと言って部屋を飛び出したイブンは、すぐに息を切らせながら戻ってきた。


「ここから選んでくれ!」


 そういってテーブルに乗せた鞄の中には幾つもの装飾品が並べられていた。


「これはなんですか?」


 装飾品に興味を引かれたらしいラシエル達が興味深そうに鞄の中を覗き込む。


「ウチの目玉商品ですよ。どうですかお二人とも」


「だから高い品は買えないって言っただろ」


「心配するなって。今回は商品の買い付けがメインだから、高額な品は持ってきていない。そういうのは店の方で売るからさ」


 お前今、目玉商品って言ったじゃん。


「まぁ良いか。ラシエル、リジェ、欲しいものがあったら言ってくれ。買ってやるから」


「「良いんですか!?」」


 ラシエルとリジェが目を輝かせて声を上げる。


「あ、ああ。とりあえず一人一個な」


 それにしても意外に食いついたな。


「はい! しっかり選びます!」


「そ、それでは私も……」


 ラシエルとリジェは興奮気味に装飾品を物色し始める。

 こういう所はやっぱり女の子なんだなぁ。


「これ綺麗ですよ!」


「こちらもお母様に似合いそうな色ですよ」


 二人の楽しそうな顔に、俺は思わず口元が緩んでしまう。


「私はこれにします!」


「私はこちらを」


 ラシエルとリジェが選んだのは、お揃いのネックレスだった。

 ネックレスの中心には小さな宝石がついていて、ラシエルの物には緑の、リジェの物には青の宝石がついていた。


「はいはい、銀貨3枚ですね」


 ラシエルとリジェが商品を決めたので、俺は代金をイブンに支払う。

 ううむ、結構な出費だ。


「ちなみに二人が選んだのは、高値で売れない小さなクズ宝石をあしらった低予算向けの品で、庶民に人気の品さ。しかも持ってきた商品の中では一番センスの良い職人が作った品だね。良い目利きをしているよ」


 それは二人のセンスが良くて良かったなって意味か?

 にしても、本当にお得な値段の商品を持ってきたな。

 本当に高価な品は持ってこなかったのか、それともこちらを警戒させないために今回は安い品を選んだのか。


「お兄ちゃん、付けてください!」


「我が王、私にも」


 購入したネックレスを手に、二人は俺に着けて欲しいとねだってくる。

 

「付けてやれよ」


 そっと俺だけに聞こえる様にイブンが囁いてくる。


「分かったよ」


 俺はネックレスを受け取ると、ラシエルとリジェの首にかけてやる。


「どうですか?」


 ネックレスを身に着けたリジェが、似合っているかと聞いてくる。


「ああ、とても似合っているよ二人とも」


「「っ!?」」


 二人は一瞬面食らったような顔になると、頬を赤く染める。


「「えへへ」」


 うーん、この笑い方、母娘だなぁ。


「なっ、たまにはこういう家族サービスも悪くないだろ?」


 ドヤーと言わんばかりの満面の笑みで、イブンが自慢げに言ってくる。

 確かにそうなんだが、その顔はウザいぞ。


「まぁな。たまには悪くない」


 悪くないんだが、財布の中身的に今後はキツいんだよなぁ。

 有事の際の為にやはりある程度の現金は欲しい。

 ここらで現金収入が欲しい所か。


「なぁイブン、お前の店で今欲しい品って何かあるか?」


 イブンも商人なので、今の流行りや需要は良く分かっている筈だ。


「ウチの店で? そうだね。今度とある貴族の屋敷でパーティが開かれるらしいから、その為の食材や装飾を探しているところだよ。あと会場を飾り立てる為の奇光石も欲しい所かな」


「メインは嗜好品か」


「そっ」


 貴族がパーティで求めるものと言えば、美味なる食材と自慢する為のお宝と相場が決まっているからな。


「ただなぁ」


 と、そこでイブンが困ったようにため息を吐く。


「どうした?」


「その貴族の注文が面倒でさ。この国の貴族の誰も食べた事のない珍しい食材を用意しろって言ってきたんだよ」


「外国の食べ物って事か?」


「貴族同士の見栄の張り合いさ。今度の招待客の中にライバルが居て、ソイツのパーティには絶対負けたくないんだってさ」


 成程、見栄の張り合いだ。


「ただ問題は金に飽かせて贅沢してる連中が知らない品を探すとなると、必然的に時間も金もかかる。しかも最悪なのは、パーティまでの時間が無いって事だ。どうも他の店がどうにもならなくなった案件をギリギリになってウチにぶん投げてきたらしい」


「うわっ、最悪だな」


 ライバル店の嫌がらせか、それとも本当にどうしようもなくなって泣きついてきたのか?


「これで駄目だったら貴族相手のウチの評判はガタ落ちだよ」


 などとボヤいているが、イブンはその注文を受ける気満々のようだな。

 事実、この無茶ぶりを成功させる事が出来れば、イブンの店は貴族たちの間で話題になるだろう。

 他の店では手に入らない品が手に入る名店だと。


 それにしても金に糸目をつけない貴族のパーティか。

 これはねらい目かもしれないな。


 イブンなら、出どころの情報を漏らす心配もないし、仮に脅されたとしても上手く誤魔化してくれるだろう。

 なら、今後の為にも一つ貸しを作っておくか。


「なぁイブン、提案があるんだが」

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