第13話 森の再生
カッツ達がリンゼ村へ帰った翌日、俺達はある問題に直面していた。
それは……
「良く考えたら、森の実りは期待できないよなぁ……」
「そうですね。ゴブリン達が無差別に収穫してきたせいで、森の植生が滅茶苦茶になっています。再び人が森の恵みを享受出来るようになるには早くても数年はかかるでしょう」
そうなのだ。カッツ達にはゴブリンの心配はもうないと断言したのだが、よくよく考えると森の恵みはゴブリン達によって食い荒されていた。
リジェ達に森を詳しく調べてもらったところ、ゴブリン達の無差別な収穫っぷりは予想以上である事が判明し、果物や山菜、キノコだけでなく、獣や森に流れる小川の魚に至るまで、ありとあらゆる食材が狩り尽くされつつあると判明してしまった。
尤も、当のゴブリン達は最後までその事実に気づいてはいなかったみたいだが。
「森の恵みにも限度があるって事に気付かなかったんだろうなぁ」
「だからこそ低級な魔物なのですね」
おかげでこのまま放置していたら、ゴブリン達は俺の予想以上に早く森の外へ略奪に出かけていただろうとの事だった。
「ラシエルと出会っていなかったら、どのみち干上がっていた訳か……」
そう考えると、ラシエルに出会えた俺は運が良かったと言える。
「しかしカッツ達にはなんて説明したもんか」
せっかく解放した森なのに、食料を得るのは無理ですよなんて言いづらいにもほどがある。
不幸中の幸いなのは、薪に使う木材は確保できそうなことか。
とはいえ、それでも食料問題が解決しないとどのみち村が詰んでしまう。
ラシエルに頼んで、森の恵みが確保できるようになるまでリンゼ村の為に食料を作って貰うか?
「それなのですが我が王、少々ご相談が」
と、リジェがかしこまった様子で俺に話しかけてきた。
「ん? 何だ? もしかしてあんまりラシエルに頼りすぎるなとかか?」
まぁ実際今の俺はラシエルの実りに依存してるからなぁ。
このうえ村一つ分の食料となるとさすがに負担がキツイか?
「いえ、我が王の為に実りをもたらすのはお母様の喜びですので、そちらは問題ないかと。私がお願いしたいのは、森の実りを蘇らせるための許可を頂きたく……」
「森の実りを蘇らせる? そんな事出来るのか!?」
マジかよ。そんな事が出来るのならぜひしてほしいんだが!?
「お母様のお力を借りれば容易な事です」
「ラシエルの?」
「はい。ゴブリンによって狩り尽くされた食用の木々や植物を実らせていただき、それを我らが森に植えます」
「え? それだけでいいのか? っていうか、それって畑の作物を別の畑に植え替えるのと同じじゃないか?」
一応元農民の息子的に言わせてもらえば、それはちょっと難しいんじゃないかと思うんだが。
田舎の開拓は大変だ。一言で畑を作るといっても、大きな岩があったり、根が深くまで張り巡らされた大木などがあると、それらの除去に時間と労力がかかる。
だから離れていても開拓が楽な土地に飛び地の畑をつくるのだから。
だが作物の植え替えが可能なら、そうした開拓が大変な土地を後回しにして先に畑を作っておき、村の近くの開拓が完了したら飛び地の畑から栽培中の作物を運んでくる事が出来るようになる。
「本来なら土の質が全く違う別の土地の畑で育った植物を植え替えるも同然の行為ですので馴染むまで手間暇がかかります。しかし世界樹であるお母様が生み出した植物ならば、移植先の土地に合った植物を直接生み出す事が可能です。故に森に植えるだけですぐに植生は回復します」
「そりゃ凄いな」
簡単に言うけど、それって凄い事だぞ!?
「同じ大地に住まう者として、森の荒廃は見過ごせません。どうか許可を頂きたく。それにこれならばリンゼ村の住民も森の恵みをすぐに享受する事が出来ます」
「分かった。そういう事なら許可するよ。ありがとうなリジェ」
「いえ、我が王のお役に立てるのならたやすい事です」
リジェの機転には助けられた。
これならリンゼ村の皆も助かるだろう。
◆
翌日、目を覚まして外に出ると、リジェ達がラシエルの実らせてくれたという植物の収穫をしていた。
「はー、これを土に埋めるだけで森が元通りになるのかー」
俺はラシエルが実らせた様々な植物を眺める。
「果物の成る木が数種類に山菜やキノコも沢山と、同じ樹から生えたとは思えない光景だなぁ」
というか、樹から木が生えている時点でかなりおかしな光景なんだけどな。
「それに猪に鹿に兎と……んんっ!?」
あまりに異様な光景に、俺は思わず振り返る。
「ど、動物が実ってる……」
いやまぁ、確かに以前肉の塊が実った事もあったけどさぁ。
「っていうか、何で動物が実ってるんだ!?」
「それですか? 私がお母様にお願いして実らせてもらったのですが」
さらりと当たり前の様に答えるリジェ。
「な、何で?」
「動物は森の木々や虫の間引きに大事な役割を持っていますから。森の実りを再生させるためには、森全体の生物の数を調整する必要があるのです」
「だ、だから動物も実らせたのか……」
「はい。それと獣の餌として魚もお母様に実らせてもらいました」
そう言ってピチピチと跳ねる魚を枝から引きちぎり、水の入った桶に放り込むリジェ。
「けどこれ、鹿やウサギは良いけど、熊とかは危なくないか?」
ふと、収穫して目を覚ました熊が暴れるのではないかと俺は不安になる。
もしも自分が生み出した生き物が俺達に襲いかかってきたら、ラシエルは悲しむだろう。
「それなら心配はいりません。お母様から生まれた生物はお母様の命令を聞きますし、我々の兄弟みたいなものですから。もちろん我が王の命令にも従いますよ。さぁお前達、森へ行きなさい」
リジェの命令を受けて、収穫された動物達が列をなして森へ向かってゆく。
肉食の動物も草食の動物も、争う事無くゆっくりと森へ消えていった。
「……あれ、本当に普通の動物なんだよなぁ?」
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